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第26話 山に登る理由とは? 「主」

※ツェンタリアが人間状態になったのはジーガーに会った時からです。また話に出てくる村人はツェンタリアの事をただの力の補給源としてしか扱っておりません。


今日のツェンタリアさん

「私も結構なものだとは自負していたのですがフロラインさんには完敗です……あれはきっと余裕の3桁でしょう。ですが感度なら負けな(ry」


「霊峰ゾンネが大変だというのは聞いておりましたが、流石にこの吹雪には何者かの悪意があるような気すらします。ご主人様が風を操って下さらなかったら台詞が全部『あああああ』になるところでしたよ」

●依頼内容「霊峰ゾンネに登って欲しい」

●依頼主「フェイグファイア国王トレイランツ」

●報酬「10万W」


「今日は凄い日だねぇ、元完璧勇者だけじゃなくまさか精霊さんとも会っちまうなんてさ」


 フロラインが呆れた顔で頬をかく。ツェンタリアは少し申し訳なさそうにした後、自分の出自を話し始めた。


「フロラインさんはグラウベリオンという国を知っていますか?」


「たしか、南西の熱帯地帯にあったっていうシャーマンの国だね?」


 ツェンタリアは「その通りです」と頷いた。


「私はその国の小さな村で奉られていた精霊だったのですよ」


 その通り、ツェンタリアはそこにいた。


「そしてその国を滅ぼしたのがエアルレーザーで……その村を滅ぼしたのが完璧勇者様とやらだ」


「なんだって、そりゃあ本当かい!?」


 俺の言葉にフロラインの顔色が驚きと怒りを混ぜっ返したものに変わる。


「そうッスね。とにかくその時期のアニキは怖かったって話ッス」


 フロラインの言葉にはノイが答えた。伝聞口調なのはツェンタリアの話が10年前の出来事であるためだ。ノイはその頃まだ子供だったので実戦には出ていなかったのである。ノイの話にツェンタリアが頷く。


「ええ、確かにご主人様は私を奉っていた村の人間を全て切り殺しました」


「そ、それじゃあツェンタリアは村人の仇と一緒にいるって訳かい!?」


 ツェンタリアが慌ててフロラインの言葉を否定する。


「い、いえご主人様は私を自由にしてくださったのです!」


「自由にって……どういうことなんだい?」


 困惑した表情で立ち上がろうとするフロラインをノイが諌める。


「フロラインさん、とりあえずアニキに謝っとくのが先ッス」


「……あ、悪かったね」


「いや、気にするな。第三者からすればそう見られても仕方ねぇからな」


 ノイに言われてすぐにフロラインが俺に謝った。何だノイも嫁さん(予定)の手綱を上手く握ってるじゃねぇか。暴走しかけたフロラインが収まったのでツェンタリアがホッと一息着いた。そして説明を再開する。


「先程は奉られていたと言いましたが、それはシャーマン側の言い分です。実際には馬状態の私を村人達に小さな社の中に無理矢理閉じ込めら、力を吸い出されていました」


「本来シャーマンってのは精霊と友だちになり、力を併せて戦う部族だ。しかし、中には精霊を閉じこめて強制的に力を奪う外法なシャーマンもいた。それが……」


「ツェンタリアがいた村って事かい?」


 フロラインが今度は神妙な顔になっている。コロコロ表情が変わるやっちゃな。


「あぁ、グラウベリオンを攻めてる時にやたらと強い奴がいたんで捕まえて聞いてみたら、村の場所を教えてくれたのさ」


「そ、そんな簡単に教えてくれるもんなのかい?」


「アニキは水を使った拷問が得意なんスよ」


 俺の言葉をそのまんまの意味で捉えるフロラインにノイが耳打ちしている。俺が拷問が得意なのは事実だ。なぜそんなもんが得意になったのかというと、世界図書館ヴェンタルブーボでの詰め込み教育の中にしっかりと拷問のカリキュラムがあったためである。勇者時代の後半期には噂が知れ渡ってしまい、俺が水のバケツを持って部屋に入って来るのを見ただけで「あ、あひゃあああああっ!」と悲鳴をあげながらション便と情報を漏らす奴もいた。


「なるほど確かに拷問が好きそうな顔してるもんねぇ」


「おい納得すんな」


 素直に納得しているフロラインについ素でツッコミを入れてしまった。ゴホンと俺は咳払いをして話を再開する。


「……まあそんな話を聞いて眉唾ながらも俺は村に攻め込んだんた。村の奥に着いた時は驚いたぜ、炎を纏った馬の精霊が社にギッチギチに詰められて力を吸い取られていたんだからな」


「はい、そして優しいご主人様は社を壊して私を自由にしてくださいました」


「うっとりと思い出に浸ってるとこ悪いんだが、ツェンタリア自由になってなかっただろ?」


 美化された過去を語るツェンタリアに訂正という名のツッコミを入れる。触れられたくなかった過去なのかツェンタリアが「うっ!?」っと声を出した。


「なんだいなんだいもう一波乱あるのかい?」


 それを見てウキウキしながら続きを促すフロライン。俺は「噂好きのオバちゃんか!」というツッコミもしようかと思ったが相手はツェンタリアではないのでグッと堪える。


「波乱ってほどじゃないんだがな。社を壊した時ツェンタリアは力を無理矢理吸い出されてた反動からか暴走して逃げちまったんだよ」


 多分本気を出せばツェンタリアに追いつけたと思う。だがエアルレーザーの命令はシャーマンの抹殺のみであり、精霊については殺せとも捕まえろとも言ってなかった。


 うん。今、思い返してみても随分なイエスマンだったもんである。


「確かそのあとツェンタリアさんはエアルレーザーの騎士団に捕まったんスよね?」


「ノイ様まで!?」


「諦めろツェンタリア」


 急に話に混じってきたノイにツェンタリアは狼狽する。フロラインも苦笑している。


「そこから草原にいた燃える馬をエアルレーザーが捕まえたって話につながるのかい?」


「ああ、その通りだ。ただし騎士団がやったのは草原で眠りこけていたツェンタリアをそーっと鎖に繋いだだけだがな」


「どおりでおかしいと思ったんだよ。腰抜け騎士団が精霊を捕まえるなんてさ。しかも精霊が草原に寝ていると来たもんだ。話ができすぎさ」


 フロラインも言っているようにここからは多くの人によく知られている話だ。①ある日騎士団が草原を走っている炎の馬を捕まえる。②捕まえられた燃える馬が暴れていた所に勇者が通りかかる。③そして燃える馬の首を撫でると急に大人しくなり、以降は勇者の愛馬となりました。ちゃんちゃん。


「まぁあの時エアルレーザーは俺を完璧勇者に仕立て上げたかったから、そんな美談にしたんだろうさ」


「勇者が敵とは言え村人皆殺し、炎の馬が草原で眠りこけてた。なんて子供に聞かせられないッスからねー」


「ほんとよく切り貼りしたもんだぜ話を聞いた時は『どちら様のお話で?』って感じだったしな……ん、どうしたツェンタリア顔を赤くして?」


 見るとツェンタリアが両手で顔を隠している。耳が真っ赤だ。そして消え入りそうな声で呟く。


「もうお嫁に行けない……」


 俺は小声で「俺のとこに来りゃいいさ」と笑った後、「さて、おやつの準備だ」と立ち上がる。


「待ってください、何か今ご主人様が素敵なことをおっしゃった気がします!」


 ガバッと復活したツェンタリアの「もう一度!もう一度だけお願いします! 先っちょだけでいいんです!」と言う懇願を笑って聞き流しながら俺は遅めのおやつを作り始めた。今日は焼きマシュマロだ。


 そんな俺達の様子をノイとフロラインは生暖かい目で見ていた。


◆◆◆◆◆◆


「さぁて、ここがザンゲリウム雪原……か?」


 猛吹雪の中を進んで開けた場所に出た所で俺は首をひねる。多分ここがそうだと思うのだが目印がなにもないのでわからない。霊峰ゾンネに詳しい二人とは休憩所からちょっと進んだ五合目で既に分かれた後だ。そのあと慣れない雪道を行軍して到着したのがこの場所である。


「あ、ご主人様。看板が埋まってましたよ。確かにここがザンゲリウム雪原のようですね」


「おー良かった良かった。こっちには来たことなかったから不安だったんだよ」


 俺はほっと胸をなで下ろす。


「っとなると、ここのどこかに今回の標的がいる訳か」


 俺はあたりを見渡す。うん、一面の雪景色で何がなにやら解りゃしねえ。


「あ、ご主人様あれを!?」


 ツェンタリアが何やら上空を指し示す。いや、上空じゃない……あれは? ツェンタリアは霊峰ゾンネの九合目あたりを指していた。そこにはノイとフロラインが吹雪にさらされている姿が見える。表情は確認できないが、かなり体力を消耗しているようだ。


「あっちも大変そうだな……」


「違いますよご主人様、あの吹雪おかしくないですか?」


「ん、どこがだ?」


 ツェンタリアの指がつーっと霊峰ゾンネを麓から頂上までなぞっていく。それをたどって視線を動かした俺は「なるほどねぇ」っと苦笑した。そしてこの異常な吹雪についても合点がいった。ここから見る限り、吹雪が猛威を振るっているのは九合目のみである。つまりノイ達のいる付近だけが異常な吹雪に見舞われているのだ。


 山の天気は変わりやすいとは言っても、あんな局地的に悪い天気は見たことがない。どころかノイ達が少し進めば吹雪もそれを追っている。


「っと言うことはもしかして?」


 俺は独り言を言った後、思いっきりジャンプする。足場が悪い雪原とは言え本気を出せば500メートルくらいは飛べる。そして、そこまで飛べば俺達の周辺を見渡すのには十分な高さとなる。


 俺は周囲を確認すると「やっぱりな」と言いながら着地する。


「どうでしたご主人様?」


 流石先に気づいただけあってツェンタリアは俺のジャンプの意図を理解できているようだ。俺は着地した姿勢のまま答える。


「ノイ達と同じで俺達の付近にしか吹雪は発生していなかったよ」


「……やはりこの吹雪は何者かが意図的に引き起こしているようですね」


 ツェンタリアが空槍ルフトを荷物から取り出す。


「ああ、そしてバンデルテーアの遺産のゴーレム以上の吹雪を操れる生物なんてそう世の中にいるもんじゃねぇ」


「っと言うことは……」


 ツェンタリアの言葉を俺が続ける。


「精霊だ。近くにいるぞ」


 俺は右手をスナップしながら意識を集中し始めた。


■依頼内容「霊峰ゾンネに登って欲しい」

■経過「ノイ達:9合目まで踏破 俺達:ザンゲリウム雪原にて接敵」

ブックマークありがとうございます。K●NAMIになりま……HAGEMIになります。

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