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第24話 昨日の敵が今日の俺

今日のツェンタリアさん

「まさか安眠だけでなく利尿の効果もあるとは知りませんでした……いえ利尿の効能でどうこうしようなんて思ってませんよ? 私はノーマルかつパーフェクトにご主人様と愛し合いたいのです」


「橋の破壊こそ防ぎましたが、ご主人様から逃げおおせるとはバンドゥンデン様、侮れませんね。それにしても沢山のご主人様に囲まれて、幸せな任務でしたねぇ」

●依頼内容「フレート川にかかるネイベル橋の破壊」

●依頼主「エアルレーザー国王リヒテール」

●報酬「6万W」


 今日は俺が朝食当番。ジーパンにTシャツ(【ロリコン不死鳥】と書かれている)といういつもの格好の上にエプロンを付けてクッキングだ。テーブルに焼き魚、ワカメの味噌汁、だし巻き卵を並べていく。それを見ていたツェンタリアから質問が飛んできた。


「前から聞きたかったのですが、ご主人様はどちらで料理を覚えたのですか?」


「どうした急に?」


 俺は牛乳をツェンタリアのコップに注ぎながら「いただきます」をする。


「あ、ありがとうございます。いただきます……うーんやはりご主人様に作っていただいたご飯は格別ですね」


 ツェンタリアは美味しさの表現なのか一口食べて頬を抑えてクネクネする。それを見て俺は苦笑する。


「まあツェンタリアがそう言うんならそうなんだろうな。俺自身はあんまり上手くなった実感ってのは無いんだがなぁ」


 ツェンタリアは少しの間うーんと腕を組む。


「なんと申しましょうか、ご主人様が作った料理には細部にまで妥協が無いんですよね」


「あーそれはあるかもな。何しろ向こうの世界では中学生時代はうっさい妹に、高校入ってからはうっぜえ先輩共にギャーギャー言われてたからなぁ」


「なるほど私とは場数が違うのですね」


「そうそう、才能的なもんじゃ無いんだからすぐツェンタリアの方が上手くなるぜ」


 俺はここ最近キッチンに立つ回数が減ってきている。それに対して元々覚えの速いツェンタリアは料理の腕をどんどん上達させているのだ。このまま行けば俺が抜かされるのも時間の問題だろう。


「ごちそうさまでした」


「早いな?」


 ツェンタリアのお皿を見ると全て平らげてあった。お皿の上には綺麗さっぱり何もない……何もない? 俺はツェンタリアに疑問に思ったことを尋ねてみる。


「ツェンタリア、魚の骨はどこ行った?」


「何を言ってるんですか。私がご主人様に作っていただいたご飯を残すとでも?」


 ツェンタリアは「さも当然」といった口調で答える。うん、現時点で既に食欲では完敗してるな。それ自体はいいことだ。


「まあ悪いとは言わないが喉に刺さらないように気をつけろよ?」


「はーい」


 良い返事だ。普通ならこれでおしまいなのだがだが、今回はもう一つ気づいた事がある。それは魚の骨を食べることよりも、もっと問題のあることだ。


「皿の上に乗ってた飾り付けの葉っぱはどこいった?」


「えぇ!? 青々しくて美味しかったですよ!?」


 それを聞いて「あっ」と俺は色々察した。……前言撤回、料理でツェンタリアに抜かれるのにはもう少し時間がかかるだろう。少なくともツェンタリアが『人間が食べられる物』と『人間が食べる物』の区別ができるようになるまでは負ける気がしない。


◆◆◆◆◆◆


「今日もまたネイベル橋なんですね?」


 馬上の俺は「あぁ」っと頷いた。つい先日ゲルトのバンドゥンデンから守ったばかりのネイベル橋に俺達は向かっている。


「今回の依頼もヴァリスハルト様からですか?」


「いや、今日の依頼はエアルレーザーのリヒテールだ。当然防衛任務でもない」


「え、それはまさか?」


「昨日のゲルトは今日の俺ってやつだな」


 俺はなんとも微妙な笑みを浮かべた。


◆◆◆◆◆◆


 俺とツェンタリアはそんなこんなでネイベル橋に到着した。そしてまたあの木に上って橋を観察し始める。


「天使兵がたくさんいますね」


「そりゃゲルトにあんな事やられりゃなぁ」


 パラディノスという『国家』がゲルトという『組織』に脅迫されたあげく、経済の大動脈が切断されそうになったのだ。当然警備も強化されている。具体的に言えば巡回している人数はゲルトの2倍、そして高い位置にいる見張りには双眼鏡を持たせ、ネイベル橋の周辺を見張らせている。


「それにしてもヴァリスハルトの奴、ちょっと警備強化しすぎじゃねえか?」


「え? ご主人様が正面突破して柱を1つづつ砕いていけば良いんじゃないですか?」


「そうしたいのはやまやまなんだがなぁ……」


 そう言いながら俺は手に持った丸い玉を見つめた。これはリヒテールから貰った爆弾である。


「『橋の破壊方法は爆弾で』とはリヒテールのオッサンも意地が悪いねぇ」


 俺の言葉を聞いたツェンタリアが少し考えこむ。


「えーっとつまりリヒテール様はゲルトに罪をなすりつけるおつもりなのでしょうか?」


「まあそうなるな。少なくともパラディノス側はリヒテールを犯人とすぐには断定しにくい。何しろバンドゥンデンが爆弾を使っていたからな。だから俺達は顔を見られちゃ行けないんだよ」


「顔を見られずに橋を爆破するなんてことが本当に可能なのでしょうか?」


「だから今から可能になるように知恵を絞るのさ」


 そう言って俺は下手くそなウィンクをしたあとネイベル橋の図面を広げる。ちなみにトップスピードで移動すれば顔を見られずに橋を爆破することはできる。しかしそれができる人間が世界に何人いるかといえば……まあすぐにバレるだろうな。


「皮肉なものですね。橋を守るために貰った図面が、今度は橋を破壊するために使われるのですから」


「甘いぞツェンタリア、大甘だ」


「……どういう意味でしょうか?」


 俺の言葉を『傭兵としての心構えが甘い』という意味で取ったのかツェンタリアが不機嫌になった。俺は苦笑しながらなるべく柔らかく訂正する。


「ツェンタリアが思ってる意味じゃねえよ。ヴァリスハルトの事を甘く見すぎだって意味さ。ここをよく見ろ」


 俺は地図の端に書いてある文字を指差した。


「ネイベル橋設計図面、これが何か?」


 ツェンタリアがそれを見て首をかしげる。まあこれだけ見せられても意味は分からないか。


「いいか、建築物を作った際に手元に残る図面は二つある。まずはどのような橋を作るのかを施工する人間に伝える設計図面だ」


「それが今ここにある図面ですよね?」


「その通り。んでここで大事なのが設計図面を参考にいざ工事を始めてもその通りに建築物が作られる事なんてほとんど無いんだ」


 俺の言葉にツェンタリアが驚く。


「えぇ!? それってマズいんじゃ!?」


「まあそう思うかも知れない。だが見直しに見直しを重ねて設計図面を作ったとしても、やっぱり想定できない事柄も出てくるし、作る人間も神様じゃねぇんだからどこかでズレたりするもんなんだよ」


「なるほど、一流料理人のレシピを真似しても同じ味にならないのと似ていますね」


「良いたとえだな。んで実際に作ってみてズレた箇所を設計図面に落とし込んで修正したのが竣工図面ってやつなんだ」


 コメカミに手を当てて顔をしかめながらツェンタリアが言葉を絞り出す。今までの会話内容を自分なりに整理しているようだ。


「えーと、つまり竣工図面ではなく設計図面をご主人様に渡したヴァリスハルト様は……ご主人様が敵になる可能性も考慮していたと?」


 俺はよく出来ましたとばかりにツェンタリアの頭を撫でる。


「その通り。だからヴァリスハルトはあんだけネイベル橋の警備を強化してんだよ」


 物事を常に悲観的に捉えるヴァリスハルトは「ゲルトがネイベル橋の重要性に気付いたという事は、他国の王も気付くはずだ」と考えるだろう。アイツはそう言う奴だ。


「なるほど、対ご主人様を想定して負けないよう警備を強化しているわけですね?」


「いや、あれは人質だな」


「今警備についている天使兵の方々がですか?」


「あぁ、何しろ頭の良さだけで他国と渡り合ってるヴァリスハルトだ。今までの俺の仕事を分析して『ジーガーは人を殺したがらない』と言う結論にたどり着いてたとしても不思議じゃねぇ」


「で、ではどうするのですか?」


 ツェンタリアの顔に焦燥が見える。そりゃそうだろう。この任務は色々と面倒な制約が多い。


 簡単にまとめるだけでも3点の制約がある。①ゲルトを犯人に仕立て上げる必要があるので顔を見られてはいけない。②橋の破壊には爆弾を使わなければいけない。③かと言って死人は出したくない。


 俺は腕を組んで「うーん」と唸る。ツェンタリアも「ど、どうしましょう」といった風だ。


「…………」


 考え事をする時は目をつぶったり一点を見続けることはしない。とにかく色んな物を見て頭に刺激を与えることが重要だと俺は考えている。左右の風景を見渡してヒントを探す。


 そして「……おっ?」と俺は声を上げた。ツェンタリアが「何か思いついたのですか?」と聞いて来るが、少しの間それには答えず頭の中で計算を組み上げていく。そして頭の中で「チーン」という音が鳴った。


「よし、ツェンタリア。この依頼達成できるぞ」


「本当ですか!?」


「ここで嘘ついても虚しいだけだろ。とりあえず移動するぞ」


 そう言って俺は木から飛び降りた。


◆◆◆◆◆◆


「それじゃあいくぜぇっ!」


 目的の場所まで移動してきた俺はリヒテールから受け取った玉を目標に向かって思い切り投げた後、魔力を発射する。魔力が玉に命中し表面に幾何学的な文様が現れたと思った次の瞬間、玉が割れ、あたり一面を吹き飛ばした。


 ガシャアアアンとガラスが割れるような音を立てて巨大な氷が砕けてフレート川に落ちていく。


「あとはネイベル橋に氷が到達するのを待つだけですね」


「あぁ、あの大きさの氷がフレート川の急流に乗ればネイベル橋は破壊できるだろうよ」


 ツェンタリアを走らせて俺が到着したのはフレート川の上流にある雪山である。俺が考えついたのは、ここから大きな氷を流してネイベル橋を壊す作戦だ。


「双眼鏡を持った見張りもいるので避難についても心配ないですしね」


 ツェンタリアの言うとおりである。この方法なら1番の懸念事項であった死人がでる可能性を限りなく0に近づける事ができるのだ。ヴァリスハルトが見張りが増やした事を逆手に取った形である。


「さて、それじゃあ帰るかね」


「結果を見ていかないのですか?」


「バカな放火魔は現場に戻るって言うからな」


◆◆◆◆◆◆


 翌日の朝刊の一面にはパラディノスのネイベル橋崩壊の記事が載っていた。


「やりましたねご主人様」


「あぁ……」


 朝食を並べるツェンタリアに俺は会心の笑みを返した。橋が目論見どおり壊れたためではない。それは既にベイルムで確認してある。


 なぜ俺が笑みをこぼしたのか。それは記事が『パラディノスの見張りの強化が功を奏し、負傷者はいなかった』という文章で締められていたためである。


■依頼内容「フレート川にかかるネイベル橋の破壊」

■結果「橋の破壊、ゲルトへの罪のなすりつけ、負傷者なし全てを達成した」

■報酬「6万W」

ブックマークありがとうございます。スーパー●イズ・ミーになりま……励みになります。

『舞台説明並びに人物紹介等』を少し更新いたしました。

また、明日は更新は行わず、8話から出来る限りの文章の修正等を行いたいと思います。

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