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第15話 金と戦士は使いよう

今日のツェンタリアさん

「浴衣! いいですね! 特に私の豊かな胸を浴衣からチラリと見せることによって魅力が2倍! そして絹のような黄金色の髪を結い上げて見せるうなじによって魅力が更に倍! そこにいつもより3倍のボディタッチでご主人様の理性を超える12倍の(以下略」


「今回は随分と早く依頼が終わりましたね。それにしてもマグマの時といい、今回の水といい、ご主人様は一体どの程度まで物を操れるのでしょう? ちょっと前に『俺はツェンタリアと違って人間だから炎や水を操ることはできても0から1を生み出すことはできねぇのさ』とかおっしゃってましたが、十分人間離れしているような気がするのは私だけでしょうか?」

●依頼内容「ジュメルツと言う戦士の実力を見てほしいデース」

●依頼主「世界一の大商人クオーレ」

●報酬「3万W」


「ご主人様は一人っ子ですか?」


 今日は依頼で指定された時間に余裕があるため、ツェンタリアとゆっくりと目的地に向かって歩いている。そんな最中にでてきた質問がこれである。


「いや、年の離れた妹がいてなぁ」


「えぇ、そうだったのですか!? てっきり一人っ子かと」


 意外そうな顔をするツェンタリア。そんなツェンタリアを見て俺はニヤニヤしながら問い詰める。


「今のツェンタリアの言葉にそこはかとなーい『なにか』を感じたんだが気のせいか?」


 たしかに俺はよく一人っ子だと勘違いされる。その理由はやれ傍若無人だからだの唯我独尊だからだのと、あまりよろしくない理由であることが多い。


「い、いえそんなことは。どういった義妹さんなんですか?」


 ツェンタリアは慌てて否定したあと話題を俺の妹に移す。


「何勝手に義理にしてんだよ。そうだなぁ……俺がこっち来たときには妹は10才だったか、まぁ生意気盛りだったよ。俺の食事に対して『くっそ不味い! しんじらんないバカ兄貴!』とか言ってたしな」


 アイツ元気でやってるかなぁ。まぁ元気でやってんだろうなぁ。などと青空を見上げながら考えているとツェンタリアが何かを勘違いしたらしい。


「あのー私でよければご主人様の妹になりますよ?」


「はぁ?」


 気を使ってくれるのはありがたいのだが、ツェンタリアが妹になるには問題が多数ある。その中でもとびきりな問題点を聞いてみる。


「ツェンタリアって歳いくつだっけ?」


「108歳です」


 淀みなく応えるツェンタリアさん。まあ確かに自我が芽生える前も含めたらそんくらいになるか……って!


「俺の曾お婆さんより長生きじゃねえか!」


「だ、大丈夫です。精神年齢は若いですから!」


「完全に色々とこじらせたお局様の思考じゃねえか!」


 そんなこんなしている内に依頼の場所が見えてきた。


◆◆◆◆◆◆


「ここがヴェバイスコロシアムですね、ジーガーちゃん?」


「そ う だ ね ツ ェ ン タ リ ア お ね え ち ゃ ん !」


 俺は半ばヤケクソに答える。あぁやっとこの地獄から解放される。先ほどの言い争いの結果、このコロシアムに着くまでの間ツェンタリアを姉として扱うことになっていたのだ。手までつなぎやがって……まあ良いけどよ。


「さて、それじゃあいくぞツェンタリア」


「はい、ご主人様」


 俺とツェンタリアに共通している点がある。それは頭の切り替えが早いと言う点だ。手を話した途端、俺たちはごく自然に仕事モードに入った。こんな芸当ができるのも日常と非日常の区別なく戦い続けた日々から得た習性なんだろうなぁ。


 ともかく、俺達は傭兵としてヴェバイスコロシアムに足を踏み入れた。


◆◆◆◆◆◆


「ジーガーさんお久しぶりデース!」


「や、やぁクオーレさん久しぶりですね」


 高さ的にも値段的にも1番高い席に案内された俺はクオーレから熱烈な歓迎を受ける。もう予想ができているかも知れないが、このヴェバイスコロシアムはクオーレが建てたものだ。


「さぁドーゾドーゾ」


「ありがとうございます」


 俺とツェンタリアはクオーレに促されて席に座った。コロシアムの真ん中では剣士と格闘家が戦っている。大きなボードには準決勝第二試合と書かれ、観客はそれを見て盛り上がっている。


「どうデース、スゴいでショ?」


「ええ建物と観客の熱気はスゴいですね」


「ハハハ、やはりジーガーさんは手厳しいデース」


 俺がいま戦っている二人を褒めていないことはクオーレにも伝わったようだ。剣士は並、格闘家は少しマシだが実践的な動きをしておらず、その実力派エアルレーザーの三馬鹿にも劣っている。


 さすがにこの二人のどちらかが今回の依頼で腕試を見て欲しいと書かれていたジュメルツと言うことはないだろう。俺は試合から意識を話した。


「ところでツェンタリア、さっきから何をキョロキョロしてるんだ?」


 隣に座っているツェンタリアは試合を見るわけでもなく、先ほどからキョロキョロして首をかしげている。


「イケメンでも探してるのかぁ?」


「いえ、イケメンはもう私の隣に見つけてます。……なぜかこのヴェバイスコロシアムに見覚えがあるような気がしまして」


 ニヤニヤしながらの質問を真顔で返されて少し俺が言葉に詰まる。するとタイミングよくクオーレが話に加わった。このあたりの呼吸はさすがは世界一の商人である。


「このヴェバイスコロシアムはパラディノスのベルテンリヒト内にある訓練所を元にしてマース」


「あぁだから見覚えがあるのか」「なるほど」


 俺とツェンタリアの言葉が被る。言われてみると客席こそ豪華になっているが剣士と格闘家が戦っている場所は、確かに俺がカーカラックと戦った場所にそっくりだ。


「なぜ同じにしたのですか?」


「パラディノスのヴァリスハルトさんはワタクシの良きお客様デース。前にベルテンリヒトに行った時、訓練所の大工さんの名前を教えて貰いましタ」


「へぇ」


 まあ世界一の金持ち国家のパラディノスと世界一の金持ち商人のクオーレが繋がっているのはおかしな話ではない。しかし腑に落ちない点がある。


「ですがなぜ同じにしたのですか? クオーレ様ならもう少し豪華にもできたのではないでしょうか?」


 ツェンタリアも同じ疑問を持っていたらしい。


「良い質問デース。その質問に対しての答えは二つからなりマース。1つ目はまず同じ意匠、同じ素材をする事による設計費用の削減効果デース!」


「それはわかるのですが……」


 口ごもるツェンタリアを見てニコニコしながらクオーレがVサインを作る。いや、これはアンサーの2つめという意味なのだろう。


「まあまあ重要なのは二つ目、お客様は常に本物を求めるのデース!」


「本物を求める……本物志向というものでしょうか?」


「つまり『普通の人じゃ入れないベルテンリヒト内の訓練所と同じ場所で戦士たちの真剣勝負が見られる』ってことを売りにしてるんだろ?」


 俺の補足を聞いてクオーレは満足そうな顔をした。……まあ同じなのは場所だけで戦いの内容はお粗末極まりないがな。


 話が一区切りついたところを見計らったかのように、カンカンカンと鐘がなった。ヴェバイスコロシアムの真ん中を見ると剣士が倒れ、格闘家が両腕を突き上げている。


「おお、試合終了デース」


 しかし、クオーレは興味なさげにチラリとだけ目線をやっただけだ。やはり今戦っていたのがジュメルツではないらしい。


「それで、俺は今日何をすればいいんだ? 腕相撲でもすりゃ良いのかね?」


「今の勝者とジュメルツとジーガーさんに三つ巴で戦って貰いマース」


「へぇ、それじゃあ今日の観客は本物の瞬殺を見れるのか。ラッキーだねぇ」


「そうなるかもしれませんしそうならないかもしれませんヨー?」


「あのー、でしたら私が出ましょうか?」


 おずおずとツェンタリアが手を上げる。


「……………………」


 今までハッハッハと陽気に笑っていたクオーレが急に黙った。俺もあちゃーと頭に手をやる。ガヤガヤとしているヴェバイスコロシアムでここだけ2・3度は気温が下がったようだ。


 ちなみに聞こえてきたアナウンスによると10分後に決勝が執り行われるらしい。「意外とインターバル少ないな」と少しだけ現実逃避をしたあと俺は仕方なく口を開いた。


「ツェンタリア、例えばお前が大好きなクレープ屋に行ったとして、出てきたのがおにぎりだったらどうなる?」


 ツェンタリアは僅かな時間考えていたが俺の言わんとしている事を理解してくれたらしい。「あっ」と小さく声を出したあとクオーレに「出すぎた発言でした」と頭を下げた。それを見てクオーレが元の人懐っこい柔笑みに戻る。


 まあ要するにクオーレは一つの石で二羽の鳥を狙っているのだ。1羽目は依頼にもあったジュメルツの腕試し。2羽目がついでにそれをエンタメにしちまおうって訳だ。


 先ほどの説明通りここに来ている観客は本物志向が強い。だからクオーレは本物の勇者をやっていた俺を見せて観客の満足度を高めたいのだ。先ほどツェンタリアに大人げないとも思えるような態度を見せたのも、絶対に俺に出場してもらうという強い意志の現れだろう。


 本当に厄介なオッサンだな。


◆◆◆◆◆◆


 カーンと鐘がなる。俺は先ほどまで見下ろしていたコロシアムのフィールドに立っていた。


 右45の所に先ほどの格闘家、左45の所に噂のジュメルツが立っている。驚くことにジュメルツはこの暑い中、金属製の兜に鎧に盾に剣に小手にと体全体をフル装備で覆っている。顔にもマスクをしており性別はわからないが身長は思ったよりも低い。


 しかし、油断は禁物だ。先ほどのアナウンスを聞く限り、この決勝までジュメルツは全て完勝で勝ち上がってきているらしい。まあ確かに、かなりの腕前であることは隙のない構えからなんとなくわかる。


 ちなみにアナウンスで俺は『絶対無敵の元完璧勇者ジーガー』、格闘家は『努力家オルデン』と紹介されていた。俺の元完璧勇者ってのもアレだが、努力家ってのも寂しいもんだな。


 ちなみにやる気満々な二人の格好に比べて俺の服装はいつもどおりジーパンにTシャツ(【NOT神奈川】と書かれている)である。


「ご主人様頑張ってくださーい!」


「おぅ頑張るべーい」


 良いタイミングでツェンタリアの応援が聞こえたので振り向いて手を振る。その隙を逃すまいと後ろで二人の動く気配がした。


「あ、危ないご主人様!」


 ツェンタリアが叫ぶが歓声にかき消されて聞こえない……というのは俺の演技だと気づけたのはジュメルツだけだった。


「ギャフウウウウウン!」という声と共に吹っ飛んだのは努力家オルデンだけ、ジュメルツは俺の回し蹴りを間一髪盾でガードしていた。


 しかし俺の攻撃を直にうけただけ合ってダメージはでかい。マスクが取れかかっている。


「へぇ、今のをガードして体勢を崩さないとはやるねぇ」


「芝居に気づいたことは誉めないのかしら?」


「……は?」


「な、なによ?」


 思っていたよりも甲高いジュメルツの声に俺は面食らう。やがてジュメルツのマスクがぽろりと落ちると、なんとまぁ可愛らしい顔が出てきた。


「いやに小せぇと思ったが女か」


 ムッとしたジュメルツは頭をかきながら苦笑する俺に向かって再び剣を構える。まだあどけない印象のある少女だが、表情は真剣そのものだ。小さいながらも俺を倒すという気合いがみなぎっている。


「女では不足かしら?」


「女には手を上げるなって昔から躾を受けててなぁ」


「ご主人様! 私は? 私は!?」


 ツェンタリアが大きな声で話に加わってこようとするが「お前は特別なんだよ!」と言う言葉で黙らせる。


 それを見ていたジュメルツがフフッと笑った。一見緊張を解いた笑みに見えるが、俺からすれば次の行動に移るための溜めだとバレバレだった。


「ならば大人しく女に負けなさいっ!」


 くっそまじめな格好に身を包んだジュメルツがくっそまじめに直進してくる。


「裏のないエアフォルクみたいな奴だな」


 俺は苦笑しながらジュメルツの顔に向けて前蹴りを繰り出す。


「なっ!?」


 その蹴りでジュメルツの持っている盾をはじき飛ばす。両腕が上がってしまい完全に無防備になったジュメルツと距離を詰める。するとジュメルツが忌々しげに口を開く。


「女に手を上げないんじゃなかったの!?」


「だーかーらー、手は使ってないだろ?」


「く、クソッ!」


 俺はにっこりとほほえみながら、ジュメルツの腹に強烈な膝を入れた。


 ズンと言う鈍い音がヴェバイスコロシアムに響いた。そのあまりにも生々しい戦いの音に先程までワーワー騒いでいた観客がピタリと静まりかえる。


「カハッ……」


 その静まりかえったヴェバイスコロシアムで音を発するのはガチャンと倒れるジュメルツのみだった。


 すぐさまカンカンカンカーンと鐘が鳴らされる。試合時間は数秒だった。瞬殺を狙ったのだが意外と粘られたもんだな。


「それにしてもコイツ、膝の入るギリギリで両腕でガードしやがったか……」


 俺の言葉どおり、ジュメルツは打ち上げられていた両腕を何とか下げて俺の膝を受けていた。こういう無茶な動きができるのも日々努力をしてシッカリとした体を作ってきていたからであろう。


 俺は「ふーむ」と考えこむ。


 攻撃は直線的で単純だが防御の技術には眼を見張るものがある。更にまだ若く将来性も加味すると……俺はジュメルツの合否をしばらく考えた後、クオーレに向けて両手で○を作った。


 そして聞こえてるかはわからないがジュメルツに顔を近づけてこう囁いた。


「今度はこんな遊び場じゃなくて本物の戦場でやろうぜぇ?」


◆◆◆◆◆◆


「それにしてもご主人様容赦なしでしたね」


「まあなぁ」


 ツェンタリアが言っているのはジュメルツを一撃で沈めたあの膝蹴りのことである。


「そんなにあのジュメルツ様は強かったんですか?」


「いやー強くはなかったが、ちょっとお灸をすえてやろうかと思ってなぁ」


 頭を攻撃された人間はスパっと意識が飛んで倒れる。腹を攻撃された人間は悶絶しながら意識を手放す。今のツェンタリアの言葉は『腹を狙うしかなかったのですか?』という意味で、俺の言葉は『いいやわざと凄惨な方法で倒したかったんだ』というわけである。


 一応言っておくと別に俺はドSではない。


「そんなお灸をすえられるようなことをジュメルツ様おっしゃっていたのですか?」


「いいや、お灸の対象はあのコロシアムにいた観客共だよ。自分たちはこの上なく悪趣味なくせにちょっと本物の戦場を見せただけでブーブー言いやがって」


 ジュメルツが担架に乗せられて退場した後、『本物志向の観客様』が俺に浴びせたのは多大なる賞賛の言葉ではなくブーイングだった。


「あれくらい戦場ではよくあることなんですけどねぇ」


「陵辱が始まらないだけ優しいよなぁ?」


「いや、その発言には賛成しかねますけどね」


「そうかい? ま、それにしても疲れる任務だったぜ」


 その言葉を聞いてツェンタリアのテンションが急に上がる。珍しく俺が疲れていると言ったのでチャンスだと考えたのだろう。「大丈夫ですか? おっぱい揉みますか?」などと言っている。


「魅力的な提案だが息子たちが3億人くらい死にそうだからやめとく……サラバ!」


「あ、ご主人様!?」


 しかし、俺も慣れたものでちゃんと(?)断った。更にツェンタリアに二の句を継がせないため走って帰った。


■依頼内容「ジュメルツと言う戦士の実力を見てほしいデース」

■結果「ヴェバイスコロシアムで腕試しを行い、将来性も加味した上で見込み有りとした」

■報酬「3万W」

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