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第14話 どぉれ

今日のツェンタリアさん

「酒は飲んでも飲まれるなとは、よく言ったものですね。ご主人様も私も完全に寝過ごしてました。やはりワイン風呂はマズかったですね。反省です。あ、ちなみにグロッキーになったご主人様は襲いませんよ? それはなにか違うと思いますし」


「広場での話をご主人様から聞きました。あのオオカミさん辛かったでしょうね……私には元々家族というものがいないのでわからないのですが、大切な人が目の前からいなくなってしまう恐怖……想像するだけで身が裂けそうです。オオカミさんには今度美味しいご飯でも持って行ってあげましょう」

●依頼内容「フォルストル内の洞窟に住み着いたカーカラックを撃滅せよ」

●依頼主「アップルグンド国王シュタルゼ・フェイグファイア国王トレイランツ」

●報酬「2万W」


「あ、あんた達がトレイランツ王の言っていた助っ人か?」


 目の前にいるフェイグファイアの竜人が不安そうな顔でこちらを見てくる。


「助っ人かぁ。そりゃ良いな」


 ニッヒッヒと笑った後、俺は堂々と頷いた。なぜ笑ったのか? それは俺とツェンタリアが浴衣を着ているこの状況に「助っ人」という言葉が非常にマッチした言葉であったためである。昨日の夜、むこうの世界の服の話になり、ツェンタリアに浴衣を着たいとせがまれたのだ。


 最初はツェンタリアだけ浴衣を着ていたのだが「ご主人様と一緒に浴衣で歩きたいのですが……」と上目遣いで頼まれた。そこで俺は考えた。ここで俺が浴衣を着てただ散歩をして終了では味気ない。一日ずっと着てみてこそ浴衣の良さがわかるというものだ。っというわけで「明日の依頼は浴衣を着てこなしてみないか?」と提案してみた。これにはツェンタリアを最近戦闘に参加させられてなかった詫びも込められている。それを聞いてツェンタリアは飛び跳ねて喜んでいた。


「……道化師じゃないんだよな?」


 さて、そんな恰好なので竜人はまだ信じていないようだ。そりゃそうだろう。東京音頭などと書かれた浴衣を着ている人間をいきなり信じるようならそちらの方が問題だ。


「フッフッフ、この依頼文書が目に入らぬでしょうか!?」


 ツェンタリアが懐から一枚の紙を取り出して竜人に見せる。口調が頭悪いのは俺が喋って聞かせている水戸黄門の真似をしているためである。もちろん取り出したのは印籠ではなく依頼文書だ。フェイグファイア竜王トレイランツとアップルグンド魔王シュタルゼの署名が入っている。


「こ、これは失礼しました!」


 それを確認したとたん竜人はビシィッと敬礼する。それを右手をヒラヒラしながら制する。


「いやこちらの方こそふざけた格好ですまなかった。それで、カーカラックが現れた場所はどこだ?」


「少々お待ちください!」


 懐から地図を取り出す竜人。それを見てみると現在俺達がいる地点から東にフォルストル、○印、魔王城が書かれている。竜人はその○を指差した。


「カーカラックはフォルストル東に位置するグラッペ洞窟にいることが確認できております! 周りに民家等は無く、現在立ち入りも制限しております!」


 この竜人は根が真面目なのだろう。実にテキパキと説明してくれた。ただ耳元で大声を出すのは止めてほしいなぁ。


「オーケーありがとう」


「本来は私がご案内できれば良いのですが!」


「いや気にするなって」


 竜人がついてこないのはむしろありがたい。弱くてうるさいのがそばにいると気が散って面倒だからな。しかし竜人には俺がどう考えているかはわからない。なにやら「流石はジーガー殿はお優しい」などと勘違いして感動している。まあ否定する必要もないので誤解させておこう。


「ご武運をお祈りしております!」


「……」


 竜人の意外な言葉に少し驚いて真顔になった。


「な、何か失礼でも致しましたか!?」


 真顔になった俺を見て竜人は怒らせてしまったのかと狼狽している。それを見て俺も「誤解を深めてはまずい」とすぐさま顔の表情を緩め、なるべく柔らかく笑う。


「いや、今どき心から相手の無事を祈るなんて珍しいな、アンタ」


「ま、まずかったでしょうか?」


「いや尊い。それじゃあ行ってくるぜ」


 そう言って俺とツェンタリアは久しぶりにフォルストルに足を踏み入れた。


◆◆◆◆◆◆


 ザガガガッ


「あ、見てくださいご主人様、道ができましたよ?」


「人の顔を覚えてるなんて記憶力の良い森だなぁ」


「ウフフ、それだけご主人様が怖かったんじゃないですか?」


 前に魔王城に行った際に脅されたのを覚えていたのかフォルストルが道を作る。……だがいきなりそれを信じるほど俺も馬鹿では無い。右手をスナップしながら森に語りかける。


「嘘だったら一本残らず刈り取って丸ハゲにするぞ?」


 両手で扱う大きなはさみを取り出しながら俺がそう言うと、フォルストルは再びザガガガッと動いて先ほどとは違う方向に一本道を作った。


「やっぱり嘘じゃねえか」


「こ、今度は本当でしょうか?」


「……方角は間違ってねぇなぁ」


 俺は魔王城を見ながら方角と距離を確かめる。世界で1番高い場所にある魔王城はこういう時に便利だ。


◆◆◆◆◆◆


「これが、グリッペ洞窟ですね」


「みたいだな、中からしっかりカーカラックの気配がしやがる」


 森を抜けて少し開けた場所にグリッペ洞窟はあった。大きな崖にぽっかりと口を開けておりその近くにはよだれのように小川が流れている。その中空漂うのは、機械的でありながらもヌメリとした殺気。


「この崖は……三国の陣地に攻め込んだ時に飛び降りた崖か」


「懐かしいですね」


 俺は指を舐めて洞窟の方角に向ける。風は感じない。


「よし、どこかに通じてるって事は無いな」


「カーカラック相手に逃げ道があると厄介ですからね」


「まったく、ハイデの塔にいたのはしっかり絶滅させたってのに、またこいつの相手いたなんてよぉ」


 そう言いながら俺は少し離れた小川の方に手を向ける。それを見てツェンタリアが首を傾げた。


「今日は武器を使わないのですか?」


「昨日の地震で倉庫がごちゃごちゃでな。まだどこに何があるか把握できてねぇんだ」


 俺が水をすくうような動きをすると小川に流れている流水がふわりと浮かぶ。


「死霊騎士団のように細かくして撃ち出すのですか?」


「いや、それだと撃ち漏らす可能性もあるからな……こうするんだよっ!」


 そう言うやいなや俺は浮かせた水の塊をグリッペ洞窟の口にそのまま突っ込んだ。ガボボボボッと水の塊がグリッペ洞窟に飲まれていく。


「なんかトイレみたいですね」


「ツェンタリアはシモい事に関しては思ったことをそのまま口にするところがあるよな」


 水の塊は洞窟より少し大きく作ってある。これならば全て圧殺でき撃ち漏らすことも無いだろう。


「ところで今回はネットワークから外れているカーカラックなのでしょうか?」


「あ、そうか。そうじゃなかったらマズいな。サンキューツェンタリア」


 俺は今までゆっくりと動かしていた右手をグリッペ洞窟に向かって突き出す。するとその動き合わせるかのように水の塊が加速、一気にグリッペ洞窟を貫いた。


「よし、おしまい」


 向こうに小さな光が見える。風も流れ始めた。それを見てツェンタリアが呆れたように「本当にでたらめな力ですね」と呟く。


「でたらめな召喚とでたらめな戦場を経験してるからな。そりゃこれくらいできるようになるさ」


 そう言って俺はグリッペ『トンネル』に背を向けた。


◆◆◆◆◆◆


「ところでツェンタリア、さっきから思ってたんだがお前浴衣の着方間違ってるぞ?」


「えぇ!?」


 あの竜人から報酬を貰った帰り道。ツェンタリアに浴衣を左前になっていることを伝える。


「でもおいわさんと言う女性と一緒にしましたよ?」


「あぁ、そういえばそうだったかぁ」


 俺は頭をかきながら「悪い悪い」と謝る。確かツェンタリアに浴衣の着方を説明するために頭のイメージを映写したのだが、着物を着ている女性キャラが思い浮かばなかった+ツェンタリアを驚かせようとして番町皿屋敷の有名な場面を見せたのだった。


「本来は右が前になるのが正しい着方だな」


「右が前? ちゃんと私の右手側が前になってませんか?」


「あー違う違う。そうじゃなくてだな。この場合ツェンタリアの体の近い方に右が来るのが正しいというか……」


 良い説明方法が無いかと思案していると、簡潔かつ明瞭、そしてツェンタリアなら一瞬で理解できる説明を思いつく。


「わかりやすく言うとだな。俺がツェンタリアに後ろから抱きついて右手で左の胸を揉めるのが正しい着方だ」


「…………うーんわからないですねー実際にやってみてくださーい」


 物凄い棒読みで喋るツェンタリアを見て俺は溜息をつく。


「絶対分かってるだろお前」


「……それじゃあもう一度着てみます。はいどうぞご主人様」


 なぜがツェンタリアから帯の端を渡される。


「どういうことだ?」


「そりゃもちろん『よいではないですかー』ですよ! その後で私に優しく浴衣を着せてください! あ、その間に何か素敵なことをしても良いんですよ!?」


「あぁそういえば、『よいではないか』なんてそんなことも説明したなぁ……やだ」


 後半のツェンタリアの発言は無視して俺は断りを入れる。だがそれでエロイ矛を収めるようなツェンタリアなら苦労はしない。


「フフッ、そう言うと思ってました。しかし私が勝手に回転してしまえば!」


 ツェンタリアはぐっと体を捻って回転するぞ、という構えで俺を脅迫してくる。なんて奴だ。


「やめてくださいお願いしますなんでもしてやるから!」


 そのあと道端でギャーギャー言い合った結果、俺がツェンタリアをお姫様だっこすることで決着がついた。どうやら鼻緒が切れてお姫様抱っこをされるというシチュエーションにあこがれていたらしい。


 トップスピードにギアを入れて一瞬で家まで帰ろうとしたが、ツェンタリアに「風情がない」と怒られてしまった。クソッタレ、もう二度と浴衣は着せてやらん。


■依頼内容「フォルストル内の洞窟に住み着いたカーカラックを撃滅せよ」

■結果「カーカラックを潰すついでに洞窟をトンネルに改造した」

■報酬「2万W」

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