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第103話 だから俺が勝者

今日のツェンタリアさん

「あのご主人様の分身を一人くらい貰ってもバレないのでは……と、いつも考えております」


「最初からいい印象を持ったことはありませんでしたが、ここまでヴァリスハルトが狂っていたとは……私がお尻を撫でられた時にご主人様が異常に怒ったのも、本能的に警戒していたためなのかもしれませんね」

●依頼内容「世界の反逆者と雌雄を決せよ」

●依頼主「世界」

●報酬「国」


 左手の銀剣を空にかざし、右手の死剣を横に薙ぐ。それだけで庭に生えた雑草のようにヴァリスハルト達の命を刈り取っていく。刈る者と刈られる者、ハッキリ言って一方的な戦いだった。


「おいおい、あんだけ意味ありげに登場したんだから、もうちょっと粘ってもらわないと困るぜ?」


 ヴァリスハルトを煽る俺。しかしヴァリスハルトは「うおおおおお!」と叫んで増えるのみである。


「まさか、本当にコレだけって訳じゃねぇだろうな?」


 俺は呆れながら二刀の剣を振り続けた。戦ってみてわかったのだが、ぶっちゃけた話ヴァリスハルトをすぐに全滅させようと思えば簡単にできる。だが、それは実力上の話で、俺の立場上そんな事はできやしない。


 なぜなら、この状態のヴァリスハルトを相手とした場合、エアフォルクなら余裕、ノイでも互角の戦いができてしまうためである。つまり、俺がこの状況でヴァリスハルトを倒しても報酬を得る時にかなりの確率でいちゃもんがつく可能性があるのだ。


「少し買いかぶりすぎていたのかねぇ……」


「そうでもないぞ」


「!?」


 いつの間にか回り込んでいたヴァリスハルトの1体が俺を羽交い締めにする。命の安い相手がこういった行動をした時はやることは2つだけだ。①自爆を狙っている②味方に自分の体ごと攻撃させる。


「残念だがどっちもゴメンだぜ! お前と違って俺の命はかけがいのない大切なものなんでな!」


 俺が左手に持った銀剣を空に掲げようとする。しかし、その手がガシッと掴まれた!


「させぬわ!」


「……チッ! どっから湧いて来たのかと思ったら地下通路からかよ!」


 俺は地面にポッカリと開いている穴を見てヴァリスハルトの動きを察する。しかし、まだ甘い。俺が右手の死剣アーレを本気で振るえば2人を引き剥がすことなどは容易い!


「ほっほっほ、残念だがチェックメイトじゃ」


 俺が右手に力を入れた所で後ろのヴァリスハルトが笑った。そして左手を掴んでいたヴァリスハルトは自らの首を銀剣に当て、そのまま勢い良く首を飛ばした。


「……」


 返り血を浴びた俺は無言のまま土煙が舞い上がるほどの速さで回転し、死剣アーレを振るって後ろのヴァリスハルトを切り倒す。そして残っている数十体のヴァリスハルトを睨みつけた。


「勝てないと判断して自殺志願か? そんなに死にたきゃ勝手に人に知られないところでひっそりと死ねよ」


「ほっほっほっほっほっほ、そう思うか?」


 俺の言葉を集団の先頭に立つヴァリスハルトが嘲り笑う。


「これで銀剣の知識を直に知ることができたわっ!」


 ヴァリスハルトの体が膨れ上がり、周りの分身を巻き込んでいく。どうやらやっとこさ本気を出すようだ。ヴァリスハルトを睨みつけていた俺は一転、ニヤリと笑った。


「よしよし良いぞ。大きいってのは強敵の重要な要素だ……やれやれアホな戦い方をしてると思ったら生剣アーレ(銀剣)の特殊能力を知りたいだけだったのか。心配して損したぜ」


 ズイデンで最大まで強化した体に、世界の全てを知ったカーカラックを取り込み、テアトルで鍛えた鎧で包む。そして体内には札を埋め込み巨大化したヴァリスハルトが俺を見下ろす。


『さあ、戦おうか、世界代表』


 俺はそれを見上げながら不敵に笑った。いいね、これならこの戦いを見てる連中はもちろん、話を聞いた連中も文句は言わないだろう。


「握手は無しでいいか? 死んだ国の国王さんよ」


『よかろう、手のかわりに命を差し出すならばな!』


 ヴァリスハルトが大きく振りかぶって右拳を振り下ろす。


「図体だけじゃなく口調も尊大になってんな」


 俺は苦笑しながら振り下ろされた腕を左手で受け止めようとする。


 ボキッと音がした。


 俺の左手からだ。


 見ると、俺の左手の肘から先がブラーンと垂れ下がっていた。


「…………アッッグウウウ!!!」


 しばし呆然、ついで強烈な痛みからくる吐き気を強靭な精神力で押さえ込む。


『どうしたジーガー、顔が青いぞ?』


 俺はヴァリスハルトの言葉を無視して回復魔法を唱える。人間というのは混乱すればするほどもう一人の自分がその様を冷静に観察するものらしい。俺は吐き気と痛みでグルングルンする頭の中で「そういえば回復魔法を自分に使うのは久しぶりだなぁ」などと考えていた。


「……ふぅ、何はともあれ治療完了」


 俺は「それにしても……」とヴァリスハルトの右拳を観察する。おかしいな。何の変哲もない攻撃に見えたんだが。


『見たか! 今この体はこの世界のものならば何でも壊せる正義の鉄槌となっているのだ!』


 俺の疑問に直ぐ答えてくれるのは余裕からなのかそれとも聖王だった頃の性なのか。とりあえず先ほどのヴァリスハルトの攻撃は俺の死剣アーレと同質であるということはわかった。


 死剣アーレは異なる次元から相手を切りつける剣である。簡単に言えば俺が絵を切り刻むのと同じだ。絵の中の相手はその破壊を防ぐことができない。それと同じことをヴァリスハルトは行ったのだ。


 そこまで理解して俺は「クックック」と心の底から笑った。


『なにがおかしい』


「いやなに『俺ってのはそこまでしないと勝てない人間なんだな』と考えるとつくづく可笑しくてな」


『光栄に思うが良い。ワシがここまで策を練ったのはお主が初めてじゃ』


「へぇ……俺は世界以上に警戒されてたのかっ!」


 俺はそう言って生剣アーレを空に掲げる。すると、世界から風も音も消え失せた。つまり時が止まったのである。


 銀の生剣アーレ、世界一の剣士エアフォルクとの戦いで魂を呼び覚まし、世界一気高い騎士ベンジョブカイザールとの戦いで鍛え上げ、世界一無垢な生物カーカラックの血で何度も洗ってやっとこさ覚醒した剣の特殊能力である。


 生剣アーレ単体としての攻撃力は皆無だが、先程説明した死剣アーレと組み合わせれば「相手に気づかれずに必殺の一撃を叩き込むことができる」という恐ろしい能力を発揮する。俺は全ての止まった世界を歩きヴァリスハルトに近づいていく。


「さぁて、それじゃあ何も知らずに死んでくれ」


 俺は「わざわざ」そう宣言して死剣アーレを振り上げる。


『死ぬのはお前だっ!』


 時の止まった世界でヴァリスハルトが動いた。俺めがけて拳を振り下ろしてくる。俺は両手で生剣アーレを構えて防御を試みた。しかし、少しだけ遅かった。次の瞬間その拳が俺の頭にめり込み地面に大きなクレーターを作りながら沈んでいった。


「ひでえ事しやがるなぁ」


 ザシュッと音がしてヴァリスハルトの腹から剣が生えた。


『な……なに!?』


 突然の展開に、さすがのヴァリスハルトでも頭の処理が追いついていないようだ。そんな哀れな子羊の後ろを取った俺は優しく教えてやる。


「どうやら世界の全てを詰め込んでもそれを的確に引用できるオツムはなかったみたいだな『能無し』ベアンヅだよ。さっきも使ってただろ? まさか生剣アーレの能力を知った喜びと、時の止まった世界で俺を出し抜いた喜びでスッポリ頭から抜けちまってたのか『間抜け』」


 俺はヴァリスハルトの狙いを読んでいた。だからこそわざわざ攻撃を宣言したのだ。そして、案の定攻撃してきたヴァリスハルトを見て、土煙が舞い上がった瞬間に地下通路に隠れた俺の本体に死剣アーレを投げ渡していたのだ。


『グッ! 最後の最後まで口の減らぬ……』


「最初から言ってただろ? 『口を増やしてみたらどうだ?』ってな、それがお前と来たら減らしちまったからな。人の話はよく聞くもんだぜ?……カーカラックから得た情報だけで戦いを知った気になってんじゃねぇよ」


 口から血を吐いてヴァリスハルトが笑った。限界が近づいて来ているのだろう。


『……つまり結局は……10年間最前線で戦い続けた貴様の経験に……ワシは負けたのか……』


「経験だけじゃなく戦略でも負けてんのさ。何しろいざとなったら若返ることができるお前と違ってこっちはもう26なんでな、あと数年遅かったら危なかったぜ」


『クックック……そうか……大局を見ていたつもりだったが……それでもまだ視野狭窄だったのじゃ……な…………』


 両腕に力を入れて俺も笑った。


「まあそういうこった。じゃあな……アンタの事は嫌いじゃなかったぜ、好きってわけでもないがな」


 俺は死剣アーレを一気に切り上げてヴァリスハルトの体を真っ二つにした。


■依頼内容依頼内容「世界の反逆者と雌雄を決せよ」

■結果「かくして世界は平和に、俺は金持ちに」

■報酬「国」

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