第102話 勝ったものが勝者
今日のツェンタリアさん
「ご主人様が嬉しそうなので私も嬉しくなってしまいます」
「あ、ちなみに私は食事自体が必要な種族ではないのでカーカラックの因子が素通りしたのか操られることはございませんでした……まあもし操られてもご主人様を襲うくらいなら死にますけどね」
●依頼内容「世界の反逆者と雌雄を決せよ」
●依頼主「世界」
●報酬「国」
「随分とイケメンになったじゃねぇか……まあ俺には負けるがな」
若くなったヴァリスハルトは俺の言葉を鼻で笑う。
「フン、今のワシにとって姿形などは意味を成さん。如何様にでも変えられるのじゃからな」
そう言ってヴァリスハルトは右腕高くあげる。するとその腕が粘土のように変形し剣の形となった。そしてヴァリスハルトは俺を見て、ニヤリと笑った。
「っ!?……俺相手に不意打ちとはご機嫌じゃねぇかよ」
肌が泡立つよりも早く反射的に体が動いていた。俺の心臓めがけて伸ばされたヴァリスハルトの腕と死剣アーレがギギギッと音を立てている。なんとか軌道を逸らすことができた。
「さすがの反応速度じゃなジーガー。いや、それも銀剣のおかげなのかのぅ?」
そう言ってヴァリスハルトは伸ばした腕を元に戻した。ズズッっと俺の後ろから音がする。そして騎士団の『や、山が切れた!?』という声も耳に入ってきた。
「その腕、カーカラックか?」
俺の言葉に「ご名答」とでも言いたげにヴァリスハルトが湿度の高い笑みを浮かべる。いやだねぇ、自分のことを圧倒的な強者だと考えてる笑い方だぜ。さらにヴァリスハルトは下々の者に神のお告げを伝える預言者のように両手を広げて説明までおっぱじめた。
「その通り、クオーレはバンデルテーアの遺産であるカーカラックを情報や経験の伝達手段としてしか見ておらんかった。だから原初の巨人アゼンに経験を移すなどという悪手を打ったのじゃ。まあそこが想像力のない無能なアヤツの限界とも言える。元来バンデルテーアの遺産とは使う者によって世界を支配する兵器にもガラクタにもなるのじゃ」
「随分と詳しいんだな」
「当たり前じゃ、バンデルテーアの遺産を作ったのはワシじゃからな」
「……なるほど、それを集めるためにクオーレを使ったのか」
「ご、ご主人様、少し話が飛躍しすぎて……どういうことなのでしょうか?」
首を傾げているツェンタリアに俺は指を折りながら説明してやる。
「簡単に言うとだな。①ヴァリスハルトは世界との戦い負けた。②世界は各地にバンデルテーアの遺産を隠した。③やがて世界各地に国ができ、その国王達がバンデルテーアの遺産を持つようになった。ここまではいいか?」
「はい、それが以前まであった4国ですね?」
俺は頷いて説明を続ける。ヴァリスハルトの様子をチラリと観察するが、腕を組んで黙っているところを見ると俺の話はそう間違ってはいないのだろう。
「そして④ヴァリスハルトは何らかの拍子にベアタイルとその中に眠っていたカーカラックを発見した。⑤だが、いきなり自分がカーカラックを手に入れ増やし始めると警戒されるかもしれない……そう考えていたんだろヴァリスハルト?」
「……トレイランツやリヒテールはともかく、お主やシュタルゼは察しが良いからのぅ」
「お褒めあずかり光栄だぜ。続けてもいいか?」
「うむ、真実に気付いた死にゆく者の遺言だ。いくらでも語るが良い」
「そりゃどうも。⑥そこで目をつけたのが天然モノの欲望を持った元天使兵のクオーレだ。ヴァリスハルトは十分にクオーレを太らせた挙句、偶然を装わせてカーカラックと引き合わせ、あとは自国に売り込むように仕向けた。そのあとは今まで見てきたとおりだ」
腕を組んで聞いていたヴァリスハルトがパチパチと手をたたく。
「お主の話は大筋では間違っておらん。ただし一つだけ根本的な部分が間違っておるのぅ」
「へぇ、どこだ?」
「クオーレなどという天使兵は初めから存在しておらんということじゃよ」
……これは中々に衝撃的な発言だった。さすがの俺も表情こそ苦笑してたものの言葉が出てこず「……へぇ」と言うのが精一杯だった。
「先ほどお主にも見せたとおりカーカラックというのは変幻自在でな。ワシは何体かのカーカラックを世界に撒いておいたのじゃ」
「……クオーレ、バンドゥンデン、ジーンバーンか?」
三人の名前を聞いたノイが口を挟む。
「ちょ、チョット待って欲しいッス! 他の二人はともかくジーンバーンは由緒ある豪族の長男ッスよ!?」
「赤ん坊の頃に殺してすり替えたのか?」
「本人たちは知らず、ジーンバーンに至っては途中で機械にされてしまったがの」
「そんな……ひどい……」
絶句するツェンタリアの前でヴァリスハルトは「ほっほっほ」と笑ってみせた。
「目的のためなら何のためらいも無くカーカラックに仮王都を襲わせるのがコイツだ。それくらいはするさ」
「自分が動きやすい状況を作るためだけに自国の兵を平気で捨て駒に使う……同じ国王として反吐が出ますね」
人前ではニコヤカ爽やかな印象を崩さないエアフォルクが嫌悪の情を露わにする。
「混血の天使などは天使ではない。そのような者は使い捨てる以外に価値は無いじゃろうて」
微笑みながら言ってのけたヴァリスハルトを見て、俺以外の皆が気圧された。そりゃそうだろう。カーカラックの力を取り込んだせいなのかは知らないが、ヴァリスハルトの言葉からは良心どころか悪心すら感じられず。水が上流から下流に流れるように、目的のために淡々と動いているロボットのような薄気味悪さを感じたのだから。
「とんだ悪党だな、聖王の名が泣くぜ」
俺だけがスルリと声を出せたのは、こういう悪役を向こうの世界の漫画や映画で見たことがあったので少しだけ皆より耐性があったためである。ただ実際に目の前にしてみると本気で気持ち悪いな。
「何を言っておる。ワシの考えは全て、無条件で、絶対的に正しいのじゃ」
当然ヴァリスハルトは一同の反応などは一切気にしていない。もはや神と交信するかのように天に向かって喋っている。
「なるほどねぇ、ベアタイルは正しい判断のもと地面に埋まったのかい?」
俺の一言はクリティカルだったらしい。しばしの沈黙のあと、ヴァリスハルトは不機嫌そうに俺を見た。
「相変わらず口の減らぬガキじゃな」
「悔しかったらその便利な体で口を増やしてみたらどうだ? 勝てるかもしれないぞ?」
「……そうさせてもらおうかの」
「!? お前ら逃げろ!」
嫌な予感をいち早く察知した俺の言葉と同時にヴァリスハルトがバララララっと増えた。その数およそ10……20……100……まだ増えている。
「おいおい、ものには限度って言葉があるだろうが!」
横目で皆が避難を開始する様子を確認しながら俺は右手に死剣、左手に銀剣を構える。
「知らんのぅ。ワシの辞書には『勝ったものが勝者』としか載っておらん!」
ヴァリスハルトの軍勢が襲い掛かってくる。
「不便な辞書だな!」
俺も負けじとベアンヅを発動した。
『うおおおおおおお!』
俺の軍勢とヴァリスハルトの軍勢がぶつかり合う。
ここに世界の命運を賭けた、たった2人の大戦争が始まった。
■依頼内容「世界の反逆者と雌雄を決せよ」
■経過「開戦」
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