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第101話 ふっかけるなら今がその時

今日のツェンタリアさん

「フェイグファイア……伊達に長い戦いの歴史を持っているわけではありませんね」


「それにしてもご主人様のあの攻撃、何回もそばで見ているのですが全然見きれませんね。やはりあの銀剣が鍵なのでしょうか?」

●依頼内容「お客様に最高のもてなしを」

●依頼主「俺」

●報酬「喜んでいただくことが最上の喜びです」


 さて、ベアタイルを倒すのはいいのだがこれを依頼と言い張るには決定的に欠けているものが1つある。それは依頼主だ。


「エアフォルク! ノイ!」


「なんでしょうか?」「何ッスか?」


 俺は後ろに控える2人に呼びかけた。ちなみに、ここらへんの会話内容は他の人間には聞こえないように風を操って2人の耳にのみ届くようにしてある。


「何を出す?」


「え?」


 とてもシンプルな俺の質問を理解できない2人のために説明をしてやる。


「まさかただで助けてくれるなんて思っちゃいねぇよな?」


「そ、それは……」「そうッスけど……」


 ノイとエアフォルクは互いに目配せし合う。この時の二人の思考を言語化するとこうだ。


『ここで断ったらどうなるか、まさかクオーレの側につくことはないだろうが、そのまさかが起こってしまったら?』


 普通ならそんな事はありえないのだが、そこは今までの俺の実績が可能性はゼロではないことを雄弁に語っている。


『だがそうだとして何をもって報酬とするべきか、金銭だと出費が痛すぎる』


 こんな感じで迷っているようなので俺の方から報酬を提案した。ただし、わざとちょっとだけ回りくどい言い方をする。


「だったらよぉ、『あそこ』くれよ」


「あそこってどこッス?」


 一泊置かれて前のめりになる2人。そこで俺は自分の表情に細心の注意を払いながら一番欲しかった報酬を提案した。


「アップルグンドの土地、お前らの懐も痛まない上にドコの国も欲しがっちゃいねぇんだから貰ってもかまわないだろう?」


「……」「……」


 しばらく考えていた2人がやがて頷いた。交渉成立だ。


 そう、俺が欲しかったのは自分の国だったのである。


 勝手に勇者から傭兵になった俺の命を国の偉い人物が狙うというのなら、俺も国の偉い人物になってしまえばいいという単純かつ明快な解決方法。


 そしてそれは今ここに成就した。


 今まで傭兵業で4国からむしり取ってきた金はとりあえずの運営資金だったのである。


◆◆◆◆◆◆


 これで憂いもなくなった。あとは目の前に浮かぶベアタイルを落とすのみである。


「さーて世界のため(そして俺のために)死んでくれや」


「まるで世界の代表面、とても高慢で醜いデース」


 今の会話の内容を知らないクオーレが皮肉を言うが、そんなことは知ったこっちゃない。俺は晴れ晴れとした気持ちで煽り返す。


「お前の思い上がったのぼせ顔ほどじゃねぇさ」


「HAHAHA、面白くもない冗談には過酷な現実で対応デース!」


 どうやらいきなり力を手に入れると人というものは我慢ができなくなるものらしい。商人だった頃と比べて今のクオーレは簡単に感情を表に出すので御しやすい。


「ご主人様! 後ろ!」


 俺の「これなら楽勝だな」という思考は、ツェンタリアの一言で中断された。そして、後ろから迫ってくる殺気を察知し横っ飛びで避ける。ブォンとビュンッっという音が俺のいた場所を駆け抜けていく。それは、剣のオーラと三本の矢だった。


「何だ何だ急に、やっぱり土地が惜しくなったかぁ?」


 後ろを振り返るとどうにも2人の様子がおかしい。顔で困惑しつつも手で弓と剣を固く握りしめている。


「ち、違うッス!」「か、体が勝手に……うわわわああああ!」


 エアフォルクが剣を滅茶苦茶に振り回す。その剣筋はまるで何かに操られているようにデタラメだった。


「これは……クオーレの仕業か」


 俺が集中してあたりの様子を探ると、ベアタイルから何か電波のような物が出ていることに気付いた。


「ご名答デース。カーカラックの因子を体に埋め込み、その人物の体に局地的なトラウマを呼び起こして体を操っているのデース」


「カーカラックの因子を埋め込む? そんなもんいつやったんだよ?」


 少なくとも俺がこのブリッツ平原に駆けつけた時から今に至るまでおかしな事は起きていなかったはずだ。しかし、次に発せられたクオーレの言葉は俺の想像を遥かに超えていた。・


「最近になって、いきなり身体能力が向上したという経験はございませんデシタカ?」


「最近?…………あぁ、なるほど。コッホ村の料理人が出してる店で食った後に体が軽くなったのはそれが理由か」


 しばらく考えたあと、俺は市場で釣り銭を返して走ったときのことを思い出す。ちなみにこの会話の最中にも俺はエアフォルクやノイだけでなく両陣営からの攻撃を避けている。皆一様に困惑しているが師匠だけ「うわー操られるー」と棒読みで魔法をぶっ放していることは絶対に忘れないでおこう。


「コッホ村は私が育てたのデース。更に独立した料理人への食材の供給は私の会社が全面バックアップしていマース」


「つまり長期間に渡ってじわじわとこの世界の人間にカーカラックの因子を植え付けてきたってことか。気の長い話だな」


「優れた商売人というものは長期的に物事を考えるものデース。ですがこの方法には一つだけ欠点がありマシタ。貴方や4国の王の様な狂った人物には効かなかったのデース」


 なるほどな、種はわかった。あとはどうやってこの状況から抜け出すかだが……その答えはすぐに出た。俺は会話を途切れさせないように口を開く。


「ハッハッハ、そりゃそうだ。俺には怖いものなんて無いからな」


 俺は両手に銀剣と死剣を手に取って十字に構えた。


「ついでに教えといてやるよ、この世界に俺以上に怖いものなんてのも存在しねぇんだよ!」


『っ!!!!????』


 俺はブリッツ平原にいる全員に対して本気の殺気を飛ばした。クオーレ側から与えられた恐怖で体が動いてしまうのなら、それ以上の恐怖で体を支配してしまえばいい。


「もちろん……俺以上に強いやつもな」


「HAHAHA、戯言もそこまでくれば一流デ……な、なんデス!?」


 クオーレの言葉を遮るようにベアタイルからピシリっと音がなる。


「ノオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!?????」


 そして次の瞬間、バンデルテーア最後の遺産、ベアタイルは真っ二つに割れて地に堕ちた。


◆◆◆◆◆◆


「ゲホッゲホッひどい目に合ったデース」


「まーだ生きてるよ」


 瓦礫となったベアタイルと中に積まれていた大量のカーカラック達の山からクオーレが這い出てくるのを見て俺とツェンタリアは呆れる。


「まさに憎まれっこ世にはばかるですね……おやあれは?」


 クオーレのそばに何者かが立っている。土埃に隠れて顔は見えないが、集中した俺の耳にはその2人の会話が聞こえてきた。


「オオー我が君主! お助けくださいデス!」


 クオーレがその人物の足にすがりつく。しかし、その人物は何の反応も示さず口だけを開いた。


「無能な天使兵だったお主をベアタイルまで導き、お主にも分からぬよう会社を援助していたが……それも終いじゃ」


「そ、そんな……」


「優れた政治家というものは更に長期的に物事を考えるものなのじゃよ」


 そう言った人物の腕が剣に変化し、クオーレの首を飛ばした。


「ご、ご主人様あれは?」


 土埃が晴れてその人物が正体を現していく。俺は苦笑した。


「やっぱり最後の相手はお前だったか。聖王……いや『バンデルテーア国王ヴァリスハルト』」


「……懐かしい呼び名じゃな」


 そこには俺と同じくらいの年齢まで若返ったヴァリスハルトの姿があった。


■依頼内容「お客様に最高のもてなしを」

■結果「お客様が世界からご退場されました」

■報酬「喜んでいただくことが最上の喜びです」

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