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第100話 講じた対策

今日のツェンタリアさん

「きゃーさっちゃんかっこいいー! あとで賭けの内容を詳しく聞いておきましょう」


「おや、、今度はフェイグファイアの側で動きあるみたいですね」

●依頼内容「お客様に最高のもてなしを」

●依頼主「俺」

●報酬「喜んでいただくことが最上の喜びです」


 原初の巨人アゼン撃破に湧くエアルレーザー陣営、それに触発されたのかフェイグファイア陣営も動き始めた。


「おや、フェイグファイアの動きはエアルレーザーとは違いますね?」


「組織のエアルレーザーに対して個のフェイグファイア、お互いに国の特色を出してきてるな」


 総大将が剣を持って前に出たエアルレーザーと違って、フェイグファイアの総大将は後ろの方で弓を引き絞っていた。俺はニコニコしながらそれを眺める。そして、牙王ノイが大きな声で演説を始めた。


「発破をかけるのはどちらの国も同じですね」


「そりゃあ古今東西どこの国の兵士も死ぬための言葉を待ってるからな」


 ノイは特殊な矢を上空に向けながら大音声で語る。


「フェイグファイアの歴史は戦いの歴史ッス! その歴史によって研ぎ澄まされてきた戦意は世界でもっとも誇り高く鋭いと自分は信じているッス!」


「ウオオオオオオ!」


「ハッハッハ、フェイグファイアの竜人共は常に死兵か」


 まだノイの演説が途中だってのに既にテンションマックスな竜人達を見て俺は吹き出した。


「そんな自分達が生まれたばかりの巨人に遅れをとる道理があると思うッスか?」


「ウオオオオオオオオオオオオオオッ!」


「そのとおりッス! たとえ勝てぬ道理があろうともそれごと切り伏せてきたのがフェイグファイアッス! こんな奴らに負けたとあっては先祖に、今まで我らが倒してきた兵に、そしてなによりたった今勇気を見せた騎士の国に申し訳がたたん! 血路を踏みしめ進め! ここが命の捨て時ッス!」


 ノイの指から矢が空に向かって放たれる。その矢には鏑が取り付けてあり、音を立ててブリッツ平原を飛んでいった。この鏑矢は重要な戦いの際にしか使われない由緒正しいものである。その残響が戦場に染み渡ったことを確認したフェイグファイア軍が一丸となってアゼンに突進した。


「組織的だったエアルレーザーとは違って、てんでバラバラに動いているように見えますが……」


 ツェンタリアの分析に俺は頷く。進軍速度もバラバラ、なのに声を掛け合うこともしない。


「まあ豪族の集まりだからな、だがよく見てろよ? 戦い方が遺伝子レベルで伝わってるのがフェイグファイアだ」


◆◆◆◆◆◆


「向こうの奥さんには負けてらんないからね。いきなりで悪いが本気で行くよ!」


 先陣を切ったのはフロラインだ。手にした巨大な斧で地面を叩き割る。その裂け目はアゼンに真っすぐ伸びて奈落に引きずり込もうと口を開ける。


『ッ!?』


 当然跳躍して避けるアゼン。


「そっちに飛ぶと思ってただわさ!」


「安心と信頼のシッグ製品じゃ。威力は身をもって知るがええわい」


 その着地点にいつの間にかトラバサミが置かれていた。その見るからに強力なトラバサミがバツンと閉じられアゼンの足をロックする。


「動けなくなった所をノイ様の三本の矢で狙うのでしょうか?」


「悪くない戦法だ……相手が思惑通り動かずにいてくれたらな」


『グオ!』


 このままではマズイと考える頭があったのか、アゼンは手近な場所にあった大岩を引っこ抜いてノイに向かって投げる。


「変装だけじゃなくて演技もなかなかのモンだったろぅ?」


「何言ってんのよ、ノイちゃんの細かい癖も教えてあげた私のおかげじゃない」


 ノイの変装を解いた情報屋がにやりと笑い、その横で機動部隊長が呆れている。そして飛んできていた大岩は横から飛んできた水の魔法で逸れていった。


「やれやれ、あのジュメルツって子の傷を治し終えたと思ったら、今度は原初の巨人アゼンと戦闘なんて……人使いの荒い世界だよまったく」


「ヴィッツ様にラート様、それにシュテンゲ様!?」


「珍しいこともあるもんだな。『もう世界に新しい発見なんてありゃしない』と豪語して引き籠っていた師匠が外に出るなんて」


「あのー、ところでご主人様、ノイ様は何処に?」


 俺は黙って向かいの丘を指差す。そこには既に集中し終えたノイの姿があった。


「全員が自分勝手に動いても、それが最終的に勝利にむずびつく最適解に収束していくってんだから恐ろしい国だよなぁ」


 次の瞬間、アゼンの周りに三十三本の矢が放たれ、久々に見る三十三弦濤で戦いは終わった。


◆◆◆◆◆◆


 沸き立つ両陣営に対して水を差すような出来事がブリッツ平原で起こったのはその数秒後だった。


「なるほどなるほど、どちらの国も素晴らしい戦いっぷりデース」


 ベアタイルからクオーレの声が聞こえ、上空に向かって砲弾何発も何十発も連射される。まあ祝砲って訳はないよな。


「ですが今ので皆さんの動きの分析は終わりマシタ。今度は学習したアゼン100体と戦ってもらいマース!」


 ドスンドスンと空から降りてくるアゼンの姿を見て愕然とする両陣営。そりゃそうだ、なにしろ1体であれだけ手こずったんだからな。それを見て俺は立ち上がった。


「そろそろですね?」


 ツェンタリアの言葉に俺は首を横に振る。


「いや、もう終わってる」


 次の瞬間、ブリッツ平原にいたアゼンの首が一匹残らず掻っ切られ血が吹き出した。それを確認した俺はトップスピードにギアを入れて両陣営とベアタイルのちょうど中間地点に登場する。


「おいおい、俺のいない間に随分と楽しい事やってんじゃねぇか」


 俺の思惑通り両陣営から喝采があがる。「よしよし、これで報酬は2倍。ついでに昔のお偉いさんは全員いなくなって、更にここまでのピンチを救った俺を表立って批判する奴もいねぇだろう」と内心でほくそ笑みながら俺は真面目な表情を崩さず輝く銀剣の切っ先をベアタイルに向けた。


「俺も混ぜろよ」


 異世界に飛んで10年とちょっと、最強無敵であり続けている俺は26才の終わりになって貯金も潤沢になったので世界を救うという最後の依頼をこなすことにした。


■依頼内容「お客様に最高のもてなしを」

■経過「最後はジーガーがお相手させていただきます」

ブックマークありがとうございます。マイアミになりま……励みになります。

※皆様のおかげで100話までこれました。ありがとうございます。

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