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第97話 欲深き知者が選ぶは小さなツヅラ

今日のツェンタリアさん

「王都に侵入はされてはいないようですね。よかったです。なんだかんだ言ってご主人様は私以上に人々が傷つくのを悲しみますからね。表情にはあまり出ませんが私にはわかります」


「このベイルム……いいですね! すばらしいですね! このまま解かずにお風呂に入りましょう!」

●依頼内容「カーカラックの暴走を止めてちょうだい」

●依頼主「フェイグファイア機動部隊長ラート」

●報酬「1000万W」


「人は見た目が10割で、戦いは移動が8割ってのはシュテンゲの言葉だったかな?」


 エアフォルク・ツェンタリアと分かれた俺はすぐさまトップスピードにギアを入れて跳躍、王都の塀の上を走り100体ほどのカーカラックの前に到着した。


「キシャアアアアッ!」


 いきなり空から降ってきた俺をカーカラックが威嚇している。


「つまり俺がここに来た時点でお前らの負けってことだ」


 カーカラックの威嚇など意に返さず俺は右手をスナップした。


『ご主人様、西門に到着しました。今から討伐に入ります』


 俺が武器を右手に取った所で、ツェンタリアの声が頭の中に響く。よしよし、空槍ルフトを通してのベイルムはしっかりと機能しているようだ。俺は「おぅ、早かったな」と声をかけた後ツェンタリアに1つ提案をした。


「三下共を相手にした時の賭けをまたやらないか?」


『えーと、ダムを占拠していた賊を懲らしめた時の賭けですか?』


 俺は「そのとおり、クライン村の水不足の依頼の時だな」と頷きながら、東門と西門のカーカラックの数を一瞬で数える。


「数は大体同じだな」


『同じ数でご主人様が本気を出したら勝負にならない気がするのですが……』


「安心しろよ、そっちが残り10体になるまで俺は手を出さない」


『それならなんとか。あ、蹴るのも頭突きも無しですよ?』


「そんなトンチじみたことはしねぇよ」


 そこまで確認したうえでツェンタリアは了承した。腕をブンブン回して張り切っている。


『それで賭けの報酬はいかが致しますか?』


「前と同じでどうだ?」


『勝ったほうが負けた方を好きなようにする、ですね。わかりました!』


「なーんかニュアンスが変わってるが……まあいいぜ。負ける気はねぇからな」


『死剣アーレならともかく錆びた剣なら勝機ありです!』


 こうして俺のリベンジマッチが始まった。


◆◆◆◆◆◆


「キシャアッ!」


 次々飛びかかってくるカーカラックをユラユラとした動きで避けながら、俺は空槍ルフトから送られてくるツェンタリアの戦いを観戦していた。改めて映像で見てみるとツェンタリアの成長っぷりがよく分かる。遠くの敵には氷杖リエレン、近くの敵には空槍ルフトを使い分けて的確にカーカラックを始末していく。


『どうしましたご主人様?』


 無言になっていた俺を心配する余裕まであるらしい。俺は苦笑しながら口を開く。


「いやなに、ツェンタリアの成長を喜んでいるだけさ」


『フフッ、ありがとうございます』


 そう言っている間にツェンタリアは空槍ルフトを薙ぎ払って2体のカーカラックを倒した。


「これで残りは11体か」


『はい、負けませんよご主人様っ!』


 ツェンタリアが氷杖リエレンから氷の塊を出してカーカラックを押しつぶす。それが俺の開戦の合図となった。


『本気のご主人様相手の1秒間は1分に匹敵します……』


 ツェンタリアの構えた空槍ルフトに白炎と氷が凝縮されていく。


『速攻で決めさせてもらいます!』


 その言葉と共に放たれた一撃によって10体のカーカラックが跡形も残らず消え去った。


『どうですかご主人様!?』


「いやー早い早い。敵が10体になった瞬間に一掃を狙うってのはいい判断だったぞ」


 弾んだ声で話しかけてくるツェンタリアに対して俺は拍手で応える。


「だが、それでもちょっと遅かったな」


『そんなご冗談を……えぇ……』


 俺の言葉を珍しく信じていなかったツェンタリアだったが、俺の目から送られてきた映像を見て絶句した。つい数秒前までピンピンしていたはずの100体近いカーカラックが死体となって転がっていたためである。


『死剣アーレを抜いたら分かるはずですし、一体ご主人様はどのような魔法を使ったのですか?』


「魔法なんて使っちゃいねぇよ。ただ変えただけだ」


『変えた?』


 俺は「さぁ何を変えたのでしょう?」とニヤニヤ笑いながら右手に持っていた剣で肩をポンポンと叩く。


『あ、その剣、いつの間に錆びた剣から持ち替えたのですか?』


「お、そこに気がつくとはいい観察眼だ」


『あからさまにピカピカ光ってる剣を見たら気づきますよ……』


 ツェンタリアの言うとおり俺の手に持っている剣は輝いている。真っ赤な禍々しい刀身の死剣アーレと違って、こちらは見ているだけで心が涼やかになる銀色だ。


「だが残念、俺は武器を持ち替えちゃいねぇ」


『っとなると、錆びた剣がそのピカピカ光る剣になったのですか?』


「ま、そういうことだ……お、そろそろ正門の所に戻るぞ。リヒテールの王冠にかけておいたベイルムからの映像だとそろそろカーカラックを倒しきる頃だ」


『まだ解除しておられなかったのですね……』


 俺とツェンタリアはそれぞれ正門に向かって歩き始めた。


◆◆◆◆◆◆


「相変わらずエゲつねぇ戦い方しやがるぜ」


 リヒテールの王冠から送られてくる映像は俺でも眉をしかめるものだった。右手で頭を鷲掴みにして地面に叩きつけた瞬間に爆破するのは序の口、カーカラックの口の中に右手を突っ込んで内部から爆破するのは流石に引いた。


「……ベイルム解除するか」


 俺が解除の呪文を唱え始めた時、頭の中にリヒテールの声が聞こえてきた。


『これで終わりか……む、なんだこのカーカラックは?』


 映像の中のリヒテールが何かに気付いたようだ。俺も『なんだなんだ』と集中して映像を鮮明化すると、ちょうどリヒテールがカーカラックから何やら小さな箱を取ったところだった。


『ふむ箱……か。もらっておこう』


「どっかで見た箱だな……」


 その箱を見た俺にデジャヴと……嫌な予感が走った。次の瞬間、ベイルムから送られてきた映像が真っ白になる。そしてズウウウゥゥゥン! という重たい爆発音。ベイルムを解除し顔を上げると正門付近からキノコ雲が立ち上っている。


「チッ!」


 俺は舌打ちをして正門に走る。間違いない……あの箱は俺がバンドゥンデンの依頼で運んだ箱だっ!


■依頼内容「カーカラックの暴走を止めてちょうだい」

■結果「カーカラック『は』全て倒した」

■報酬「1000万W」

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