第96話 使えない味方の使い方
今日のツェンタリアさん
「あの忍者はご主人様の冗談を真に受けてしまっていたのですね。よし、今度私が忍者のなんたるかを教えてあげましょう。3泊4日の特別授業です。さっちゃん、フロラインさん、ルールフちゃん、ラートさんもお呼びして忍者戦隊……ウフフフ」
「ま た カ ー カ ラ ッ ク で す か……とは言え今回は規模がとても大きいようですね。しっかりと準備してまいりましょう」
●依頼内容「カーカラックの暴走を止めてちょうだい」
●依頼主「フェイグファイア機動部隊長ラート」
●報酬「500万W」
「ジーンバーンを倒したにも関わらずなぜまたカーカラックが暴走を?」
「偽物がまだ残っていたか、権限を奪うのはジーンバーンの個人的な技能では無かったって事だろ」
隣を走るツェンタリアにそう答えつつ俺は西の方角を注視する。俺達はエアルレーザー王都に急いでいた。今回の依頼はカーカラックの暴走を止めること。ジーンバーンが倒れたことによりラートは一時的にフェイグファイア機動部隊長に返り咲いており、今回はその依頼を受けた形だ。
俺は『報道の公平性的にどうなんだ?』と聞いたがラートは『それをやるんならもっと早くから解り難い形でやってるわよ』と笑っていた。
ちなみに多額の報酬については後で三国の王に要求するつもりらしい。つまり、何らかの情報を使ってゆすると言うことである。
「煙が上がっています!?」
「攻め込まれたか? まだ知られていない地下道があったのかもな」
ツェンタリアの言うとおりエアルレーザー王都から煙が立ち上っている。だが、俺の目測ではちょっと煙の出ている位置が手前過ぎるように感じられた。だがもしも目測がハズレた場合ツェンタリアをぬか喜びさせてしまうので黙って走る。
「騎士団の方々はいらっしゃらなかったのでしょうか?」
「各国の主力部隊はクオーレ探索のために使われているからな」
フェイグファイアの竜人は空を、パラディノスの天使兵は地下を、エアルレーザーの騎士達は地上を探しているのだが未だにクオーレは見つかっていない。ジーンバーンとバンドゥンデンという幹部クラスの奴らを倒しても肝心のクオーレが見つからなければ、俺も各国の王も枕を高くして寝られはしないのである。
「その割にご主人様が落ち着いてらっしゃるのはリヒテール様がいるからですね?」
ツェンタリアはなかなか鋭い。
「ご名答、カーカラックとの戦い方も学んだオッサンなら片手でも余裕だろ」
エアルレーザー王都の王門が見えてきた。そして、俺の目測どおり煙はエアルレーザー王都の内部ではなく城門の前から立ち上っていた。
◆◆◆◆◆◆
見た目だけなら異様な陣形をエアルレーザーは敷いていた。
「ヌオオオオオオオオオ!」
右手でカーカラックの頭蓋を掴んだリヒテールがそのままぶん回して地面に叩きつける。
『キシャアアアッ!』
リヒテールの周りに騎士はおらず代わりにカーカラックが数百体で取り囲んでいる。騎士たちは何をしているのかと城門の方を見ると、上から石を投げていた。だが小石ばかりで、カーカラックにダメージを与えられてはいない。まあ無いよりはマシな補助と言った感じだ。
「どうしますご主人様?」
俺はツェンタリアの質問に火傘ジルムの一撃で答えた。
『キシャアアアアアアアッ!?』
いきなり後ろから炎に襲われたカーカラック達はしばらくのたうち回っていたがやがて動かなくなる。これでリヒテールの所に行ける道ができた。俺とツェンタリアは素早くカーカラックの間を走り抜けてリヒテールのもとに駆けつける。
「遅かったな」
「そうは見えないが手助けが必要なのか?」
俺は『ありがとう位は言ってもバチは当たらないと思うんだがなぁ』などと考えつつリヒテールに尋ねた。リヒテールは苦笑している。
「なにしろ敵の数が多く、逆に味方は少ないからな」
「そうみたいだな」
今も城門の上から兵士達が石をばらまいている。その中に体より口をやたら動かす人物が五人の議員がいたが、気にしないでおこう。
「それに、以前と比べてこやつら強くなっておる。心当たりはあるか?」
「腐るほどあるな」
「少しは申し訳なさそうにしたらどうだ」
「無茶言うなよ。これでも気を使って戦ってるんだぜ?」
俺が両手を上げてヤレヤレというポーズを取るとリヒテールは「冗談だ」と口角を上げた。
「……昔から冗談なのかマジなのか解り難いんだよ。俺は未だに新人の頃に言われた鼻の骨が折れた時のニセの対処法を忘れてないぞ」
「おぉ、そういう時は鼻をかむようにすると良いと言ったアレか、まさか本当にするとは思わなかったぞ?」
「ヤングな俺はまさかエアルレーザー国王のリヒテール様が嘘つくとは思わなかったよ……おかげで目玉が飛び出るかと思ったぜ」
「お二人とも楽しいことをしていたのですね」
「うむ」
「『うむ』じゃねぇよ面白かったのはお前だけだ!」
「キシャアアアアアッ!」
俺とリヒテールの言い争いを収めたのはカーカラックの吠える声だった。すぐさまリヒテールの顔つきが変わる。
「……俺は正門を守る。お前達はそれぞれ東西の門を頼んだ。数は多くないがカーカラックが攻めてきている」
「了解、ツェンタリアとオッサンに一応言っておくが本気で倒すなよ?」
「はい」
「危なくなったら逃げるんだぞ?」
「はい」
そう言いながら俺はツェンタリアの空槍ルフトと自分の目にベイルムをかけた。これで双方向での会話が可能となりテレビ電話のようなやりとりができるはずだ。
「クックック」
「なんだよ思い出し笑いか? オッサンが初陣で脱糞したことでも思い出したか?」
「いやなに、何だのかんだの言っておきながらお前は変わらんな」
「人間がそう簡単に変わるもんかよ」
「そうだな同感だ。長年染み付いた戦い方も変わらん」
そう言いながらリヒテールは右手を掲げた。爆弾を起爆させる合図だ。
「オレは戦いで手加減などという愚行はできない性格でな!」
リヒテールが呪文を唱えるとカーカラックの近くに落ちていた石が発光し始めた。
「なるほど、石を投げていたのはこのためか」
次の瞬間、辺り一帯が爆発した。その爆炎を見ながら隻腕のリヒテールが笑う。
「大きな石1つを爆弾にし、それを砕いて無数の爆弾とした。戦いとは殺し方を相手より考えたほうが勝つのだ」
■依頼内容「カーカラックの暴走を止めてちょうだい」
■経過「残りは正門に数十体、東西の門に100体ほど」
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