表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/104

第七十七話の3 フィリアネス・マールギット・アレッタ

 フィリアネスさんが入浴してから話したいというので、俺は部屋で順番を待っているのが自然であり、スターラビットを食したあとの幸福な余韻に浸りながら待っていようと思ったのだが――。


 久しぶりに自分の机に向かい、買ったはいいが積んだままで読んでいない本を『速読』スキルで読んでみようかと思っていたところ、本を開いたところでドアがノックされた。


「ヒロト、少し良いか? ……良かったら、出てきて欲しいのだが」

「ああ、フィリアネスさん。ちょっと待ってて」


 俺は席を立ち、ドアを開ける。すると、風呂に入る準備をしたフィリアネスさん、マールさん、アレッタさんが立っていた。


(これは……顔を見れば分かる。俺は誘われている……!)


 14歳相当というか、既に男として一定の成熟を迎えた俺と、暴力的なまでに魅力的な肉体を持つフィリアネスさん、マールさん、そして控えめながらも、俺の育成によって膨らんだ胸とお尻を持つ妙齢のアレッタさんが、一緒に風呂に入りたいなどと、それは王国の条例などを気にせざるをえない。


「む……な、何を真剣な顔をしているのだ。一人で難しいことを考えていたのか?」

「ヒロトちゃんも一人遊びをするようなお年頃に……あ、そういう意味じゃなくてね?」

「ど、どういう意味ですか……一人遊びだなんて、ヒロトちゃんがそんなことをするわけがないじゃないですか。そうですよね?」

「う、うん。本を読もうかと思ってただけだけど……」

「ふぁぁっ、そんな知的なことして……ヒロトちゃんったら、油断も隙もないんだから」


 どうやらマールさんはあらぬことを想像していたので、俺の答えが不服だったようだ。食欲を満たしたらその次はというほど俺は短絡的ではないが、三人を見たらスイッチが入ってしまった。


(ああ……まずい。ウズウズとしてきたぞ……本を読んで得るはずだったスキルを、別のことで補わなければ)


 俺にはスキル欲というものがあり、一定期間スキルが上昇しないと禁断症状が出てくる。というのは半分冗談だが、三人が無防備に、そして恥じらいながら来てしまうからいけない。


 鎧を脱いで布鎧だけになったフィリアネスさん。そのワンピースタイプの布鎧越しに身体の線がしっかりと出ており、マールさんとアレッタさんも近い格好をしているので、体型の違いがよくわかる。大、特大、並――いや、均整のとれた胸を並というのは、大きさしか見ていないようなので、ここは美乳と呼ぶ。この言葉を考え出した人物は、よほど女性を敬愛していたに違いない。もちろん俺もだ。


「……取り込み中でなければ、その……一緒に入ってはどうだ? 子供の頃からそうしてきたのだから、何も問題はあるまい」

「あ……で、でも俺、見た目は成長してるから、みんな恥ずかしかったりしないかな?」

「あ、あの……ヒロトちゃんって、大きくなってから、その、私のこと追い越しちゃってたりする? 何がって具体的に言うことはできないんだけど、その、大人になるといろいろ……あるじゃない?」

「な、何を聞いてるんですか。まだ、せ、正式に結ばれたわけではないんですから、その……気が早いですよね。私なんて、ヒロトちゃんから見たらおばさんですし……興味を示してもらえるのかどうかも……」

「そんなことないよ。俺はアレッタさんを魅力的な女の人だと思ってるから、年齢は関係ないよ」

「ヒロトちゃん……」


 アレッタさんが安心したように、胸に手を当てる。俺は間違いなくそう思っているので、ちゃんと伝えられて良かった。


「……もう、小さい子を甘やかしてあげてるんじゃなくて……男の人として、女の人の私たちを見てくれてるって思っていいんだよね?」


 マールさんが真剣な表情で言う。もう何も取り繕う必要がないから、俺は笑って答えた。


「うん。ほんとはもっと前から、マールさんやみんなのことを、魅力的な女の人だなと思ってたよ」

「や、やっぱりそうなんだ……ヒロトちゃんったら、無邪気なふりしていっぱい触ってくれちゃって~……子供相手に変なこと考えちゃだめって、ずっとみんなで悩んでたんだからね~」

「本当ですね……んっ……すごく大変でした。私なんて、もう年齢が年齢ですし……」

「三人ともがこうなるとは思っていなかったが、それも運命だったのだろうな。最初にヒロトをお風呂に入れたあの時、もっとも大胆だったのはアレッタだった」

「すっごい懐かしいですよね~。アレッタちゃんがいきなりぽーっとして、ヒロトちゃんに……赤ちゃんの取り合いをしちゃったりして」


 あれから8年経ってもこうして一緒にいて、結婚する前からこんなふうに四人で仲良くしている。


 けれど俺はまだ、自分で決めた二日間を使って、大事な女性に全員求婚しなくてはいけない。そのたびにどれくらい仲良くするのかと考えると、隕石が降ってきて死んでもおかしくないような、過ぎた幸運を享受していると思う。『幸運』スキルはリオナのために相殺していて、力を発揮できてはいないが、そんなことは関係なく――俺は間違いなく、恵まれている。


 愛されていると疑いようもなく確かめられる。前世だったら、こんなことがあるとは想像もしなかった。


「……これからは取り合いもしますが、譲り合いもします。もう、あなたの傍にいられなくなると、不安に思うこともないんですから」

「そう……それは間違いのない事実だ。最も、ヒロトは他にも多くの妻を持つから、私たちは今まで通りに、妻として以外の顔も持つべきなのだろう。これからも私は聖騎士であり続ける。少しでも、おまえの力になれるように」

「私ももっと強くなりたいな。ヒロトちゃん、どうしたら強くなれるか教えてね。私、こう見えても努力は惜しまないほうだから」


 ――三人とも、言わずとも分かっているだろう。けれど俺は改めて言葉にする。


「俺は三日後に、みんなに改めて求婚する。副王に認められたら、首都で結婚式を挙げよう」


 マールさんが静かに振り向く。横にいるフィリアネスさんも、アレッタさんも、目を潤ませて俺を見ている。


「……一緒になろう。ずっと前から、そうしたいと思ってたんだ」

「ヒロトちゃん……ふぇ……っ」

「マールさん、泣いちゃだめですよ。嬉しい時は笑うんです……っ、ぐすっ……す、すみません、私まで……」

「……私は求婚されるのは二度目だな。だが、一度目の時よりもずっと嬉しい。ありがとう……」


 ◆ログ◆

・あなたは《マールギット》《アレッタ》に求婚を行った。

・《マールギット》《アレッタ》はあなたの求婚を受け入れ、関係が『婚約者』に変化した。


 三人がそっと寄り添ってくる。今は触れ合ってもいたずらに心を揺らしたりせずに、落ち着いていられた。


 大きくならなければ、三人を一緒に抱きとめることなんてできなかった。


 まだ赤ん坊だったころ、三人と風呂に入った時のことを思い出す。アレッタさんの胸に抱かれ、マールさんが大騒ぎで、フィリアネスさんは生真面目で――。


 この世界が優しく、守るべきものだと教えてくれた人たち。これからも彼女たちと共に戦い、そして結ばれた時には、妻として労わることができる。それが、どれだけ素晴らしいことか。


 ようやく三人の気持ちに応え、自分の想いを伝えられた。今はもう少しだけ、その幸せを共有していたいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ