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第七十七話の2 ソニア・ジークリッド

 俺はスーさんと、二人でしばらく寄り添っていたのだが――部屋の外から、ぱたぱたと足音が聞こえてきて、そして部屋の前で止まった。


「お兄たん、ご飯――」


 外から呼ばれた途端にスーさんは機敏に反応し、なぜか部屋の中で宙返りをするように跳躍して、すたっと床に降り立ち、涼しい顔に戻ってソニアを出迎えた。


「ソニアお嬢様、お手数をおかけして申し訳ございません。すぐに参ります」

「うん! スーお姉たんも一緒にたべよ?」

「い、いえ。私は、メイドですから……」

「もう、それだけじゃないよ。ソニア、俺、スーさんのことをお嫁さんにするから」

「ふぇっ……ほ、ほんとに? じゃあ、ソニアもお兄たんのお嫁さんになる!」

「……ヒロト様……」


 あまりに俺がさらりと言ってしまったからか、スーさんも戸惑うどころではなく、顔を赤らめて微笑む。


「……お嬢様も、ヒロト様のお嫁さんになられるのですか?」

「うん! おっきくなったら、なりたい! それで、それで、お兄たんをまもるの!」

「ソニア……」


 昔から、ソニアは俺を守ると言ってくれている。その理由を知るためにも、俺はソニアに対して、『詳細鑑定』を試みることにする。


 ステラ姉にもらった『博識』スキル。これを50まで上げれば、『詳細鑑定』を覚えることができる。商人スキルでも『鑑定』までなら覚えるが、スキル100までに取得する技能に詳細鑑定が無いので、今までは試すことができなかった。


 今の博識スキルが13なので、37のボーナスポイントを費やすことになる。ステラ姉からスキルを取るには、リオナの『幻界の霧』を利用する必要があるので、少々後ろめたさがある――ステラ姉がもう少し大きくなったら『採乳』をお願いするというのも手ではあるのだが、今までとは難易度が桁違いに感じる。


 幼い頃から知っている相手が成長したとして、その胸に触れさせてもらうというのは――リオナとミルテに対してもそうだが、『本当にいいのだろうか』という思いが強い。幻夢の中ならいいのかと言われたら、反論する言葉を持たない俺ではあるが。


「お兄たん、どうしたの? おなかすかないなら、ソニアとあそぶ?」

「ああいや、大丈夫だよ。それじゃ行こうか」


 俺はソニアを抱っこして、スーさんに扉を開けてもらい、階段を降りていく。そして食堂に向かうところでボーナスを振った。


 ◆ログ◆

・あなたは『博識』スキルにボーナスを37割り振った。『博識』スキルが50になった!

・あなたはパッシブ『百科事典』を覚えた!

・あなたはアクション『古代語解読』を覚えた!

・あなたはパッシブ『速読』を覚えた!

・あなたはアクション『詳細鑑定』を覚えた!


 一気に色々とスキルが取得できた。ボーナスを増やす方法さえ確保できれば、新スキルを取得するなり、極めてしまうということも可能なのだが――そうそううまくいかないこの世界は、女神によって絶妙な厳しさが保たれていると思う。


「あらソニア、良かったわね。お兄ちゃんに抱っこしてもらって」

「うん! ソニア、お兄たん大すき! んー」


 ソニアが頬にキスしてくる。それをくすぐったいと思いつつ、彼女を椅子に降ろしてあげるところで、俺は緊張しつつ『詳細鑑定』を実行し、ソニアのステータスを開いた。


 その時俺は、リオナのステータスを初めて見た時と同じくらい驚いていながら、どこかで納得している部分があった。


 俺がミゼールに戻ってきたとき、母さんが言っていたこと。


 ――ふふっ、それはそうだけど。ヒロト、ソニアのことだけど……ヒロトがいないうちにね、この子『おにいたんを私が守る』って言ってたのよ。何か心当たりはある?


 心当たりなどない。しかし、答えを見てしまえば、訂正するほかない。


 ソニアが俺を守ると言った理由は、ステータスを見れば明白だった。なぜなら、彼女は――。



 ◆ステータス◆


名前 ソニア・ジークリッド

人間 女性 4歳 レベル5


ジョブ:村人

ライフ:88/88

マナ :108/108


スキル:

 気品 8

 恵体 4

 魔術素養 7

 勇者 12


アクション:

 聖剣マスタリー(勇者10)


残りスキルポイント:15


・『剣の選定者』の称号を持つ。



(……俺の妹が……勇者……それに、剣の選定者だって……?)


 まだ赤ん坊だった頃のことが昨日のことのように思い出される。初めから、彼女は幼児にしてはステータスが高かった。恵体、魔術素養を幼いながらに持っており、???という名称不明のスキルを持っていた。


 ジョブは村人だが、それには関係なく『勇者』のスキルが伸びている。つまり彼女は、生まれながらにして、勇者としての資質を持って生まれてきたのだ。


 それが確率によるものなのか、それとも女神があえて俺の妹を選んだのか。

 分からないが、ソニアは魔剣を手にすることで、聖剣に変えられる。そして、聖剣に対応した魔王を封印することができる――もちろん幼いソニアのままでは無理で、俺達が補助する必要はあるが。


(ルシオラさんの霊装を使えば、ルシエの時と同様にできるな……でも、まだ聖剣で封じるべき魔王は現れていない。しかし選定者は、他の魔王に狙われる可能性もある。ソニアを守る態勢を、しっかり整えないとな)


「ヒロト、どうしたの? 今日はあなたの大好きな、スターラビットのシチューよ」

「えっ……ス、スターラビット? あれは滅多に取れないのに、どうやって……」

「避難していた狩人たちも、何もしていなかったわけじゃない。魔王の軍勢と戦っている俺たちのためにと、貴重な食材を取っておいてくれたのさ。俺は辞退したんだが、これくらいしか礼ができないと言われてな」


 父さんがそう言ったところで、家のドアベルが鳴る。母さんが出迎えると、フィリアネスさんたちがやってきた。


「夜分に失礼する。このたびは、夕食の席にお招きいただき……」

「いいのよ、フィリアネスさんたちは遠慮しなくても。もう、半分はうちの家族みたいなものなんだから」

「そ、それは……ヒロトとの関係について、レミリア殿が、その、許可を……」

「雷神さま~? 抜け駆けはしないって言ったじゃないですか。いえ、言ってませんけど、ヒロトちゃんはみんなのものなんですから、独り占めはだめですよ?」

「ま、マールさん……ご両親の前ですから、あまりそういうことは……」


 正式にみんなにこの家に集まってもらい、結婚式を挙げたいと伝えるのは、三日後のことだ。

 しかし母さんは、フィリアネスさんのかしこまった態度を見て、やたらと楽しそうにしていた。


「ヒロトもすっかり立派になっちゃって。それもこれも、みなさんのおかげです。子供の頃から、あの子を厳しく、時に優しくかまってくれていたから」

「あはは、どちらかというと私たちが、ヒロトちゃんにかまってもらってるんですけどね」

「厳しいということも、ほとんどできていないというか……ヒロトちゃんを、昔から可愛がるばかりで。大きくなってからは、その……優しくしてもらっていますね……」

「う、うむ……リカルド殿、レミリア殿。ヒロトは私たちだけでなく、多くの人々の中心なのです。もはや私達の方が、教え導かれているようなもので、日々気を引き締める毎日です」


 フィリアネスさんが言うと、母さんは何も言わずに微笑む。リカルド父さんも何かに感じ入るような顔をしていたが、母さんの肩に手を置き、席につかせた。


「俺の息子は三日後に大それたことをしようと考えているようだ。あまり驚かず、落ち着いてその日を迎えてやってくれ。と、俺から言うことでもないか」

「え、えっと……そういうことだから、食事の後に、一人ずつ話させてもらえるかな」

「っ……わ、分かった。できれば、風呂を借りてからがいいのだが……騎士団駐屯地では、水を浴びるしかできないのでな」

「それではお食事の後に、準備をさせていただきます」


 そして皆が席につき、和やかな会食が始まる。久しぶりに口にするスターラビットの肉は口にした瞬間に舌の上でほぐれてとろけるようで、その味にみんな、声も出ないほど感嘆していた。


 みんなで集まり、美味しいものを食べる。その当たり前のことを今後も続けていきたいものだ。


 ――そして。母さんに甲斐甲斐しく食べさせてもらっているソニアが、口の周りにつけたシチューを拭いてもらってから、俺の方を見てにっこり笑った。


 こんなに近くに居た、剣の勇者。彼女のことを兄として守り、そして大人になって幸せになるまで、ずっと見ていてやりたいと思った。


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