第六十八話 魅惑の指先/晴れた空
「あれはじらしていたんですのね……ギルマスったら、そんな高等テクニックを……」
「ミコト、口を開く度に残念さが増していくから、そろそろ自重してみよう」
「ど、どこに印が浮かび上がるのだろうか……私と同じ位置だったら、こんなところで皆に見せるわけには……」
フィリアネスさんは内ももの刻印を気にしてもじもじしている。ちゃんと俺のものであるという徴がついてるか確かめてあげようか、と爽やかに言い放ちたい気分だ――まさに外道、と自覚しているが。
「さあ……始めるよ、ルシエ」
「……はい……いつでも……」
◆ログ◆
・あなたは「授印」を発動した!
・《ルシエ》には既に印が刻まれている。上書きしますか? >YES
・《ルシエ》の身体の一部が発光した。キスしますか? YES/NO
・あなたは《ルシエ》の肌に唇で触れた。
・あなたは《ルシエ》の刻印を上書きして、『聖剣マスタリー』スキルを与えた!
「ありがとうございます、お兄様……私、これで……」
「ああ……これでいい。よく頑張ったな」
しかし、聖剣マスタリーが10にならなければ聖杖は持てない。ルシエのレベルを上げ、ボーナスポイントを振らずに溜めさせておいたことが、ここにきて大きな助けとなった。
◆ログ◆
・あなたは《ルシエ》に『依頼』をした。
・《ルシエ》はボーナスポイントを『聖剣マスタリー』に9割り振った。
・《ルシエ》はパッシブ『神器所持』を習得した!
「これで、杖を持つことができるはずだ。さあ、ルシエ……」
「ルシエ殿下、さあ、聖杖をその手に……」
「はい。ありがとうございます、セーラ司祭さま……」
セーラさんが勧めると、ルシエはついに、聖杖の柄をその手におさめた。
(……綺麗だ)
杖を持つルシエの姿は、一枚の絵画のように完成されていた。まるで、初めから彼女のために作られていたかのように。
「この杖があれば、魔王リリムを倒せる……そうすれば、ヒロト様と、みなさんと、ずっと一緒に……」
平和に暮らすことができる。俺にとっても、それは何よりの願いだ。
魔王を追い返せても、封じることができなければ、この国への脅威は除かれない。
――ようやく、状況が変わった。ここからは、俺たちが攻める番だ。
「よし……行こう。魔王リリムを倒す時が来たんだ」
パーティの皆が頷く。杖を取りに行く俺たちを、リリムの手先が阻むことはなかった――ならば、こちらから探しださなければならない。
◆◇◆
古城を出て湖を渡り、俺たちは湖岸まで戻ってきた。
水蛇が浮上し、その口から姿を現したクローディアは、ルシエの姿を見て、ルシオラさんそっくりの姿で涙を流した。
「ルシオラさま……っ、もう一度会えた……やっと……あぁ……!」
俺たちに対する硬質な口調ではなく、子供のような声を出して、クローディアは地面に降り立つと、ルシエ――いや、彼女に宿る主の胸に飛び込んだ。
『ごめんなさい、こんなに待たせて。私も、意地になってしまっていたのね……あなたたちがすぐ近くにいるのに、会おうともしないで』
ウィングトルーパーのカレンとリンダも、ルシエの胸で泣くクローディアの姿を見て、大粒の涙をこぼしていた。魔物にも感情がある、俺もすでにそれを知っている。
グリフォンは喜ぶように大空を駆け、水蛇は湖を泳ぎまわる。
俺はここまで魔物たちに愛された彼女が、初め憎しみを持って俺たちに敵対したのは、孤独というものが心を蝕むからだと思った。
一人塞ぎこんでいた俺を救ってくれたゲーム、エターナル・マギア。
その中で出会ったミコトさんと名無しさんを見て、俺は自分が救われた日のことを、昨日のことのように思い出していた。彼女たちはそんな俺の心中に気づかず、顔を見合わせて首をかしげつつも、とりあえず今はそうしておく、というように笑ってくれた。




