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コミュ難の俺が、交渉スキルに全振りして転生した結果  作者: とーわ/朱月十話
第七章 少年期 西方領編二部 育成編
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第五十九話 新たな装備/空へ

 メイヴさんはアッシュの家からはいなくなっており、足跡を絶っていた。


 俺が勘付くことを予想していたのか――彼女がリリムだというのは、考えすぎなのか。ユィシアの監視にもリリムの魔力は引っかからず、リリムの手下が現れることもなかった。


 俺は毎日をムダにしないように努めて、自分とパーティの強さの補強をはかった。昼は訓練をしてから騎士団の駐屯地や領主の館に出向き、夜はローテーションでみんなとスキルを上げる。毎日の密度が大変なことになっていたが、装備が仕上がるまでと期限を設定すると、時間はむしろ矢のように早く過ぎた。


 特に重点的に上げたのは『鎧マスタリー』だった。鎧を装備してみんなに殴ってもらうことで効率良く上がるのだが、ダメージがゼロといっても最初はみんな遠慮していた。ウェンディにこれも修行だと言って、プレートメイルを着て剣で叩きまくってもらった結果、鎧マスタリーはたいていの鎧を装備できる50まで何とか上げられた。


 ミコトさんも参加したそうだったが、彼女は攻撃力が高すぎるので、スーさんたちと組み手をしたりしていた。実力はやはりミコトさんのほうが一回りほど上だが、勝負という形にはならなかった――しかし彼女たちは、この戦いが終わって一段落したら、手合わせをすることを約束していた。




 そして、今日はじっちゃんの工房に久しぶりにやってきた。約束通りスーさんも一緒だ。


 工房の扉を開け、カンテラに照らされた暗い階段を降りていく――すると。


「――じっちゃんっ!」


 工房の床に、じっちゃんが倒れている。仰向けになり、口の端からよだれを垂らして――というところで、俺はまるで地響きのような音を聞いた。じっちゃんのいびきだ。


「びっくりした……なんだ、寝てたのか」

「ふぁぁ……あっ、ご、ごめんなさい。ヒロト坊や、今日装備ができるって言っておいたんだっけ」

「うん、急いでもらってごめん。じっちゃんは、疲れて寝てるだけみたいだね」


 俺はじっちゃんを担ぎ、工房の端にある休憩用の寝床に寝かせ、毛布をかぶせた。じっちゃんは全く起きる気配がないが、寝苦しくはなくなったのか、いびきは静かになった。


 そして俺は、戻ってくる前に気づいた――いつも何も置かれていないスペースに、黒を基調とした色の金属で作られた、男性用の鎧が鎮座していることに。

 鎧は暗い工房の中で、ごくわずかに光っているように見える。それは魔力の光――つまり、普通の金属で作られたものではないことを示していた。


「エイミさん、これ……」

「おじいちゃんが趣味で作ってた防具の中から、ヒロト坊やが使えそうなものを選んだの。グロウストーンっていう特殊な魔石鉱が含まれた鋼鉄を使った、合金鎧……重たそうに見えると思うけど、すごく軽くて丈夫なの」


(もともとレアで、店売りが存在しない合金の防具……それも、ゴシック・プレートだ……!)


 エターナル・マギアにおいては、通常のプレートメイルよりも、ゴシックプレートのほうが上位の防具で、装備するためには高ステータスが必要だが、それゆえに憧れの装備品だった。店売りで買えるものには合金素材のものはなく、だいたいが鋼鉄製だった。そして合金にも種類があったりするが、グロウストーンと鋼鉄の合金は入手難度がまだ常識的な中では、十分に強力な素材だった。


 そしてゴシックプレートの中でも、これは汎用のドロップ品ではなく、稀少品ユニークアイテムだ。スーパーユニークなので最上レアではないが、想像の遥か上を行く防具を手に入れられた。


「ハインツさんは、おじいちゃんがこの鎧を持ってることを知ってた。その中でも、この小手に価値があったみたいなの。グロウストーンを含んだ鋼鉄を使って装備を作ると、ときどき特殊な効果が宿ることがあるんだけど……ヒロト坊やにはわかる? この小手が、どんな力を持ってるか」


 ユニークアイテムといっても、世界に一つしか存在しないわけではなく、レアリティを示す記号のようなものだ。そしてものによっては、ユニークアイテムの付与効果は、同等品がドロップしてもその度に異なっている場合がある。その付与効果が良いものを狙うのが、エターナル・マギアにおけるレアドロップ厳選というやつだ。


(この小手は……なんだ……?)



 ◆アイテム◆


名前:混沌を握りし手カオス・グラスパー

種類:小手

レアリティ:スーパーユニーク

防御力:32

装備条件:恵体50


・魔術によるダメージを10%軽減する。

・炎ブレスによるダメージを10%軽減する。

・攻撃回数が1回増える。アクションによる攻撃を含む。

・石化を防ぐ。



 鍛冶などのクラフトで作成されるユニークアイテムに、レアリティに見合わない異常な性能を持つものがある。この装備もその一種に間違いない――付与効果があまりに強力すぎる。今の俺の強さで攻撃回数が増えたら、もう手のつけようがないと自分でもわかる。『神威』で攻撃力を倍加させた斧技が、クールタイムなしに二連発できるのだ。

 だが、ハインツがこの小手を求めた理由は、何だったのか。強くなるために、攻撃回数を増加させたい――本当にそれだけなのか。


(石化を防ぐ……ハインツは、石化攻撃を持つ相手と戦うつもりだったのか?)


 竜言語魔術で石化を引き起こせるユィシア――いや、ハインツでも皇竜に挑むなんて愚は犯さないだろう。

 攻撃回数の増加にしても、セットで装備しないと効果の無い吸魔の鎧の装備を崩してまで手に入れるものではないと思える。一時的にでも、石化防御が必要だったということか。


 しかしどのみち、この小手が俺にとって有用なことは確かだ。ルーンヴァンブレイスはしまっておいて、使える相手に譲ることにしよう。


「さて……まず、鎧を装備させてもらったほうがいいのかな。バルディッシュは、その後で見せてもらうよ」

「私、あんな装備を磨くことができて、本当に良かったと思ってる。私たちが知らない古代の技術で作られてるし、材質だって分からない……でもたぶん、そういう武器を作れなきゃ、ヒロト坊やたちの力にはなれないんだよね……」

「そんなことないよ。俺は強い装備が必要だけど、いろんな人が、自分の冒険や仕事のために武器を必要としてる。強いだけが全てじゃないよ」

「……うん。でもね、見ればわかると思う。あんな武器を見ちゃったら……もう、それを超えることしか考えられなくなる。鍛冶師って、そういう生き物なんだよ」


 エイミさんの言葉に、否が応にも期待が高まる。スーさんはエイミさんと協力して、まず俺にゴシック・プレートを着せてくれた。



 ◆アイテム◆


名前:ヴァリアント・プレート

種類:全身鎧

レアリティ:スーパーユニーク

防御力:248(+317)

装備条件:恵体80 鎧マスタリー50


・鎧のベース防御力が+128%補正される。

・敵の魔術を10%の確率で反射する。

・炎ブレスによるダメージを10%軽減する。

・氷ブレスによるダメージを10%軽減する。

・行動速度が10%上昇する。

・ライフの回復速度が20%上昇する。

・マナの回復速度が15%上昇する。

・ダメージを80ポイント減らす。



 ヴァリアント・プレートの防御力が高いのは、胴・腰・脚をカバーしているからだ。それを考慮しても、防御力が補正込みで565――やはり大人の武具が装備できるようになると、『恵体』スキルのダメージ軽減よりも防具の力のほうが大きくなる。

 そこに先ほどの小手を装備し、頭装備は視界を遮るものしかなかったので着けず、その上からマントを羽織った。ゴシックプレートにしては洒落たデザインだったが、物々しい姿であることに変わりはないので、町の外に出るまでのことを考慮した。


 装備を身につけたら、町の北門から出て、魔杖探索に出発することになっている――みんな集合しているだろうから、あまり遅れるわけにはいかない。


「こんな装備が手に入るなんて……ありがとう、エイミさん。じっちゃんにも、お礼を……ど、どうしたんだ、二人とも。そんなじっと見られると照れるんだけど……」

「……ヒロト坊や、ふだんの服装も似合ってたけど……やっぱり、戦うときの格好が、一番……」

「ええ……勇ましいお姿です。お父上も、皆様方も、感服されることでしょう」

「スーさんも、戦うときは着替えたりしないのか? そのメイド姿でも、十分強いと思うけど」

「はい、装備は準備しております。しかるべき時には、身に着けて任務に望みます」



 俺はスーさんとエイミさんに見送られて工房を後にした。そして、町の北門から外に出る。

 そこには事前に決めていた通りのパーティメンバーが待っていた。リリムが狙ってくるのは、魔杖を聖杖に変えることができると言われているルシエ――それならば、俺たちと共に行動していれば守ることができるし、聖杖を手に入れてルシエが装備した時点で、リリムを倒すチャンスも生まれる。


(それにもし、魔杖の使用者だけが通過できるギミックなんかがあったら、ルシエがいないと何もできないからな……)


「……ヒロト様……その、お姿は……?」

「ああ、今日は武装してきた。生半可な装備で迷宮に行ったりはできないからな」

「簡単に言うが……あのバルデスという老人は、そこまでの腕を持っていたのだな……」

「その武器……見ているだけで、生きた心地がしませんわよ。そんな化物のような武器を、運良く引き当てるだなんて……うらやましい限りですわ」


 首都の修練場に放置されていた武器。重すぎて無用の長物と化していたそれが、よもや、スーパーユニークの武器の中でも最上位の能力を持っていようとは、俺も思いもよらなかった。



 ◆アイテム◆


名前:巨人の憤怒タイタンズラース

種類:斧槍

レアリティ:スーパーユニーク

攻撃力:252~644

防御力:52

装備条件:恵体120 斧マスタリー100


・オーバーキル時に相手の装備を破壊することがある。

・クリティカルヒット時にダメージが上昇する。

・攻撃時に精霊魔術レベル4『アースジャベリン』が30%の確率で発動する。

・巨人に関係するアクションの効果を増幅させる。

・攻撃するごとにマナが3回復する。



 あの岩石の塊のようだった錆びたバルディッシュが、じっちゃんとエイミさんの手によって磨かれ、今は琥珀色の斧槍に姿を変えていた。

 錆びた状態でもいくつかの特殊効果は発動していたが、磨かれたことでさらに追加されている。マナが回復する効果はおまけのようなものだが、あって損をするものではない。


 スロットがないので属性のカスタムはできないが、確率で『アースジャベリン』が発動するので、何度か攻撃するだけで土属性の追加攻撃が可能ということになる。


「こんなに美しい武器があったのか……やはり、この世界は小生が思っていたよりも、ずっと奥深い……」


 名無しさんも驚嘆している。法術士の装備はなかなか手に入らないので、彼女の装備はスロットを利用して強化していた。しかしレア装備を見ると目の色が変わってしまうのは、元プレイヤーとしては避けられないところだ。ミコトさんも感心しつつ、しっかり自分の武器性能と比べている。


「ヒロトさん、私も連れていってくださって、ありがとうございます……ですが、良かったのですか? 私は、子供のころに何度かご一緒しただけで、そこまでの治癒術師では……」

「こっちこそ、久しぶりに誘ったのに来てくれてありがとう。どうしてもセーラさんの力が必要なんだ」


 セーラさんよりアレッタさんのほうが治癒には長けているし、冒険にも慣れている。しかしそんなアレッタさんだからこそ、もしもの時はマールさんや騎士団の人たちの治療にあたってほしい。


 町の住人のほとんどは既に一時避難している――公国は既に魔王リリムとの全面戦争に入ったことを表明しており、その脅威がミゼールに届くかもしれないと知ると、町に残ろうという人はいなかった。話を信じてくれない場合に限り、俺は交渉術を使って説得に臨んだ。こんな時に使わなくてどうするのか、と思ったからだ。


 そうすると医術師のフィローネさんも家族と共に避難することになり、サラサさんもうちの家族と共に避難してもらったため、残る白魔術の使い手はセーラさんしかいない。治癒術が必要な状況になってはいけないのだが、そこは念のためだ。


 そして彼女は謙遜しているが、白魔術は出会った当初よりかなり伸びていて、50に届いていた。俺の出会った治癒術師の中では、種族もステータスの伸びに影響しているのかもしれないが、彼女は屈指の治癒術師なのだ。


「……皆さんが避難されたあと、私は町に一人でも残ろうと思っていました。しかしミゼールを守るために何かできることがあるのならば、とてもうれしく思います。どうか共にお連れください」


 セーラさんが決意を表明する。彼女の足元はいつもの靴ではなく、冒険に出るための革の脚絆だった――長く歩くことを想定しているのだ。それはルシエも同じだった。


「じゃあ、早速出発しよう。ユィシア、来てくれるか?」


(――わかった)


 ユィシアがどこにいたのか――彼女は既に空で待機しており、俺たちから少し離れたところに降り立つ。彼女は魔力で服装を編むのと同じ要領で、姿を景色に同化させることができる。その状態を解除すると、銀色の鱗を持つ飛竜の姿で、俺たちを待ってくれていた。


「ユィシアに六人で乗って、古城を探す。そうすれば、きっとすぐに見つかるはずだ」

「竜に乗る……こんな経験をすることになるなんて……」

「……感動している場合ではないよ。小生は高所恐怖症ではないけど、さすがに生きた心地がしなさそうだ」

「ルシエは落ちないように俺に捕まっててくれ……というか、みんなユィシアと紐で結んでもらったほうがいいな。俺がいれば、大丈夫だとは思うけど」

「は、はいっ……ヒロト様がおっしゃるなら、ど、どこへでも、参ります……っ」


 ルシエは言うものの、杖を持つ手が震えていた。ユィシアに騎乗することに俺はメリットしか感じていなかったが、そうか――もっと早く慣れておくべきだった。


(……ご主人様以外を乗せるのは、特別なときだけ。練習で乗っていいのも、ご主人様だけ)


(そ、そうか……その気持ちは尊重するけど、みんなにとっては試練だな)


(だいじょうぶ。前にふたりで飛んだ時にも言ったとおり、私に乗っていれば絶対落ちない)


 そういえばそうだったが、安心感という意味では、命綱の存在は非常に大事だろう。名無しさんの顔が目に見えて青白くなっていたりするし――フィリアネスさんはどうだろう。


「……私はヒロトと一緒ならば怖くはないが、早めに到着できればという思いは確かにある」

「う、うん……やっぱり高いのはみんな、本能的に苦手なんだね」

「高いところは好きなのですけれど……」


 ミコトさんはそう言って空を見上げる。そして、ログにしか表示されないくらいの小さな声でつぶやいた。



 ◆ログ◆


・《ミコト》はつぶやいた。「ジェットコースターに乗ったら、同じ気持ちがしそうですわね……きっと」



(……そうか。ミコトさんは……)


 前世では、ジェットコースターなんて乗られる状態じゃなかった。彼女は若くして命を落とすほどの、重い病に侵されていたのだから。


 ――だから彼女は笑っていた。黒いおさげを微風になびかせ、怖がっているみんなを見て、さらに楽しそうにする。


「さて、みなさん……ギルマス、いえ、ヒロトさんの隣に乗る人を、どうやって決めるんですの?」

「わ、私は、無理にとは言わないが……傍にいてくれれば安心できることは、その、確かというか……」

「とりあえずルシエ様は、ヒロト君に責任を持って保護してもらおう。あとは……セーラさんかな」

「私でしたら、大きな鳥にさらわれそうになったことがありますから、高いところは平気です」


 なるほど、魔物のいる世界では、人魚にはそんな危険もあるのか――と思いつつ。

 結局俺がユィシアの背中の中央に乗り、みんなが俺に寄り添ってつかまるということで落ち着き、大空へと飛び立つ。

 ユィシアが多少考慮してくれたのか、いつもの急速上昇ではなく、ゆっくりと空へと浮き上がり――そして、俺たちはミゼール北方の空へと飛び出していった。


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