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第三話 スキル上げスタート

 リオナは赤ん坊ながらにぱっちりしたつぶらな目をしていて、たぶん美少女になるんだろうなと思ったが、俺にはどうにも「幼なじみ」という時点で、前世のことが引っかかってしまう。


 赤ん坊の今はいいが、言葉が話せる段階にきたら、俺のコミュ障がばれてしまうし……幼なじみに魅了スキルをかけて仲良くなろうというのも気が引けた。


 それより何より、赤ん坊の時点では何もできないと思っていたが、スキルが取れると分かったのは大きかった。


 サラサさんが帰ったあと、俺の父親――リカルドさんと、サラサさんの旦那さんのハインツさんが、森での仕事を終えて戻ってきた。


 リカルドさんが収穫してきた木材や、魔物や動物の素材の取り分を換金すると銀貨15枚分と銅貨数枚になったらしい。週に一度だけ休みだから、平均して月に銀貨300枚程度を稼いでいることになる。


 町の木こりの中では、リカルドさんは最も多く稼いでいる。レミリアさんも家計に苦しむことなく、疲れたリカルドさんに鹿肉の入ったシチューと石窯で焼いたパンを出していた。


「お疲れ様、リカルド。今日はね、ハインツさんのところのサラサさんが来てたのよ」

「ああ、ご近所同士仲がいいのは良いことだな。おうヒロト、元気にしてたか?」


 リカルドさんは食事の前に、俺を揺りかごから抱き上げる。筋骨隆々の父親に抱え上げられ、普通ならキャッキャと喜ぶところだが、俺はむっつりしていた。内心は喜んでいるのに、うまく表せない。


「うーむ、やはり俺にはあまりなつかないな。まあ、男親だからそんなもんか」

「それがね、この子ったらサラサさんにはちょっとなついてたのよ」

「なに、本当か? 隅に置けんなぁヒロト坊、俺の親友の嫁さんだぞ」

「……ぶー」


 しゃべれないのでとりあえず不平を音にしてみるが、リカルドさんは片眉をつりあげて笑っている。

 何度見ても、ハリウッド俳優のようなイケメンだ。この血を受け継いだ俺は、前世と違う顔になってるんだろうか……まだ鏡を見せてもらってないので、自分の容姿がよくわからない。


 思い出した、なんとかバンデラスだっけかな。リカルドさんはそういうワイルド系ちょい悪な顔で、ローマの剣闘士かと思うような屈強な肉体をしている。


 レミリアさんはポニーテールだから、俺の中ではスポーツ少女って印象がある。リカルドさんに比べて容姿があどけないので、ちょっと犯罪臭が……まあ、この世界じゃ女性の結婚が早いからな。日本じゃ晩婚化が進んでいたから、意外に思えるだけだ。


「まあ、男として少しは分からんでもないぞ。母さんも美人だが、ハインツの嫁さんも相当だからな」

「ちょっとあなた、聞こえてるわよ。ヒロトに変なこと教えないでちょうだい」

「ははは、悪い悪い。心配しなくても、俺はレミリア一筋だからな」

「もう……あなたったら」


 砂糖を吐きそうなやりとりだが、新婚さんなので大目に見ておこう。童貞は童貞なりに達観するものだ。

 まだ俺が生まれた直後だから夜は何もないみたいだけど、そのうち弟か妹を作ることになるのかな。

 前世では弟がいたが、俺とは全く違うリア充ぶりで、恭介とも仲良くやっていた。まあ弟から聞かされなければ、陽菜と恭介が付き合ってるらしいと知らずに済んだのだが。


 しかし徐々に、こうやって前世のことを思い出しても鬱にならなくなってきた。忘れることは決してないだろうけど、今の俺はこの世界について知ることに意識が向いていて、ずっと先のことまで考えるようになっていた。


 エターナル・マギアの世界で、誰にも揺るがされない、自分の居場所を作る。


 ただのコミュ難だった俺には無理だったけど、この世界では、人に必要とされたい。

 親だけじゃなくて、他の人にも、俺が居て良かったと言ってもらいたい。

 そんなことを考えるのは、今はまだ贅沢に思えてならないけど……いつか、必ず。


「あら、ヒロトが何か考えてるみたい。赤ちゃんでも、思うところがあるのかしら?」

「あんまりノロケてると呆れられるかもしれんな。よぅしヒロト、あとで父さんと一緒に風呂に入ろうな」

「……おぎゃ、おぎゃぁ!」

「あなた、一日中森にいたから汗臭いわよ。ヒロトは私が入れますから、あなたは一人で入ってください」

「むぅ……じゃあ、休みの日にしておくか。母さんとばかり入ってると、軟弱な男になるぞ?」


 拗ねるリカルドさんに申し訳なく思いつつ、俺はレミリアさんに抱えられて風呂場に向かった。父さんと入ると、力加減してくれなくて痛いからな……まあ、自分で立てるようになったら背中でも流してあげよう。



 ◇◆◇



 次の日の昼下がりも、サラサさんはリオナを連れてやってきた。一日経てば、魅了状態は解除されてるだろうと思っていたのだが……。



 ◆ログ◆


・《サラサ》の魅了状態が続いている。

・《リオナ》はあなたのことに気がついた。

・《サラサ》はつぶやいた。「ヒロトちゃん、今日も元気そうですね……よかった……」



(ま、まだ解けてないのか……っていうか、ステータス異常解除してないのか?)


 一日経っても魅了が解けない理由として考えられるのは、サラサさんの好感度が上がりすぎているから……ということが考えられる。

 「詳細ステータス」を見れば、サラサさんの俺に対する好感度がわかる。しかし「カリスマ」スキルだけでは見られないので、サラサさんの態度から判断するしかない。



 ◆ログ◆


・《サラサ》はリオナをあやしている。

・《リオナ》は喜んでいる。

・《サラサ》はあなたの方を見ている。

・《サラサ》は頬を赤らめた。



 ゲームにおいては、見つめてきたり、頬を赤らめたりするのは、好感度が「かなり気に入っている」状態まで上がっていることを意味する。

 そうなると、好感度が「何とも思っていない」になるまで魅了状態は解除されない。そういうことか……サラサさんの状態をステータス異常と認識できる人も、周りにいないわけだ。


「……レミリアさん、機織りで手が放せないみたいですね」


 サラサさんは独り言みたいに言ってから、リオナを抱えてこちらにやってくる……こ、これは……。


「ヒロトちゃん、お腹がすいていませんか? 良かったら、リオナと一緒に……」



 ◆ダイアログ◆


・《サラサ》が「採乳」を許可しています。実行しますか? YES/NO



(や、やっぱり……うわっ……!)


 サラサさん、よその家の赤ん坊に対して、簡単に胸を出しすぎでは……もう俺も感覚がおかしくなってきた。ハーフエルフは長命で、彼女は123歳だけど、容姿はどう見ても二十代そこそこだ。そんな人に簡単に胸を何度も見せてもらっては、俺の倫理観があやしくなってしまう。


「やっぱり、自分のお母さんのほうがいいですよね……ごめんなさい、無理を言って」


 リオナの方はぱくっとサラサさんの乳首に吸い付いている。彼女の魔術素養スキルが上昇したログが流れてきた……くっ、スキルが上がるし、空腹も満たされるし、効率的なプレイを求める俺としては絶好の機会なのに。

 俺が選択しなかったのでダイアログは流れてしまったが、サラサさんはまだ諦めていない……な、なんという執念……。



 ◆ダイアログ◆


・《サラサ》が「採乳」を許可しています。命令しますか? YES/NO




 この押しの強さは……魅了にかかってしまったから、どうしても採乳して欲しいくらいの状態なんだな。

 ゲームだったら、効率を求めてマウスをクリックし、それこそサラサさんのマナが尽きるまで採らせてもらったことだろう。魔術素養のスキルも上げるには時間がかかるし、低レベルの時にできるだけ上げておけるとすごく助かるからだ。

 しかし何度も採らせてもらうのは、さすがに申し訳ない気持ちが強い。何せ、こんな大きくて豊かな胸なのだ。手を添えるだけとはいえ、ちょっとは敬意を示して遠慮するべきではと思ってしまう。


「そんなに遠慮しなくてもいいんですよ……? レミリアさんは貴族の出ですから、乳母の方がいるのは普通です。若奥さまの代わりに、乳母の方が代わりにお乳をあげることは良くあるんですよ」

「……あー、うー……」


 0歳児をガチで口説きにかかるサラサさん。「カリスマ」のせいで、俺を一人前の存在として見てくれているからなのだが、何か犯罪的な感じがすごくする。

 無愛想にしても魅了がかかった彼女の好感度は下げられない。どうしようもないのなら、ここはトッププレイヤ―だった頃の精神を思い出し、貪欲にスキル上げしていくべきではないか。


(レミリアさん……俺、ひとつ大人になるよ……!)


 そんな決意をしたところで母さんは喜ばないだろうと思いつつ、俺は震える思考で「YES」を選んだ。最後だけは雄々しく、力強く、申し訳なく。

 リオナが吸ったほうとは逆の方の胸に手を添える。迫ってくる白い山は、おっとりした彼女の性格に反し、攻撃的なくらいに前方にせり出している。


 ――しかし、今までとは違う反応があった。光る俺の手で触ったとたん、サラサさんの胸から、ミルクがじわ、と溢れだしてきたのだ。


「す、すみません、勝手に出てしまって……あっ……!」


 手についた乳のしずくを、俺は本能で口に運ぶ。それをサラサさんは顔を真っ赤にして見ていた――そして。



 ◆ログ◆


・あなたは《サラサ》から「採乳」した。ライフが回復した。

・「魔術素養」スキルが成長した気がした。

・《サラサ》は恍惚としている。



(……はっ。つい舐めてしまったけど……母さんより濃いというか、まろやかな味だな……って、テイスティングしてどうする)


 スキル経験値が入る、母乳のしずく。それを余すところなく舐めとると、サラサさんは目を潤ませて、さらに期待するように見つめてくる。


 ◆ダイアログ◆


・《サラサ》はあなたに「採乳」を許可しています。命令しますか? YES/NO



(スキルを上げるには、何回かしてもらった方が……くっ、抗えない……!)


 前回「選択肢」を使ったとき、マナを全部消費した俺は、サラサさんが帰ったあとでほどなく眠りに落ちた。マナがゼロになると意識が断絶する可能性があり、マイナス100になると発狂する可能性があるので、実はライフと同じだけマナにも気を配らなければならない。


 そういうわけで、サラサさんのマナを消費させるのも悪い……と思うが。スキル上げに命を捧げた熱い衝動が蘇ってしまい、「魔術素養が上がるまで採りたい」と思ってしまう。


(本当は……本当は、もっと採りたい。お腹いっぱいになるからレミリアさんに申し訳ないけど、採りまくりたい……!)


「……リオナはお腹いっぱいで眠そうにしていますから、少しベッドをお借りして、寝かしつけてきますね。その後で、続きをしましょう」


 そして俺以上に、サラサさんの方が乗り気だった。リオナをいそいそと寝かせる彼女を見ていると、何か悪い道に引っ張りこんだ気がしてきてしまう。


 しかし胸に手を置いただけでスキルが採れるのだから、できるかぎり協力してもらえるに越したことはない――正直に言おう、俺も気持ちが高揚していた。



 ◆ログ◆


・あなたは《サラサ》から「採乳」した。ライフが回復した。

・「魔術素養」スキルが成長した気がした。

・あなたは《サラサ》から「採乳」した。ライフが回復した。

・何も起こらなかった。

・《サラサ》は恍惚としている。

・あなたは《サラサ》から「採乳」した。

・「魔術素養」スキルが1ポイント上昇した! マナが12上昇した。魔術が上手く使える気がした。

・《サラサ》はあなたを愛おしむように抱きしめた。

・あなたは《サラサ》から「採乳」した。

・「魔術素養」スキルが成長した気がした。

・あなたは《サラサ》から「採乳」した。

・あなたは「薬師」スキルを獲得した!

・あなたは《サラサ》から「採乳」した。

・《サラサ》は「艶美」状態になった。誘惑の成功率が上がった。

・《レミリア》がドアを開けた。

・《レミリア》はあなたを抱え上げた。

・《サラサ》は困った顔をした。

・《レミリア》は「嫉妬」状態になった。



 延々と俺の採乳を受け続けていたサラサさんを発見し、レミリアさんは嫉妬して、俺をしばらくかまってくれなかった。家庭の円満のためにも、浮気……もとい、母乳でスキル上げはほどほどにしようと思う俺だった。


 どうも、採乳によって得られるスキルは、「職業固有のスキル」と「種族固有のスキル」のふたつだけらしい。白魔術などが取れるかと期待したが、それはどうやら無理のようだ。

 しかしセージの職業スキル「薬師」が取れたのは僥倖だった。本来なら、薬師ギルドに入ってクエストをこなさないと得られないからだ。


「で、では……今日のところは失礼しますね。またゆっくりお話しましょう」

「ええ、今度は私の仕事が一段落したときに来てちょうだいね、サラサさん」

「だー、だー」


 レミリアさんがサラサさんを牽制するが、サラサさんの腕の中のリオナが愛嬌を振りまき、気勢をそがれる。可愛いは正義というが、まさにその通りだ。

 サラサさんが帰ったあと、レミリアさんは俺を抱き上げながら、眉を吊り上げて語りかけてきた。


「まったく……油断も隙もないんだから。ヒロト、お腹がすいてもよその女の人のおっぱいばかり吸ってちゃだめよ」

「……だぁー」


 精一杯の愛嬌で謝罪の意志を示そうとしたが、あまり可愛くはなかったらしく、レミリアさんは苦笑していた。パッシブスキルで「魅力」を取れれば、もうちょっとどうにかなりそうだが。いや、何もかもスキル頼みすぎても良くないか。


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