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第一話 両親と「母性」スキル

※前書き修正

幼年期が想定以上に長くなりましたが

書き残しのないようにしてから幼年期・後期(2~3歳)に行きます。

※主人公が赤ん坊のうちは授乳シーンがあります。ご了承ください。

 ジュネガン公国西部山麓の田舎町、ミゼール。それが、俺の生まれた場所だった。


 ゲーム版のエターナル・マギアにおいて、結婚システムは存在したが、子供を作るというシステムは実装されていなかった。エターナル・マギアの中では、リアルと同じように時間が流れていて、ゲーム内のプレイヤーも年を取っていく。種族によって開始年齢は違うが、人間を選ぶと15歳だ。ボーナスポイントで若返ったり、年を取らせたりすることもできる。


 しかし俺がやってきた、エターナル・マギアの世界――ゲームと同じで『マギアハイム』というのだが、ここでは0歳のキャラクター、つまり俺のような赤ん坊が存在する。


 ここでは結婚したキャラ――いや、もうキャラと言うべきじゃないだろう。結婚した夫婦は子供を作り、年単位の時間をかけて育てることになる。一年が三百六十日、一ヶ月が三十日で、赤ん坊の俺が歩き始めるまでだいたい一年以上はかかる。


 俺に出来る意思表示はいろいろあったが、まずひとつ分かったことは、交渉術スキルに付随するパッシブスキルは、親に対しては発動しないということだった。発動しなくても問題ないというのもあるが、どうやらこれは世界のシステム上の制限らしい。


「おぎゃぁ、おぎゃぁ!」

「あらいけない、もうそんな時間だったわね。ちょっと待っててね、ヒロト」


 揺りかごの中で泣き声を上げる。しかし異世界の俺の母親――レミリアさんが近づいてくると、俺はつい目をそらしてしまう。


 俺の感覚では、ちょっと前まで日本人の母さんがいて、そろそろ四十代になろうとしていたわけで。


 それが、いきなり18歳の母親が出来てしまったのである。元の年齢からニ個上の女性を母親として見られるわけがない。


 さらに良くないことに、いや、良いことなのかもしれないが、レミリアさんは美人だった。前世の親父も『若いころ、母さんはうちの高校のマドンナだったんだぞ』と言っていたことがあったが、異世界の美人が相手ではさすがに分が悪かった。


「……あー、うー」

「この子ったら、いつも顔をそむけるんだから。あなたのお母さんよ? ちゃんとこっちを見てちょうだい」


 『人の目を見て話しなさい』に属する言葉は、生まれてから一週間後に家に戻ってきてから、2日に1度くらいの頻度で聞かされていた。


 これは、今回の人生も親には面倒をかけることになりそうだ……いや、同じことを繰り返してなるものか。


 実の親にはパッシブスキルが通じない。交渉術が高レベルになると発動する「カリスマ」とか「【対異性】魅了」が、親に通じたらちょっと大変なことになるからだ。俺がどんなわがままを言っても、魅了が発動すると聞いてもらえてしまうことになる。


 まあ、赤ん坊の状態だと「おしめが大変な状態でかゆいです」とか、「カンの虫のせいで泣いてしまうので、あやしてください」とか、「お腹がすいたので授乳せよ」とか、交渉しなくてもやってもらえるので、まだスキルに頼る必要はまったくなかった。


 ――そして気が付くと、赤ん坊になってからの避けられない習慣の時間がやってきていた。そう、一日に何度も行われる授乳である。


「ほら、こっちを向いて……よしよし、いい子ね」


(……くぁぁ……い、いいのか、本当に……)


 俺は赤ん坊で、レミリアさんは母親だ。しかし18歳で、亜麻色の髪をポニーテールにした美少女が、ぱんぱんに張った乳房をぽろんと出して吸わせてくれようとしているのである。授乳期には乳房は張るものだと分かっていても、元から小さくはない母さんの胸が痛々しいくらいに張り詰めているところを見ると、圧倒されるというか、乳児としての本能が刺激される。


 ――おっぱいが吸いたい。この赤ん坊ならではの衝動は、凄まじいものがある。


 しかし許されないことをしているような、嬉し恥ずかしいような気分もあり、俺はいつも素直に授乳を受けることができない。目の前の赤ん坊が、赤ん坊にあるまじき葛藤と戦っていることなど、レミリアさんは何も知らないのだ。それもまた罪悪感を煽ってくる。


「お母さん、あまりおっぱいが出ないから、足りなかったら少し待ってね」


 母乳は時間経過によって回復する。というか、この世界においては母乳を与える行為が「授乳」というアクションスキルに設定されているのだ。授乳に際してマナを消費するのだが、その消費量は、どうやら「母性」スキルに依存しているらしい。


 それはレミリアさんのステータスを見て推察したことだ。他人のステータスを見るには交渉スキルで取れる「カリスマ」というパッシブで相手に認められる必要があるのだが、それに関係なく、親子でパーティを組んでいる扱いになっているので、同パーティの相手のステータスは閲覧可能になっていた。


 ◆ステータス◆


名前 レミリア・ジークリッド

人間 女性 18歳 レベル10


ジョブ:令嬢

ライフ:76/76

マナ :24/24


スキル:

 手芸 25

 気品 18

 恵体 3

 母性 23

 料理 10


アクションスキル:

 手縫い(手芸10)

 機織り(手芸20)

 授乳(母性20)

 簡易料理(料理10)


パッシブスキル:

 マナー(気品10)

 育成(母性10)


残りスキルポイント:5



 彼女のステータスからだけでも、俺は多くの情報を得ることができた。


 まず、彼女は片田舎の村に住んでいるが、けっこういい家に住んでいる。そしてジョブが「令嬢」……これは、貴族の生まれであることを意味する。どうやら親が貴族で、俺たち一家は親が持っていた別邸を譲られて住んでいるということらしかった。


 気品スキルは令嬢をやっているうちに上がっていくが、一年で1ポイント上がるくらいのペースなので、気品スキルはボーナスを振らずに18になったことになる。


 母性はどうやって上昇するのかわからないが、「授乳」が母性20で取得できるということは、たぶん子供ができると上昇するのだろうと思われる。


 恵体スキルは、1ポイントでライフを12上昇させ、物理攻撃力にレベル×3、防御力にレベル×2のプラス補正が加わる。これもポイントを振らなくても上昇するが、成長は恐ろしく遅い。18歳の彼女が恵体3ということは、少し運動をたしなんでいたが、死ぬような戦闘はほとんど経験してないってことだ。


 ゲームでは俺は「恵体」に1ポイントも振らず、効率的な上げ方を見つけて自力で100まで上げたが、その上げ方は赤ん坊の今では実践出来ないし、実際にやるとなると相当の労力になるだろう。マウスをクリックするのと、実際に動くのとではわけが違うが、まあ、その労苦は受け入れるつもりだ。攻略を進めるうえで、恵体スキルは必須といえる。


 レミリアさんのスキルポイントは5余っているが、これは振り方を知らないのか、あえて振っていないのかまでは分からなかった。まだ生まれて二週間くらいなので、得られる情報には限りがある。


「お腹がすいてないわけじゃないわよね。はいヒロトちゃん、おっぱいでちゅよ~……」


(し、しまった……つい、胸を出させたままで賢者モードになってしまった……母乳って味が薄いんだよな。なんかすごく美味しく感じるけど)


 俺は前世においては哺乳瓶で授乳を受けていたので、直接母親から授乳を受けるのは、生まれ変わってからが初めてだった。ぱんぱんに張った乳房に手を添えて、レミリア母さんが見守ってくれている中、ぱく、と先端をくわえる。


「ヒロト、がんばってもっと吸ってみて。お母さん、最初は出がよくないの……あ、大丈夫そうね……」


 授乳は母との共同作業である。俺は途中からは無心になり、母さんから栄養と免疫の補給を受ける。


 赤ん坊なので乳を吸わないと生きていけない。吸わないと山羊の乳を飲まされるらしいのだが、山羊の乳は実はけっこう高いのだ。我が家の家計のためにも、できるだけ母乳で育たなければならない。


「……んっ、あぶー」

「よーしよし……まだだめよ、離したら。できるだけいっぱい吸わないと、すぐお腹がすいちゃうから……そう、いい子ね……」


 母は偉大だ、と毎回思わざるを得ない。母乳は俺が思っていたよりも、かなり多くの量が出ている気がする――これを毎日息子にあげて、家事までしているのである。もう、一生頭が上がりそうにない。


 母さんは全くじれたりせずに、俺が満足するまで吸わせてくれる。もうお腹いっぱいと伝わると、彼女は俺を抱っこして背中を叩いてくれる。こうしないと、お腹に空気が溜まってしまうのだ。


「けぷっ」

「ふふっ、よくできたわね。ヒロト、いっぱいお母さんのおっぱいを吸って、すくすく大きくなってね」

「……あうー」


 愛嬌よく振る舞えない俺だが、それでもレミリアさんは俺と額をくっつけ、可愛くて仕方がないという顔をしてくれる。


 そのたびに俺は前世を思い出し、何の孝行もできなかったことを後悔するが――同時に、今回は志半ばでは終われないという思いを強くする。


「今はちょっと無愛想だけど、きっと可愛く笑ってくれるようになるわよね。なんたって、お父さんが明るい人だから」


(俺も自然に笑えるといいな……と思うものの、先行きはまだ不安だ)


 そう思うが、レミリアさんにあやしてもらっていると、俺は自分で思っていたよりも自然に笑えているような気がした。



 ◆◇◆



 異世界での俺の父親は木こりだった。木は初期装備の武具にも使えるし、家などの施設を作るために大量に必要になるため、ゲームでも初期の生産職として第一の選択候補だった。

 父親――リカルドのステータスはこんな感じである。


 ◆ステータス◆


名前 リカルド・ジークリッド

人間 男性 22歳 レベル15


ジョブ:木こり

ライフ:340/340

マナ :24/24


スキル:

 斧マスタリー 30

 鎧マスタリー 15

 盾マスタリー 10

 木細工 12

 気品 10

 恵体 25


アクションスキル:

 薪割り(斧マスタリー10)

 兜割り(斧マスタリー20)

 大切断(斧マスタリー30)

 【木材】削る(木細工10)


パッシブスキル:

 斧装備(斧マスタリー10)

 鎧装備(鎧マスタリー10)

 盾装備(盾マスタリー10)

 マナー(気品10)


残りスキルポイント:0


 ◆◇◆


 なかなかの脳筋戦士系である。鎧、盾装備を取っていること、気品スキルを持っていることから、父も家柄はそれなりに良いのではないか、というのがうかがえた。というか、騎士系のノンプレイヤーキャラの振り方に類似している。騎士も爵位を持っていることがあるから、貴族の扱いになって気品スキルが上がるのだ。木細工スキルが12なのは、生まれてからずっと木こりだったわけではないことも示している。


 リカルドさんは毎日決まった時間に森に行き、木を切り、時に魔物を討伐してアイテムを持ち帰ったり、動物を狩猟してきたりもする。狩猟には「狩人」スキルが必要なのだが、村の仲間を連れて行ってパーティを組むことで、狩人スキルの恩恵を受けていた。


 その狩人の家はローネイア家というのだが、俺が生まれてしばらくして、そこの家にも子供が生まれた。ローネイアさん家の奥さん、サラサさんは、時折子供を連れてうちに遊びに来るようになった。

 リオナ・ローネイア。それが、サラサさんの娘の名前だ。


「リオナちゃんは将来美人さんになりそうね。目鼻立ちが、サラサさんそっくりだもの」

「ヒロトちゃんもリカルドさんに似て、美男子になるでしょうね。リオナと仲良くしてくれるといいのですが」


 サラサさんは物腰が柔らかいが、少し儚げなところがある。ステータスが見えないが、彼女は耳を隠していて、人間族ではないことがわかる。

 というか、ゲームにも出てきた同名NPCなので、俺は彼女がどういう人物かすでに理解していた。ゲームのグラフィックは特徴を捉えてはいたものの、実際の美貌を見ると、すぐに気づくことは出来なかったが。


「うちの子、私やリカルドにもあまりなついてくれないのよね。そこが可愛いんだけど」

「ふふっ……うちの娘もそうですよ。泣いている理由がわからなくて、時折困ってしまうこともあります」

「ああ、それについては、ヒロトは分かりやすいわね。お腹がすいてるとき、泣いておいてから、私が近づいてくるともじもじするの」

「お母さんが来てくれて嬉しいんですよ。すごくなついてくれているじゃないですか」


 まあ、18歳の女の子が授乳してくれるために来てくれたとなれば、もじもじせざるを得ない。もう生まれてから一ヶ月になるが、乳離れまでまったく慣れることが出来なさそうなのであきらめていた。喜びすぎてしまわないように努力するが、ときどきレミリアさんは気持ちよさそうにしているので、もうどうしていいのか。


 そうこうしているうちに、揺りかごの中にいる俺のところへサラサさんがやってきた。うーん、やっぱり何というか……隠してるけど、彼女はハーフエルフだ。癒し系のおっとりした美人で、レミリアさんよりかなり胸が大きい。


 ハーフエルフは、本来人前に出てくることが少ない。その事情も俺は知っていて、この先に発生するクエストに彼女が関わってくることも知っていたが、赤ん坊のうちはクエストが進まないので様子見するしかなかった。


次回は20:00過ぎに更新です。

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