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プロローグ 3

「……つか、夢だろ? あまりにご都合展開すぎんだろ。そろそろ病院で目覚ますとか、そんなオチじゃね?」


 こればかりは本音と大して変わらなかった。異世界に行けるとテンションが上がったところで、さすがにボーナスポイントのくだりは都合が良すぎると思ってしまう。


「夢かどうかは、ボーナスポイントを割り振ってから考えなさい。スキルの種類は覚えてるでしょう?」

「ん……ま、まあ……」


『確かに……割り振るだけ割り振っとくか。もし本当に転生した時のために、ガチで考えないとな……』


 利己的な俺の考えが伝わっても、女神は機嫌が良さそうだ……そこまで気に入ってもらえるとはな。

 しかし、自由に振っていいとは言われたけど……レベルが上がればまた貰えるとはいえ、エターナル・マギアを知り尽くしている俺からすると、ボーナスポイントの無駄振りは、すべてを棒に振る可能性も孕んでいる。

 俺が、俺らしく生きるために必要なもの……ジークリッドであるために必要なもの。

 その第一は、やはり考えるまでもなかった。


「……こ、こ、こう……」


『交渉術。それにまず、100ポイント全振りだ』


 口ではうまく言えなかったが、心の声は「倍プッシュだ」と同じノリで、無謀なまでの自信を漂わせていた。


「やはり、そう来たわね……残り155ポイントは?」

「……これで」


 短く言うだけにして、あとは頭の中で考える。すると俺の心の声が、解説するように勝手に聞こえ始める……便利だけど恥ずかしい。


『強スキルは山ほどあるが、ポイントを振らなくても後から取得できるものも多い。それなら、ボーナスは必要なときのために残しておいて……俺はあんまり幸運な方じゃないみたいだから、幸運にだけは振っておこう。30くらいでいいか』


 ボーナスポイントは取得したスキルに対して後から追加で割り振れるので、125ポイントは今後のために残しておく。俺は貯めるのが好きなので、使うのは当分先になるかもしれない。


「30ポイント幸運スキルに振っておけば、『豪運』が発動する……ということね」

「ああ。序盤で稼ぐ方法としては、『豪運』を発動させて首都でギャンブルするのが一番だからな。豪運はそれ以外にもいい効果があるし、なかなか使えるパッシブだと思ってる」


 エターナル・マギアでは取得したスキルに応じて、必殺技、魔法、盗むなどのアクションスキルが使用可能になったり、『豪運』のように、セットしておくだけで常時効果のあるパッシブスキルを得られたりする。

 俺はゲームでは効率の良くないスキルも多少取ってしまっていたが、交渉術と幸運は文句なしに有用だった。低レベル時に持っておくほど恩恵が大きいと思っている。

 あとはどんなジョブを選ぶかで、取るスキルを変える必要がある……あれ、ジョブは選べるんだろうか。


「ジョブについては、転生後はランダムで決められるわ。9割方村人になるけれどね」

「んだよ……選ばせろよ、そんくらい」


『村人か……俺、初心者の頃はなかなか転職できずにスーパー村人やってたからな。まあ、全然問題ないな。貴族プレーとかもいいけど、いろいろ縛りがあって大変だしな』


 村人でも全てのスキルを取ることが出来る『エターナル・マギア』では、職業によっては固有のスキルを利用できるというメリットはあるが、村人でも剣聖でも楽師でもキャラの強さに大差がない。取得したスキルでステータスが変わるからだ。レベルが上昇するたびに、スキルポイントは3与えられる。それをどのスキルに振るかで、千差万別のキャラクタービルドを行うことが出来るわけだ。

 スキルは三百種類以上あり、恐ろしいことにサービス開始から六年経ってもまだ全て見つかっていない。エターナル・マギアの世界があまりにも広いこと、全十部とされるシナリオのうち、三部までしか公開されていなかったことが原因ではあるのだが。


「……何であんなことになってんのか、わけわかんね」


『エターナル・マギアの規模が並外れてるとは分かってたけど、転生する人間を選ぶためだったってことなら、ちょっと納得いくか……いや、まだ現実味はないけど』


「この世界と私の世界にも、少なからず関係があるということよ。それもクエストの一つだと思って、転生してから謎を解き明かしてみせて。そしてもう一度私のところに辿りつけたのなら、答えを聞かせなさい」


 ゲームの舞台だった異世界を現実として生き、女神に再会するというクエストを達成する。

 まあそれも悪くないが……とりあえず、必死に生きてみよう。異世界の住人として。

 俺はそれを、ずっと渇望していた。だから自分が死んだことに、もう後悔を感じていなかった。


「……まあ、しゃーねえ」


『死ぬんじゃなかったとはもう思わない。俺は別に、陽菜のために死んだことは後悔してないんだ。ただ、別にお前のためじゃないんだからね、俺が勝手に死んだんだからねとは言ってやりたかった』


 冗談めかせて言うが、女神は最初笑ってはくれなかった。しかし少し遅れて、俺のことを何とも気恥ずかしくなるような目をして見てくる。


「そう……あなたが生前いかに恵まれなかったか、どうしようもなかったか。それだけで興味を持ったわけじゃない。あなたが、笑ってしまうくらい善人だったから。それが一番の理由よ」

「……どこがだよ」


『それだけは訂正したい。俺はただの、ロクデナシだ』


 本心からの返事と一緒に、俺はちら、と女神の方を見た。やはりコミュ障の俺でなくても直視できないだろうと思うくらいの、超級の美人だった。ゲームの中で萌え美少女と言われていて、俺自身も入れ込んだサブヒロインたちが、全員かすんでしまうレベルで。


「現実の自分が嫌いだったあなたが、ジークリッドになって、どう変わるのか……楽しみね」


 女神が俺の前に手をかざすと、ウィンドウの表示が変わる。


「異世界に転生しますか? YES/NO」


 少し、ほんの少しだけ迷った。

 それ以上に、俺はエターナル・マギアの世界を生きたかった。

 森岡弘人で無くなることが、どうしようもない俺を育ててくれた両親とのつながりを捨てることであっても。


 ――ああ、やっぱりアカウントハックされる前にちょっとでも金を作って、そんなことで儲けた金じゃ迷惑だと言われても、少しは親に恩を返したかった。

 でもそれすら、本当は。

 自分がゲームに人生を賭けたことを後悔したくなかったからだった。



 ともかく、長い長い女神との対話を終えたあと。


 俺の意識は女神の神殿から遠のいて……次に目覚めたときには。


「おめでとうございます! 立派な男の子ですよ!」

「おぉっ……生まれたのか! よく頑張ったな、レミリア……!」

「はぁっ、はぁっ……あなた……赤ちゃんの顔を見せて……」


 産湯に浸かったあと身体を拭かれ、父に抱かれて母親の顔を覗きこんでいる赤ん坊。それが俺だった。

 とりあえず、泣くことしかできないので大いに泣く。

 赤ん坊は生まれてきたことを呪って泣くとか、そんな話も聞いたことがあったが……。


 俺は本当に転生できたこと、生前の記憶を残したままでいられたことを、喜ばずにはいられなかった。

 これから始まる異世界攻略。俺が知っているのは第三部のシナリオまで……それ以降のことは何も知らない。三部までは何の問題もなく進めるし、手付かずの七部がそのまま残っている。

 エターナル・マギアをもう一度攻略できる。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか。


「あなた……この子の名前は……」

「おう、神官様に頼んで神様から授かってきた。この子の名前は……」


 俺の父親で、栗色の髪をした切れ長の瞳のイケメンは、紙に書かれていた名前を誇らしげに見せてきた。


 ヒロト・ジークリッド


 そのままかよ! ファミリーネームがジークリッドかよ! と、まだあんまり良く見えない目でこの世界での父親を睨みつつ、心のうちで叫んだことはいうまでもない。

 ちなみにエターナル・マギアの公用語は『エルギア語』と言われるものだが、だいたいアルファベットで表記されるので、英語の基礎がわかれば問題なく読める。筆記体で書かれた自分の名前を見ると、英語の授業が始まった時分、まだ学校に行っていた頃を思い出させられて、何ともいえない気分だった。


 ともあれ、転生完了だ。俺は生まれて3日後にようやく少しだけ一人になることが出来て、そこで母親や助産師(?)の隙を見てウィンドウを呼び出し、ステータスを確認することが出来たのだった。



◆転生時のステータス◆


名前 ヒロト・ジークリッド

人間 男性 0歳 レベル1


ジョブ:村人

ライフ:40/40

マナ :24/24


スキル:

 交渉術100

 幸運30


アクションスキル:

 値切る(交渉術10)

 口説く(交渉術30)

 依頼(交渉術40)

 交換(交渉術60)

 隷属化(交渉術95)


パッシブスキル:

 カリスマ(交渉術50)

 【対異性】魅了(交渉術80)

 【対同性】魅了(交渉術85)

 【対魔物】魅了(交渉術90)

 選択肢(交渉術100)

 ピックゴールド(幸運10)

 ピックアイテム(幸運20)

 豪運(幸運30)

 

残りボーナスポイント:125


次回更新は日曜日の夕方くらいになります。

幼少期~できれば少年期までは早いペースでやります。

その間で飛ばした出来事は、必要があればあとで回想する形にします。

まずは明日、一人目のヒロイン登場です。

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