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第十二話 クエストのあとで

※7/5 加筆修正終了いたしました。

 モニカさん、ウェンディ、名無しさんとパーティを組んで、スーさんと別れて。あれから二歳になるまで、俺は一週間のうち半分くらいはみんなと一緒に冒険に出かけた。


 アッシュ、ステラとの交流も続いている。リオナも歩けるようになり、喋れるようにもなってきたので、最近はサラサさんとリオナが家に来ると、リオナと二人で遊ばせられることも多かった。


 俺はリオナのことが嫌いなわけじゃないが、無邪気になついてくる彼女を見ていると、どうしても気が引けてしまう。その笑顔が、幼いころの陽菜に似すぎているから。


 だから俺にとって、モニカ姉ちゃんが家に迎えに来てくれて、冒険に連れ出してくれることは、良い口実にもなった。家にいると二日に一度はリオナが来る、それがどうしても気恥ずかしいからだ。


「赤ちゃんの頃は、こんなにヒロトと一緒に居ることになると思わなかったのにね」

「うん、俺もそう思ってた。でも、モニカ姉ちゃんは強そうだなって思ってもいたよ」


 モニカさんは二歳になっても軽々と俺を腕に抱えている。それほどアマゾネスな体型ってわけじゃなく、スポーティな狩人女性というスタイルなのだが、恵体の数値が腕力に寄与するというのは良いことではないかと思う。筋肉質な女性も嫌いではないが、どうしても柔らかいフォルムに惹かれるものだ。


「強そうなんて思ってたの? やっぱりいろいろ考えてたわけね、赤ちゃんの時から。時々、私達のことじっと見てたりしたしね。この子すごく頭がいいんじゃない? って、ターニャたちと話してたのよ」


 モニカさんは微笑み、俺の頭を撫でながら言う。今日はよく晴れていて、絶好の狩りの日和だが、彼女は本業の狩りは時々お父さんと一緒に行くくらいで、それ以外は俺と一緒に行動してくれていた。


 今はクエストを受注するために、ギルドまで一緒に行く途中だ。レミリア母さんは、俺がモニカさんに狩りを教えてもらっていると思っている――それは間違いでもない。彼女が狩人スキルを使うところを見ると、同じスキルを持っている俺も経験値が入るからだ。


「今日はモンスター退治にする? それとも、採取依頼? 猫探しなんていうのもあるけど、あれがまた大変なのよね」

「行ってみてから選んでみたいな。モニカさんや、みんなのお好みでもいいよ」

「私たちのリーダーさんは今日ものんきなのね。そろそろランクを上げてもいいのよ? それなりに経験も積んだし、Bランクの試験を受ける資格はあるしね」

「Bランクの依頼はこの町にはめったにこないから、Cのままでいいよ。危ないことはするつもりないし」


 俺が言うとモニカさんは上機嫌になる。なぜだろう、と思っていると、彼女はふぅ、とため息をついた。


「ほら、エレナさんのうちの近くに住んでるディーンって子がいるでしょ? あの子、ヒロトより歳上なのにやんちゃばかりしてるらしいのよ。うちの父さんとディーンのお父さんが知り合いなんだけど、子育てについて相談されてたわ。あたしはヒロトのことで手一杯だから、って言っちゃったんだけど」

「そ、そっか……うーん、そうだね。ディーン兄ちゃんは、ちょっと反抗期だからなあ」

「事情を聞けば、分からないでもないんだけどね。おとなしいアッシュが、仲良くしてるのも不思議よね」


 アッシュ兄は誰にでも優しく、ディーンもそんなアッシュ兄を慕っているが、俺とは折り合いが悪い。まだ二歳の俺がときどき達者にしゃべるので、それが気に食わないらしいのだ。まあ、俺がディーンの立場だったら無理もないという気がするので、別に俺からディーンを嫌ったりはしていない。


「おれも仲良くできるようにするよ。ディーン兄ちゃんと」

「そう? あたしはヒロトを独占しちゃいたいから、子供同士もいいけど、毎日リーダーとして連れ回したいくらいだけどね。リオナちゃんっていう、強力なライバルもできたことだし?」

「あ、あはは……リオナは、そんなんじゃないよ」


 近所の幼なじみ、というとやはり前世と境遇がかぶるので、幼なじみという表現すら気恥ずかしい。俺は何をそこまでこだわっているのだ、と自分でも思う。


「あ、そうだ。ヒロト、何か欲しいものはある? それに合わせて報酬の高いクエストを受けてもいいわよ」

「おれは大丈夫だよ。モニカ姉ちゃんは?」

「あたしも今のところそんなにはないわね。父さんも元気だし、狩りの収入だけでそこそこやっていけてるの。あたしも冒険の分け前は、うちにいくらか入れてるけどね」


 モニカさんはお父さんに連れられ、三歳の頃から狩りを習い始めて、獲物を売ってお金を得てきた。そういう彼女だからこそ、幼い俺が相手でも、公平に報酬を分配してくれる。実はポーションや、アイテムの取り引きで相当な資産があるので、クエストの報酬は俺にとってそこまで重要な収入源ではない。

 だから俺は、いつも一緒にパーティを組んでくれる彼女に、出来るだけ感謝を伝えるようにしていた。


「あ、あの、モニカ姉ちゃん。これ……」

「あ……またお手紙書いてくれたの? ヒロトって本当にまめよね。二歳なのに、すらすら文章も書けちゃうし。あたしが二歳の頃は、数字を数えるだけでやっとだったわよ?」


 モニカさんは楽しそうにしながら、俺の差し出した羊皮紙を受け取る。そして、目を通し始めた。


「なになに……」



 ◆ログ◆


・あなたは《モニカ》に手紙を渡した。

・《モニカ》は手紙を読んでいる……。



『モニカ姉ちゃんへ いつも一緒に冒険に出てくれてありがとう。今日も一緒に行けてうれしいよ』


 子供っぽく書くことを心がけているが、二歳の書く文章ではもちろんなかった。文章に関するスキルには『著述』なんてものもあるが、専門的なスキルで、ごく一部の学者系NPCなどしか持っていない。


 なので文章を上達させるには、実際に多く書くしかない。前世の俺はミミズのような字を書いていたが、転生してからの方が、頻繁に手紙を書くようになって上手くなっていた。


「……ヒロトの手紙、本当に可愛いんだから。話すと大人っぽいし、大人が苦労する魔物とも戦っちゃうのにね」


 モニカさんは優しい目で俺を見ると、手紙に視線を戻す。前世なら手紙を渡すなんて男の俺にはありえなかったが、クラスで手紙を回していた女子の気持ちが今は少しだけわかった。途中からメールに移り変わってはいたけれど。


『モニカ姉ちゃんにはいつもお礼をしたいと思ってるんだ。おれをいっぱい連れ出してくれてありがとう。大好きだよ、モニカ姉ちゃん』


「……こういうことまで書いちゃって。言ってはくれないくせに」

「ご、ごめんなさい。でもおれ、そう思ってるから……」

「好きって言葉の意味、わかってないでしょ?」

「わ、わかってるよ。モニカ姉ちゃんを、尊敬してるってことだよね」


 手紙を読み終えたモニカさんは、羊皮紙を律儀にいつも腰につけているポーチにしまう。


「……じゃあ、仕事が終わったあとに、今日もお姉ちゃんにご褒美をくれる?」

「っ……え、えとっ……あの……」

「女心が分かってないんだから……って言われても、まだ小さいから困っちゃうか。ごめんね、ヒロト」


 モニカさんが何をして欲しがってるのかは分かる。俺も採乳は機会があれば積極的にしたいのだが、胸に触れるだけとはいえ、いつになっても嬉しさと恥ずかしさが入り混じってしまう。


 俺としては全然異存はないんだけど。狩人スキルは順調に上昇しているし、モニカさんのバストも成長して――いや、それは単に成長期が終わっていないだけだ。決して「俺が育てた」などと言うつもりはない。元から、ドラフト1位くらいに指名されそうなくらいだったし。何のドラフトだ。


「ヒロト、ときどき私の知らないところで、ウェンディの宿に連れていかれてるでしょ」

「っ……そ、それは……」


(ば、ばれてる……さすがに俺が子供とはいえ、『浮気』ということになるのか……?)


 戦々恐々としていると、モニカさんは俺を怒るわけでもなく、頬をぷにっとつまんできた。


「そんな小さい頃から女の子泣かせてたら、将来が心配になるわよね」

「……きょ、今日は……姉ちゃんのとこに行くから」

「それは……いやいやじゃなくて?」

「う、うん、ほんとに……」


 こんな時は必死でわかってもらうしかない。なんとかモニカさんに、俺の気持ちは通じただろうか……と思っていると。


「はぁ……フィローネがお見合い断ったの、なんでって言えないよね。あたしもこんなになっちゃって」

「……ご、ごめんなさい」

「ううん、ヒロトが謝ることじゃないよ。あたしはヒロトのお願い聞くの、好きだしね」


 いつもさっぱりとしているモニカさんだけど、時々こうやってドキッとするようなことを言う。

 そのたびに俺は、赤ん坊の時分は、なかなか吸わせてくれなくて手強いとか思っていたことを謝りたくなる……思えばモニカさんは、初めから優しい人だった。


「でもヒロト、リオナちゃんを置いてきていいの? 前、ついてきちゃってたけど」

「あ、あいつは……まだ、危ないから」

「隅におけないよね、ステラもヒロトにべったりだし。森のおばばのとこのお孫さんも……」


 モニカ姉ちゃんは勘が鋭いというか、俺の交友関係にとても詳しい。焼き餅を焼いてるんだろうなと思うこともあって……俺はまだ二歳なのに、なんて言うわけにもいかず。


「あ……そっか。ヒロトは大きい胸にしか興味ないから、こっちに来てくれてるんだ」

「むっ……む、胸とかじゃなくて……」


(おっぱい星人であることは見ぬかれてるな……もちろん、モニカさんの小麦色の胸には、これからも惹かれ続けていく。なぜポエム調なんだろう)


 間抜けな考えを読まれたみたいに、モニカ姉ちゃんが俺の頬をぷにっとつまむ。俺はそうされるのが、だいぶ嫌いではなかった。

 しかしクエストが終わったあと、モニカ姉ちゃんの家に行くとわかっていると……何というか、そわそわしてしまうな。



 ◇◆◇



 ミゼールの町で最も大きな建物、冒険者ギルドだ。一階に受付があり、五十人ほどの客が入れる酒場が併設されている。


 朝から飲んでいる人、クエストに出る前の腹ごしらえをしている人。木串に焼いた肉を刺した料理の、香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。まだ肉をガッツリ食べることはできないが、匂いに食欲をそそられるようにはなってきていた。


 モニカさんは俺を抱っこして、ギルドのカウンターに向かう。毎日弓を引いているだけあって、彼女の腕力はかなりのものがあった。


「リックさん、こんにちはー」

「おう、あんたか。またその坊主を連れてきてんのか……あまり良いことじゃあねえぞ? それは」

「大丈夫、危ない目にはあわせないから。色々勉強させてあげたくてね」

「だから、もっと大きくなってから……ああ、もう何度も言ってるからしようがねえな。説教くさいおっさんだ、とか思わないでくれよ」

「うん、思ってないよ。おれは、つるつるのおじさん好きだよ」

「ハゲじゃねえ! 剃ってるだけだ。くれぐれも間違えるなよ、小僧」


 白い歯を見せて笑う、浅黒い肌の筋肉質な中年男性。彼こそが冒険者ギルドの長、リック・ブリュワーズだ。剃りこみを入れた頭が特徴的で、例えは悪いが山賊みたいな見た目をしている。


 彼は『ブリュ兄貴』というちょっとアレな名前で呼ばれていた、ゲーム時代にもいた名物NPCだ。しかし兄貴より、『ブリュ妹』こと、リックさんの妹がもっと有名だった。


「お疲れ様です、モニカさん。本日はどんなクエストをご希望ですか?」


 シャーリー・ブリュワーズ。ミゼール冒険者ギルドの受付嬢で、ゲーム中に何人か登場するメイド服を着たNPCのひとりだ。なぜか、エターナル・マギアの受付嬢のジョブは全てメイドなのである。


 エプロンドレスの胸の部分を大きく張り詰めさせた胸は、ミゼールでも屈指……サラサさんと互角と言っていい。アッシュブロンドのふわふわとした髪に、白いヘッドドレスがよく似合う。いつも笑顔を絶やさないが、目元にある泣きぼくろが、なんともはかなげというか……端的に言って色っぽい。


 ゲーム中の簡略化されたグラフィックからは、この容姿は想像がつかず、最初は驚いたものだった。そして、遅れてあの人気NPCが目の前にいることに感激もした。


「今日はDランクのクエストから選びたいんだけど、掲示板から適当に選んでいい?」

「ええ、ご自由にどうぞ。モンスター討伐は、三人以上のパーティを組むように指定されているものがほとんどですので、それは規定通りにお願いいたしますね」


 三人以上となると、いちおう、二歳の俺を抜いてカウントする必要があるんだよな。残りのパーティメンバー、ウェンディと名無しさんは……と酒場の方を見やると、もう二人が席を立ってこちらにやってきていた。


「私も行くであります! お師匠様、今日もお待ちしてましたでありますっ!」

「もちろん小生も同行させてもらうよ。モニカ嬢とウェンディ嬢だけに、ヒロト君を独占はさせられない」

「あんたねえ……こういうところでそういうこと言わないの」


 モニカ姉ちゃんが小声で釘を刺す。名無しさんの仮面の下の艶やかな唇が、笑みを形作る――今日も色っぽい上に、上機嫌だな。


 それにしてもこの世界で「小生」なんて自分を呼ぶのは、この人だけじゃないかと思う。前世でもそんな口調の人がいたが……ギルドのサブマスだった麻呂眉まろまゆさんだが、彼は男だったからな。オフで実際に会ったことはないけど。


「ヒロト、じゃあこのクエストでいい?」

「うん、いいよ。手頃な難易度だしね」


 モニカさんが掲示板に貼り付けてあるクエストメモを剥がして、シャーリーに渡した。


「Dランクのクエスト、スターラビットの肉の納品ですね。報酬は銀貨百枚で、規定の魔物を依頼中に討伐した場合、報酬に銀貨六十枚足させていただきます」

「気をつけろよ。この頃、倒しても倒してもオークが湧きやがるからな」

「オークなんて敵じゃないわよ。少なくとも、このメンバーならね」


 そう言って胸を張るモニカさん。彼女が俺を見て微笑むのは、俺の斧スキルをあてにしてくれているからだ。

 戦力として期待されるのは嬉しいものだ。二歳なので、それなりの振る舞いをすべきだとも思うが――戦いたい、という気持ちは抑えきれない。


「(今日もお師匠様の斧さばきを見られるなんて、感激であります)」

「(そうだね。彼ばかりに任せるのは悪いけれど……頼れる男だからね、君は)」


 ウェンディと名無しさんが小さな声で話しかけてくる。ウェンディは少し子供っぽさを残した声をしていて(俺の歳で言うことではないが)、名無しさんの声は透き通るような響きで、耳に心地よい。


「(リックさんにはばれないようにね。さ、そうと決まればちゃっちゃとこなすよ)」

「(私は修行中ですから、ヒロトさんを抱っこするであります!)」

「(まあ、ヒロト君も自分で歩けるけどね。びっくりするくらい早いから、周りを驚かせないようにしないと)」


 盗賊スキルが上がると身のこなしにボーナスが入り、機敏に動けるようになる。「忍び足」を使い続けた俺の盗賊スキルは30を超え、それこそアスリート並みのスピードを手に入れていた……が、町中で見せるのは、一般の人々には刺激が強すぎる。



 ◇◆◇



 ゲームでは、町ごとに「危険度」が設定されていて、モンスターを一定数倒すと下げることができた。放っておくと危険度が上がり、町がモンスターに襲われてしまう。そうなると、プレイヤーが襲われている町に集結し、モンスターを協力して撃退することもあった。


 それもあって、俺は子供の頃からどうしても危険度が気になり、モンスター討伐以外の依頼の最中でも、出来るだけ人間に敵対的なモンスターを退治していた。


「はぁぁっ……でありますっ!」



 ◆ログ◆


・《ウェンディ》は「薙ぎ払い」を放った!

・ゴブリンチーフに56ダメージ!


「ま、まだ倒れないでありますかっ……きゃぁっ!」


 ウェンディはゴブリンチーフの反撃を、円盾バックラーで受け止める。攻撃を弾かれたゴブリンチーフに、見逃せない大きな隙が生じた。


「どきたまえっ……あとは小生がやるっ! 『炎よっ!』」



 ◆ログ◆


・《名無し》は「ファイアーボール」を詠唱した!

・ゴブリンチーフに64ダメージ! ゴブリンチーフを倒した!



「あ、ありがとうであります……っ」

「まだ気を抜くのは早いわよっ……!」



 ◆ログ◆


・《モニカ》は「乱れ撃ち」を放った!

・ゴブリンに76ダメージ! ゴブリンを倒した!

・ゴブリンチーフに72ダメージ!

・ゴブリンチーフに70ダメージ!



(さすが……モニカ姉ちゃんの範囲攻撃は頼りになる……!)


 名無しさんは一度詠唱を終えると、再び詠唱可能になるまで時間がかかる。モニカ姉ちゃんもそれは同じで、次弾の装填というタイムラグがある……ならば。


「おれがいくっ……!」



 ◆ログ◆


・あなたは「兜割り」を放った!

・ゴブリンチーフに136ダメージ! オーバーキル!

・ゴブリンチーフを倒した。



 一体を倒したあと、残りの一体が短剣を振りかぶり、俺に振り下ろそうとする。


「お師匠様っ……!」

「……まだっ!」



 ◆ログ◆


・あなたは続けて「大切断」を放った!

・ゴブリンチーフに344ダメージ! オーバーキル!

・ゴブリンチーフを倒した。



 同じ武器種のスキルは、マナが続くなら連発することもできる。組み合わせは限られているが、兜割りから大切断のコンボは、使いやすく強力なことで知られていた。


「……ふぅ。これで……」

「うん、これで全部ね。お疲れ様、ヒロト」

「お疲れ様であります! その小さな身体で、いつもすごいでありますっ!」


 モニカ姉ちゃんが俺に水筒を渡してくれる。いつも彼女が使っているものだが、もはや間接キスを気にするような関係でもない。


「んっ、んくっ……はぁ……」

「私もいただいていいでありますか? 喉がからからで……」

「小生も、詠唱で喉が渇いてしまった。少しもらってもいいかな?」

「あんたたち、自分の水筒持ってきなさいって言ってるのに……わざと聞いてないでしょ?」


 俺が飲んだあとの水筒でウェンディが、最後に名無しさんが水を飲む。二人とも、モニカさんの言うとおり、わざと水筒を持ってきていないようだった。


「はぁ……生き返ったであります。戦ったあとのお水は格別でありますね」


 ウェンディは首都の騎士学校を卒業したが、戦闘能力が足りずに騎士団の入団試験に合格できず、ミゼールで修行のためにクエストを受けている。


 まだ十三歳なので成長の余地があるし、数年以内に試験に受かれば騎士団に入れるだろう。そのときは、広い意味ではフィリアネスさんの部下になるわけだ。


「やはりヒロト君は強いね。この広い世界で、子供なのに強くなれることも、無くはないのだろうが」

「この子は特別でしょうね。こんな子が他にもいたら、ちょっと怖いでしょ」

「それは言えているでありますね。ヒロトさんの戦う姿を初めて見た時は、夢を見ているのかと思いましたし……私をヒロトさんがパーティに誘ってくれた時も、驚いたでありますよ」


 ウェンディはよく俺と出会った当時の話をする。彼女は命を救われたと今でも感謝してくれていて、熱っぽく俺のことを語るので、モニカさんと名無しさんも慣れたもので、笑って相槌を打つのが定番になっていた。


 彼女は俺のパーティに入ってクエストをこなし、成長を実感できたことで、この半年でさらに俺を慕うようになっていた。異世界の住人は「レベルアップ」という概念は知らないが、自分が強くなったということは自覚できるのだ。


「……昔のことを思い出すよ。ヒロト君は、いつもそうだった」

「昔のことって? 名無しがヒロトと仲良くなった理由って、まだ詳しく聞けてないのよね」


 モニカさんが聞くと、名無しさんは首を振る。


「いや、そのこととはまた別の話だよ。思わせぶりなことを言ってすまないね」

「謝らなくてもいいけど……ねえ、ついでに聞いておくけど、その仮面ってどうやったら取れるの? ずっとそのままじゃ気になって仕方ないわよ」

「小生はまだ、自分の顔に慣れていないというか……自信がないのでね。これを外す方法を探すのは、まだ先でかまわないよ」


 名無しさんが言うことは時々気になることがあるけれど、それもおいおい分かることだろう。今の言い方からすると、一生仮面をつけていたいというわけでもないみたいだから。



 ◇◆◇



 クエストの報酬をもらったあと、俺はモニカさんと一緒に家路に就く。Dランクのクエストは結構時間がかかったので、一日ひとつで夕方になってしまった。


「無事にスターラビットの肉を納品できましたけど、本当は自分で食べたかったでありますねっ」

「……あんたたちはなんでついてきてるわけ?」

「わ、私はっ……その……ヒロトさんの弟子でありますから……」

「小生たちを牽制したいのは分かるけれど、同じパーティの仲間として、一緒にヒロト君を労うべきだとは思わないかい?」


 ウェンディ、名無しさん、モニカ姉ちゃんが同時に俺を見てくる。そんな熱い目で見られても、と俺はいたいけな少年に擬態するが、それでごまかせるわけもない。


「たまには、二人きりで……っていうのは、みんなあるでしょ? じゃあ、遠慮しあって、順番に……っていう選択はないの?」

「え、遠慮できないのでありますっ……我慢したら、眠れなくなっちゃうのであります! 一日が終わらないのでありますぅっ!」

「一日でも多くリーダーと一緒にいたいというのは、皆の共通の気持ちだ。このまま帰ると、寝付きが悪くなって深酒をしてしまう。そうすると金欠になり、私は悪い男性に引っかかってしまうかもしれない」

「あんたねえ……そんなこと言って、ヒロトをおどかしてるの? 名無しノーンがヒロト一筋なのは、あたしもウェンディもわかってるわよ」


(……男の人をパーティに入れようとすると断られるからといって、ハーレムを形成してしまっていいのかどうか、僕には未だわからないでいるのです。なぜに文語調だ)


 どうでもいいことを考えて、ちやほやされて浮かれそうになる気持ちをごまかしたくなる。母性は罪なスキルだ……少年に対して弱くなるという補正が入ってしまう。


 俺は純粋にパーティを組みたかっただけなのだが、お姉さんたちはそうではなく、俺もちょっとよこしまな気持ちがあることは否めなくて(主に採乳に対して)、持ちつ持たれつの関係になってしまう。


 なんだかんだいって、俺はみんなにスキル経験値をもらいたい。ウェンディも名無しさんもモニカさんも良スキルを持っているので、バランスよく交流していきたいところなのだが、乙女たちはそれだけでは満足できないようだ。


「せっかく、ふたりきりでお疲れ様できると思ったのに……」

「三人のほうが、お師匠様もよりどりみどりで楽しいはずであります!」

「ヒロト君は、私の場合は一時間で……回も触るのだけど、ふたりは回数が少ないと言っていたよ」

「そ、そんなこと言ってっ……ヒロト、見てなさいっ、あたしだって少しくらいでくらくらしたりしないんだから!」

「私だって大丈夫なのであります! お野菜中心の食事から、適度に肉類も取るようになって、きっと触り心地がよくなってるのであります!」

「え、えっと……それはぜひ、じゃなくて、できたら、その……」


 一人でも結構いっぱいいっぱいなのに、三人一緒に触り比べるというのは……いや、昔からモニカさんと友人二人にお願いするときは、そんな感じだったけど。おかげで、手が感触を覚えてしまった。


「はあ……わかったわよ。じゃあヒロト、今日はみんな一緒でいいから、今度の日曜は、朝からあたしの家に来ること。いい?」

「わ、私も参加するのであります! お師匠様のことは、いつでも見ていたいのでありますっ!」

「同い年の子どもたちに譲りたい気持ちもあるのだけどね。覚えたてが、一番離れがたいというのも否定できない」


 元気でワガママなモニカさん、ジャストフィットで優しいウェンディ、釣り鐘型の艶美な名無しさん。何がとは言わないが、俺はこの三つに優劣をつけることが、今でもできないでいる。



 ◇◆◇



 パーティを組むとき、異性プレイヤーに対して下心を持ってはいけない――それが俺の前世のルールだったのに。

 採乳でスキル上げできるばかりに、俺は誘惑に勝つことができず……気がつけばこんなことに。


「他の人も一緒だと、こそこそしなくて良いので楽しいでありますね♪」

「あたしはそうでもないんだけど……はぁ。こうして順番待ちしてるときが、一番恥ずかしいっていうか……」

「今日は少しだけにしておくのかい? 遠慮しなくても、もう少ししてもらってもかまわないよ」


(……ちょっと大きくなったかな? もう、かなりお世話になったしな)


 名無しさんの胸の手応えから、俺は彼女のバストサイズが大きくなったことを感じ取る。年齢不詳の彼女だが、成長期は終わっていないようだ。


 最初に名無しさんから採乳したときの感動は、今でも覚えている。何度繰り返してもそれは色褪せなくて、それどころか毎回新しい発見がある。


 次はウェンディだ。兜を脱ぎ、鎧も脱いだ彼女の体型は、アレッタさんよりほんの少しグラマーなくらいだが、採乳には何の支障もない。


「お師匠様のパーティに入ったときから、私……女の人に生まれて良かったって思ってるのであります。こうしているとほっとするであります♪」

「いい雰囲気作っちゃって……ヒロト、ウェンディじゃ満足できないでしょ? 早くこっちにいらっしゃい」

「小さくてもいいって言ってくれたでありますよ、手紙で……すごく丁寧で、かわいい文字だったのであります」


(その手紙はぜひ破り捨ててくれ……)


 パーティメンバーに等分に手紙を出している俺。前世の俺だったら「ジゴロか」とツッコミを入れるところだ。ジゴロは前世でも死語だっただろうか。いやそれはどうでもいい。


 戦士と法術士のスキルを彼女たちに与えてもらってから、どちらのスキルもまだまだ上げ足りない。30に達するまでは、こうしてクエストが終わるたびに、あるいは機会があるたびに、お疲れ様を兼ねてスキル上げに協力してもらわなければ。


 しかし俺のことなので、スキルを上げきったとしても、この誘惑からは逃れられない。三人ともが上半身を露わにしているところを見て、服を着たほうがいいとダンディに言えるようになるには、あと三十年は年齢を重ねなければ……。


「続けて小生の番でいいのかい? 今日は、ずいぶん熱心に見つめてくれているね……」

「あ……う、うん。できれば、もう少し……」

「どれだけでもかまわないよ。小生は、今日は体力が余っているからね。こうしていると、むしろ疲れが取れる気分だ」


 採乳は胸の周りの新陳代謝がよくなるみたいで、マナの喪失はあるものの、肩こりに効能があったり、胸の張りが取れると評判だったりする。クエストの後でみんなしてほしがるのは、安眠できるからだそうだ。


「名無しさんの胸の形はすごくキレイでありますからね、お師匠様が見とれる気持ちもわかるのでありますっ」

「そこは負けないといいたいところだけどね。ウェンディも少しずつ大きくなってるし……ヒロトに触ってもらってるからよね、きっと。あたしも初めての時から、少しずつ大きくなってるし」


 採乳で母性に経験値が入るという理由もあるだろう。俺が彼女たちから受けている恩恵の方が、遥かに大きいわけだが。



 ◆ログ◆


・あなたは《名無し》から「採乳」した。

・「法術士」スキルが上昇した! 世界の理に対する理解が深まった。

・《名無し》は微笑んだ。

・あなたは《ウェンディ》から「採乳」した。

・「戦士」スキルが上昇した! さらなる闘争心が目覚めた。

・《ウェンディ》は幸せになった。

・あなたは《モニカ》から「採乳」した。

・「狩人」スキルが上昇した! 狩りの技術が高まった。

・《モニカ》はつぶやいた。「ふぅ……すっきりするわね、やっぱり」



 モニカさんがしみじみとつぶやくと、見ていた名無しさんとウェンディも同意する。ふたりとも、ずっと上半身が裸のままだ……この光景にはいつまでも慣れず、すごいことをしているという気持ちが常にある。


「こうしている時間が、小生は最も癒やされるよ。ヒロト君が早く帰らなければならないときは、すごく寂しいからね……今日は十分に時間をとってもらうよ」

「私も心からそう思うであります……お師匠様と、時には一日中、こうして過ごしたいのであります」

「ヒロト、目移りしてるでしょ。いいよ、これからは私しか見えないようにしてあげるから」


 モニカさんがそう言うと、名無しさんとウェンディが対抗意識を燃やす。俺はといえば、嬉しい半面、このまま大きくなったらどうなるんだろうと他人ごとのように考えていた。


 パーティの絆は大切だ。しかし、さすがに明日はクエストを休み、子供らしく過ごすことにしよう……。


 懺悔しながら、俺はモニカさんの膝に乗せられ、小麦色の双丘を下から支えつづけた。ここは俺が支えるから先に行け、のポーズで。


※次回は子供らしく。お話も進みます。

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[一言] 母性スキルが上がって大きくなってしまうだと...? スキル貴様この野郎
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