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第九話後編 天国への階段

※本日は前後編に分けてアップしています。最新話をご覧になる際は

 ひとつ前の前編からご覧ください。

 地下から出て居間に戻る。もう夜も遅いし、寝る時間だ。


「では、ヒロトは俺が連れて行きます。寝かしつけるのは下手なんですがね」

「そうだな。少し怖い思いをさせてしまったから、緊張しているようだし……」


 フィリアネスさんが俺を父さんに渡そうとする。そのとき俺はされるがままになりそうになって、このままではいけないという強い衝動に駆られた。


(……ダメだ。このまま、思ったことを何も伝えられずにいるのは……!)


 今までは彼女の目もほとんど見られず、ただ魅了スキルが発動するのを待っていた。ログを見て一喜一憂するだけで、棚ぼたで強くなれることばかりを願っていた――でも、今は違う。


(他にも出来ることがある……交渉術スキルの有用性は、「魅了」だけじゃない……!)


 まだフィリアネスさんの腕の中にいるうちに、俺は「選択肢」を発動させる。マナの喪失感とともに、ダイアログが表示された。



 ◆選択肢ダイアログ◆


1:《フィリアネス》に「口説く」を行う

2:《リカルド》に「依頼」を行う

3:《フィリアネス》に「依頼」を行う



(これが運命の選択……そうだ……「口説く」と「依頼」があった……!)


 パッシブスキルではなく、能動的に発動するアクションスキル。喋れない俺でも、「口説く」「依頼」が出来ると、選択肢が示してくれている。

 選択肢は有効な行動を示すため、いずれも何らかの効果があることになる。しかし効果には差がある……俺の望んだ結果になるかは分からないが、それでも、可能性はゼロじゃないはずだ。


(……やるしかないっ……!)



 ◆ログ◆


・あなたは《フィリアネス》に「依頼」をした。



「あー、うー」

「ん……ど、どうしたのだ? そんなにしっかりしがみついて……」


 だ、だめだ……疑わしい顔で見られると、前世のトラウマが蘇ってくる。

 何をすればいいのかわからない。でも、フィリアネスさんにまだ一緒にいてほしい。

 それがスキルが欲しいなんて気持ちであっても、欲しいものは欲しい。だったら、頼みこむしか……「依頼」するしかない……!


(目を見るんだ……ちゃんと目を見て、お願いするんだっ……!)


「……ばぶー」

「っ……ど、どうしたのだ。そんなにきらきらした瞳で見て……さっきまで、そんなことはなかったのに……」

「はっはっ、そうかそうか。ヒロトはやはり隅に置けないな」

「そ、それは……どういうことなのか、教えていただきたい」

「うちの息子は、女性の美しさがこの年で分かっているということですよ。なあ、ヒロト坊」

「う、美しいなどと……本当に、そう思って……?」


 ゼロ歳児の俺が、女の人を口説けるわけもないが、「依頼」はできる。なになにをしてほしい、と哀願することを、本能的に理解しているからだ。

 俺はフィリアネスさんから目をそらさない。心臓はバクバクして、今にも壊れそうだ……でも、逃げない。

 父さんの覚悟を知って、それでも受け身のままでいたら、俺はいつか父さんの足手まといになってしまう。


「母さんが焼き餅を焼くから、父さんは知らなかったふりをしておくからな。ヒロト坊、お姉さんにたっぷり甘えてこいよ」

「あっ……り、リカルド殿っ……!」


(さすがですお父様……!)


 父さんは俺をフィリアネスさんに託して寝室に向かった。残された俺は、もはや縋りつく思いでフィリアネスさんを見つめる。


「う……うぅ……そんな目で見るな……胸がせつなくなる」

「……あぶー」

「くっ……わ、分かった、一緒に寝ればいいんだろう! 私は寝相が悪いから、変なことになっても知らないからな!」


 カランコロン、と祝福の鐘が鳴り響く。


(やった……やったぞ。フィリアネスさんと一緒に寝られる……!)


 これなら確実に……いや、今はスキルのことは留め置く。

 赤ん坊ゆえに甘くしてもらえてるのはわかってる。でもコミュ難の俺が、初めて自分の気持ちを人に伝えることができた。


 「依頼」の成功率は、代価を払わなければ極端に低くなる。しかしゲームのシステムだけが全てではない……異世界の人々には、それぞれ感情があるのだから。


「……マールとアレッタが起きていたら、何を言われるか……あっ……」


 フィリアネスさんが何かに気づいたように俺を見る。そして、自分の胸を見下ろした。


「ひ、ヒロト……お腹がすいていたりは……してもらっては困るのだが……ど、どうなのだ……?」


(っ……き、来た……来てしまった……!)


 そ、そうです、俺はお腹がすいています。放っておいたら決して満たされない飢えにさいなまれ、このままではとても、静かにすやすやと眠ることなどできない……!



 ◆ログ◆


・「魅了」が発動! 《フィリアネス》は抵抗に成功した。



「……い、いや、何でもない」

「ば、ばぶー!」

「な、何をっ……わ、私は何も言っていないぞ! 不満そうにするのはやめてもらおう!」


 赤子と本気でケンカをするフィリアネスさん。まあ確かに俺の態度が不満たらたらなので、怒られても仕方がないか。

 しかし魅了が通らなくても、いけそうな気が……でもマナがゼロだ。ね、眠い……。


(……無念……)


「っ……ひ、ヒロト! どうした、眠いのか!?」

「……すー、すー……」


 フィリアネスさんの驚く声を聞きつつ、俺は意識を失う。こればかりはどうしようもない。

 俺はやれるだけのことはやった。彼女の滞在期間は一日じゃないみたいだし、まだ諦める必要は……ない……。



 ◇◆◇



 ふわり、と意識が浮上する。


 今は何時だろう……まだ辺りが暗いような気がする。俺はまどろみながら、自分の状況を確かめようとする。


「……任せられた以上は……私にも、責任が……」


 小さなつぶやき声。そして、石鹸の匂いがする。これは……フィリアネスさんの……。

 ん……何かログが流れてきた。この状態で選択肢って……いったい何だろう。














 ◆選択肢ダイアログ◆


・《フィリアネス》が「採乳」の使用を許可しています。実行しますか? YES/NO












(…………)


 一瞬、思考が凍結した。

 そのあとで、物凄い感情の波が、身体の内側から爆発的に溢れてくるのがわかった。


(うぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!)


 ここは、三人の女性騎士が泊まっている部屋……フィリアネスさんが俺に添い寝をしたまま、胸をはだけて、その豊かなふくらみを見せてくれている。

 月明かりだけが差し込む部屋の中で、神秘的なまでの美貌を持つ少女が、薄く色づいた部分を恥じらうように控えめに手で隠しながら、俺を見つめている。


「……私があせって、怒鳴ってしまったから……怖がらせてしまって、すまない……」


(そ、そんなこと全然ないんだけど……い、いいのか……いいんだろうか……っ)


 俺がお腹がすいたと訴えたあと、マナ切れで眠ってしまったことを心配して、彼女はマールさんたちの見よう見まねで、「採乳」を使わせて元気にしてくれようとした……ということなのか。


 魅了もなにも成功してないのに採らせてくれた人は何人かいるけど、フィリアネスさんがそうしてくれるなんて、絶対に無理だと思っていた。

 けれど豊かな隆起を持つ形の良い胸は、現実に、俺の目の前に差し出されている。


「そ、それとも……こういうことではなくて……何か、違うことの方が良いのだろうか……やはり、マールかレミリア様に頼んだほうが……」


 選択肢の時間切れが近づく。10、9、8、7、6……。


(……これが最後のチャンスだ。これを逃したら、絶対後悔する……!)


 最後の5秒のカウントが始まったとき、俺は動いた。

 静かに輝き始めた手を伸ばして、服をたくしあげて差し出された二つの山に、小さな手を触れさせる――今まで一度も経験したことのない弾力。ふよん、という、優しく包み込まれるようで、けれど手を押し返してくるワガママさ、およそ美乳というものに必要な要素を、すべて彼女の胸は兼ね備えていた。


「……こうして触れるだけで、力を与えてあげられる。私もそんなことが出来るのだな……とても、優しい気持ちになる……」



 ◆ログ◆


・あなたは《フィリアネス》から「採乳」した。ライフが回復した。

・【神聖】剣技スキルが獲得できそうな気がした。

・《フィリアネス》は幸福になった。



「あぶー……」

「む……まだ物足りないのか? では、続けてもいいのだぞ……私はおまえのことを、夜のあいだじゅう、見ている義務があるからな……」


 フィリアネスさんは俺の頭を撫でて、もう一度同じことを繰り返すように促してくれる。


 また、あの感触に触れられるのか。考えただけで頭がぼーっとしてくる……あまりにも、幸せすぎて。



 ◆ログ◆


・あなたは《フィリアネス》から「採乳」した。ライフが回復した。

・あなたは【神聖】剣技スキルを獲得した!

・《フィリアネス》は顔を赤らめた。


「ばぶー……!」

「ふふ……あまり大きな声を出してはだめだぞ。みんなが起きてしまうからな……」


(やっと……やっと手に入れたぞ……!)


 出会ってから一日目の夜なのに、もう何年も経ってここにたどり着いたような、そんな達成感があった。

 母性もマナも高いフィリアネスさんは、吸っても全然消耗していない。14歳なのに……。

 最初は母性システムをゲーム的なものだと割り切っていた俺だが、もう認めるしかないだろう。


(異世界って素晴らしいな……エターナルマギアをやってて、本当に良かった……)


「……ようやく落ち着いたか? 私もそろそろ寝なければいけないから、今日はこれまでだぞ」


(きょ、今日はっていうことは……またお願いできるってことなのか……!?)


 フィリアネスさんが胸をしまい、俺の頬を撫でてくれる。至れりつくせりすぎて、俺は満ち足りた気持ちになっていた。



 ◆ログ◆


・「魅了」が発動! 《フィリアネス》は抵抗に失敗、魅了状態になった。



「っ……!?」


 びくっ、とフィリアネスさんの身体が震えた。そして彼女が俺を見る目の色が、みるみるうちに変わっていく。



 ◆ログ◆


・《フィリアネス》はあなたを見つめている。

・《フィリアネス》は幸せになった。



 魅了が決まらなくても採らせてくれると言っていたのに、ダメ押しが見事に決まってしまう。こんなことになったら……ど、どうなるんだろう……?


「……レミリア様には申し訳ないが……今日だけというのは勿体無いな。ここに滞在するうちに、もう一度くらいは一緒に寝てあげられるだろうか……」


 熱っぽい瞳で見つめてくるフィリアネスさん。寝て起きる前はすっかり諦めていたので、頭の理解がついていけない。


 あれほど成功しなかった魅了が、ついにかかってしまった。そして、彼女は俺に添い寝をしてくれていて……と、ということは……。


「まだ、夜明けまで時間があるな……ヒロト……」


 一度着た服を、また惜しみなくはだけ始めるフィリアネスさん。それを見ながら、俺は自分のギルド名を思い出していた。


 天国への階段。それはまさに、今俺の目の前にある光景そのものだった。

 輝く手の光が、暗がりの中で再び姿を表した白い双子の丘を照らしだす。そのまばゆいまでの輝きに、俺は惹かれ、再び手を伸ばす――。



 ◆選択肢ダイアログ◆


・《フィリアネス》が「採乳」を許可しています。実行しますか? YES/NO

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