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第七話 従騎士ふたり

 我が家まで同行することになったフィリアネスさんは、他に二人の部下を連れてきていた。


「フィリアネス様、途中から私たちを置いて行っちゃうなんてひどいですよ~」

「ハーフプレートメイルなど装備しているから、重くて足が鈍るのだ。私は一定のペースで進んでいるつもりだったが、勝手にお前たちが遅れたのではないか」

「わたしは軽装なんですけど……フィリアネス様の足が速すぎるんです」


 マールギット、アレッタと名乗った二人の従騎士は、フィリアネスさんより年上だが、彼女に対して敬語を使っている。マールギットさんはセイントナイトの下位職にあたるナイトで、アレッタさんはメディックだった。回復系の職業だが、武器もある程度使えるため、騎士団などに所属している回復役は治癒術師ヒーラーではなく、衛生兵メディックの場合が多い。


「ごめんなさいね、荷物を持ってもらってしまって。本当に助かるわ」


 レミリア母さんは買い物の途中だったが、怪我をしてしまったのでマールギットさんに荷物を任せていた。


「あ、いいんですよ~。私、歩くのは遅いですけど、フィリアネス様より力持ちですから」

「む……わ、私だって、今より厳しい鍛錬を積めばすぐに追いつく。調子に乗ってもらっては困るな」

「フィリアネス様はその細腕で、すごく力がおありになるじゃないですか。マールさんしか腕相撲で勝てる人もいませんし」


 マールギットさんは「マール」という愛称で呼ばれているようだ。俺はレミリア母さんの背中におぶさり、三人の会話に耳を傾けていた。



 ◆ログ◆


・「カリスマ」が発動! 《マールギット》《アレッタ》に注目された。



(……いやいや、さすがに即座にステータスを見るなんてことはしないぞ)


 マールさんとアレッタさんが、俺の顔を見ようと近づいてくる。マールさんは身長が高く、長い赤毛を一本の三つ編みに結んでいて、そばかすがあるけれど肌が白い美人だ。全身をハーフプレートメイルで固めているが、胸や関節の部分が女性向けに加工されている……男性向けと女性向けが別にあるんだな。


 そしてアレッタさんは、ふわっとしたセミロングのブラウン髪で、リアルにおいてはオフィス街のOLなどをやっていそうな容姿をしていた。年齢的には大学生くらいだろうか。


「……こっちを向いてくれませんね~。無理やり向かせちゃうぞ~」

「む、無理やり剥くとか、赤ちゃんに何を言ってるんですか? ダメですよ、そんなっ」


 ◆ログ◆


・「魅了」が発動! 《マールギット》は抵抗に失敗、魅了状態になった。

・「魅了」が発動! 《アレッタ》は抵抗に失敗、魅了状態になった。



「っ……う、うーん? ちょっと胸がおかしいような……何も変なもの食べてないのに……アレッタちゃん、あとで診てもらっていい?」

「私も何か……その、落ち着かないというか。あ、あの、レミリア様、この子の名前は……?」

「あぁっ、また……ヒロトったら本当にもう。すみません、この子はちょっと不思議なところがある子で……」


 俺を甘やかしてはいけない、とレミリアさんが説明する。確かにそうかもしれない、とこれからしようとしていることを棚に上げて同意する俺。だんだん悪人になりつつあるような……。


 しかし「授乳」は、悪行ではないはずだ。悪行を行うと「カルマ」が上がるので、ログに表示されるはず……システム的には問題のない行為だ。カルマに関係なく、母さんに嫉妬させないためには、授乳は受けるべきではないのだが……。


(俺が自分で動ける年になって、さっきみたいなことがあったら……その時は、自分で母さんを守りたいんだ)


「む……何か遠い目をしている。赤ん坊なのに、思慮深い印象を受けるのはなぜだろう」

「赤ちゃんだって色々考えてるんですよ~。こっちを見てくれませんけど、可愛いですねぇ。あばば~、べろべろば~!」

「マールさん、いちおう騎士団員なんですから……少し自重してください」


 マールさんは身体は大きいが心は少女のようだ……ゲームの時はまったくしゃべらず、フィリアネスさんの傍に立ってるだけだったから、新鮮な感じがする。アレッタさんも真面目キャラとは知らなかった。



 ◇◆◇



 ミゼールの町の北にある教会を中心にして、大きめの邸宅が集まっている。その中のひとつが我が家である。町の人口は1500人くらいで、全部で三百世帯近くが住んでいる。ゲームより人口が多いので、俺が知らない人物がほとんどだが、たまに見覚えがある人もいた。サラサさんはその一人だが、ハインツさんとリオナはゲームには未登場だ。


 俺の家やサラサさんの家のように三人家族というケースは少なく、五人~六人家族が平均的だ。サラサさんたちも近くの家に住んでいるが、うちよりはかなり小さい。うちは二階建てで地下室まであるが、サラサさんの家は平屋だった。これは、レミリア母さんの出自による差が大きい。


 町の周囲は木の柵で囲われているが、周囲に危険なモンスターが出没するわけでもないので、そこまで厳重に守られていない。ゴブリンが出ても、あっさりガードの人たちが撃退したり、捕まえたりしているようだ。低レベルモンスターといえば小動物系もいるが、繁殖期以外は人里には近づかないし、こちらから仕掛けないと攻撃してこない動物がほとんどだった。


 つまり、ミゼールは基本的には平和な町だ。さっきみたいな事件はめったに起こらないが、今後は気をつけていきたい。


「こちらがレミリア様の邸宅……やはり、ハウルヴィッツの伝統的な造りになっておりますね」

「ええ、父が祖父から譲り受けたものを、この町の人を雇って管理してもらっていたの。リカルドと私が首都を離れることになってから、借り受けているわ」

「お父さんのお家ですから、借りたんじゃなくて、もらったって言いませんか?」


 マールさんが素朴に疑問をぶつけるが、レミリア母さんと実家には複雑な関係があるらしくて、「借りている」という表現をしている。それを察して、フィリアネスさんも、アレッタさんも苦笑した。


「申し訳ありません、部下が非礼を……マールは素直なところが長所だが、時々素直すぎる」

「うっ……す、すみません。空気が読めてなくて、つい」

「失言で騎士団を追放……なんてことには、二度とならないようにしてくださいね。せっかく、フィリアネス様が拾ってくれたんですから」


 マールギットさんは失言で騎士団を追放されかかったことがあるのか……まあ、何というか、天然っぽいしな。

 しかし他人に誤解されやすいというか、つい焦って失言してしまうことの多かった俺には、けっこう親近感が持てた。そんなわけで(どういうわけだ)、俺は家に入るときに、マールさんとアレッタさんのステータスを見せてもらった。


 ◆ステータス◆



名前 マールギット・クレイトン

人間 女性 16歳 レベル8


ジョブ:ナイト

ライフ:460/460

マナ :24/24


スキル:

 棍棒マスタリー 25

 鎧マスタリー 30

 騎士道 20

 恵体 35

 母性 28

 不幸 10


アクションスキル:

 インパクト(棍棒マスタリー20)

 敬礼(騎士道10)

 授乳(母性20)


パッシブスキル:

 棍棒装備(棍棒マスタリー10)

 気迫(騎士道20)

 鎧装備(鎧マスタリー10)

 鎧防御上昇(鎧マスタリー20)

 重鎧装備(鎧マスタリー30)

 育成(母性10)

 ハプニング(不幸10)

 オークに弱い


残りスキルポイント:4



 ◆ステータス◆


名前 アレッタ・ハミングバード

人間 女性 20歳 レベル11


ジョブ:メディック

ライフ:76/76

マナ :120/120


スキル:

 杖マスタリー 10

 軽防具マスタリー 10

 白魔術 10

 衛生兵 30

 魔術素養 10

 恵体 3

 母性 19

 気品 10


アクションスキル:

 治癒魔術レベル1(白魔術10)

 応急手当(衛生兵10)

 包帯作成(衛生兵20)

 毒抜き(衛生兵30)


パッシブスキル:

 杖装備(杖マスタリー10)

 軽防具装備(軽防具マスタリー10

 マナー(気品10)

 育成(母性10)

 「のぼせ」になりやすい


残りスキルポイント:13



(……これを見ると、色々と分かることがあるな)


 フィリアネスさんも「騎士道」を持っていて然るべきだというイメージがあるが、持っていなかった。

 騎士になるために必須のスキルというものはなく、条件を満たせば転職出来る。それはゲームと変わらない。つまり、フィリアネスさんは最初からセイントナイトになり、マールさんはナイトになったため、マールさんはナイトの固有スキルの「騎士道」を持っているのだ。

 

 数字のキリがいいものが多いのは、彼女たちにはスキル振りをしている自覚がなく、必要なものに勝手に振られるので、アクション・パッシブスキルが発動するポイントまで振られやすいということだろう。一部の例外もあるが、だいたいのものが10の倍数で発動する。


(しかしフィリアネスさんも二人も、弱点パッシブがついちゃってるのが気になるな……)


 女騎士はオークに弱いというのは、騎士団にオーク討伐任務が多く持ち込まれるので、オークのスキル「汚い悲鳴」を食らってしまうからだ。これを聞くとオークに弱くなってしまう。


 オークをオーバーキルして倒し続けると「オークに弱い」はなくなるので、フィリアネスさんは「少し弱い」で済んでいたが、マールさんは普通にオークに弱い。これも女騎士はオークに弱いというイメージを、「エターナル・マギア」が忠実に守ってしまったがゆえのシステムだった。


(あと、フィリアネスさんはスライムにも弱かったな……そしてマールさんは不幸スキルを持ってしまってて、アレッタさんはのぼせやすい、と) 


 攻略のヒントになるかは分からないが、知っておくに越したことはない。


(ん……まてよ。のぼせるってことは、風呂に入った時のバッドステータス……風呂……)


 考えているうちに、レミリア母さんがみんなを家の食堂に案内していた。フィリアネスさんは落ち着かなさそうにしつつも、控えめに辺りを見回し、マールさんは普通に家具などに近づいて見ていて、アレッタさんはやれやれ、と頬に手を当てている。三人共それぞれな性格だな……ターニャさんたちもそうだけど。


「皆さん、長旅で疲れたでしょう? お湯を沸かしますから、お風呂に入ってさっぱりしてきてください」

「よろしいのですか? 私たちは、町で宿を借りようと思っていたのですが」


 フィリアネスさんが遠慮がちに尋ねる。母さんは朗らかに笑って答えた。


「ミゼールは小さな街だけれど、狩場や鉱山が近いので、冒険者は数日前から宿を押さえておくのよ。それを知らなかった人たちは、酒場で一晩明かすことになって大変なの」

「ふぁー……お酒の匂いがするところって、私苦手なんですよ~。想像しただけで酔っ払っちゃいそうです」

「わたしも、出来れば騒がしくない、屋根のあるところで休ませてもらいたいです……」


 マールさんとアレッタさんは率直な意見を言うが、どうやらフィリアネスさんも気持ちは同じようだった。


「では……かたじけない。リカルド氏に会って話したあとに宿を探そうと思っていたのだが、この家の軒下を借りさせていただきたい」

「ふふっ……そんな硬い言葉を使わなくてもいいのに。フィリアネス様は生真面目でいらっしゃるのね」

「むっ……わ、私は剣しか知らない女で……知らずに非礼を働いているとしたら、謝罪せざるをえない……」


 やはりしゅん、としてしまうフィリアネスさん。金髪の物凄い美少女だけに、その姿には、0歳児の俺でも保護欲をそそられざるを得ない……と、彼女の口調が伝染ってしまった。


「雷神さまは戦闘では鬼強いですけど、本当はとっても可愛いところのある方なんですよ~」

「鬼強いって……変な言葉を使わないでください、マールさん。それに公国最強のフィリアネス様に向かって、可愛いだなんて」

「も、もういい。そこで公国最強と言われても、恥ずかしいだけだ……私はまだ未熟者だ。早く大人になって、おまえたちを見返してやりたいものだ」


 フィリアネスさんは言って、荷物を入れていたバックパックを取り出す。革のバックパックは、騎士装備にはあまり合わないが、容量的にはかなり使える道具入れインベントリーだ。


 ゲーム通りなら、インベントリーの容量の数値だけ、質量の法則を無視してものを入れられることになるが……ああ、やっぱりそうだった。フィリアネスさんは鎧を外すと、バックパックに入りそうもない大きさの具足とショルダーパッド、チェストプレートをしまい込む。どうなってるか分からないが、あれは便利だな。


「あれほどの強さなのに、とても華奢な身体をされているんですね……そのわりに……」

「む……ま、まあ、なかなか筋肉がつかないのだが、そこは技で補えていると思っている」


 レミリアさんは鎧を外したフィリアネスさんの胸を注視しているが、フィリアネスさんは気づいていない。華奢なのに胸が自分より大きいことを、うちの母さんは気にしているのだ。


(し、しかし……布鎧クロースアーマー以外をここで外すとは思わなかったから、ちょっとすごい光景だな……リカルド父さんには見せられないぞ)


 自分のことを棚にあげつつ、俺は金属の鎧を外していく三人の女性を見ていた。マールさんは身長が高いだけに、胸が大きくてもサラサさんほどのギャップはない。そして、アレッタさんは……。


「ほっ……」

「な、なんでしょうか、レミリア様……そういった反応をされると、恥ずかしいのですが」

「い、いえ……ごめんなさい、なんでもないから気にしないでね」



 ◆ログ◆


・《レミリア》はつぶやいた。「私が小さいわけじゃないのよね、やっぱり」

・《フィリアネス》はつぶやいた。「着いて早々風呂に入れるとは幸運だった。汗をかいてしまったからな……」

・《マールギット》はつぶやいた。「今日のご飯はなんでしょね~」



 どれだけ小さくつぶやいてもログに出てしまうのは、いつか差支えがないだろうか……と思う。まあ、口に出さなければログには乗らないけど。


 つまりアレッタさんは、比較的胸がひかえめなのだった。レミリア母さんとは身長が同じくらいで、スレンダーな体型をしているといえる。

 母性19というのをしっかり確認していた俺は、母性は胸の大きさに比例してしまうんだろうか、と考えていた。母性スキルが大きいほどプラス補正があるから、格差は広がるばかりだ……と考えるのも失礼だな。


 しかし、前の授乳から時間が空いたのでお腹が空いた。レミリア母さんにもう一度お願いしておこう……と思った矢先。


「レミリア様、お怪我をされている様子ですね。申し訳ありません、気づくのが遅れて……すぐに治療いたします」

「い、いえ、大したことはないのよ、これくらい」

「いいえ、擦り傷ができています。擦過傷はきちんと消毒しておかないと」


 アレッタさんは手際よく、母さんの腕のすり傷を治療する。「清潔な布」に対して「包帯生成」スキルを使い、包帯を作ったあと、「応急手当」で治療する。仕上げに消毒も兼ねた治癒魔術をかけてくれて、母さんのライフは完全に回復した。


「今日一日は安静になさってください。数時間で傷も消えるでしょう」

「は、はい……でも、困ったわね。この子をお風呂に入れてあげないといけないんです、うちの主人が帰ってくる前に」

「よろしければ、私たちが入れてあげますよ~。ね、ヒロトちゃん」


(ぶっ……!)


 思わず耳を疑ってしまった。今日は父さんに入れられる運命かと思っていたら、マールさんが迷いなく誘ってくるなんて……いや、風呂に入れてくれようとするなんて。


「マールさん、大丈夫なんですか? 赤ちゃんはデリケートなんですよ」

「うちの親戚の子たちを、よくまとめてお風呂に入れてあげてたから。赤ちゃん一人なんて、お茶の子さいさいだよ~」

「む、むむ……赤ん坊といえど、男といえば男なのだぞ。乙女の肌を、殿方にさらすわけには……」



 ◆ログ◆


・《フィリアネス》は警戒している。

・《マールギット》はあなたを見つめた。

・《アレッタ》はあなたを見つめた。



 ◆ダイアログ◆


・《マールギット》はあなたの命令を待っている。命令しますか? YES/NO

・《アレッタ》はあなたの命令を待っている。命令しますか? YES/NO



(魅了状態だから、こうなるよな……でもレミリア母さんを嫉妬させたくはないし……ど、どうすればいいんだ……!)


「あ、あの……うちの子と一緒にお風呂になんて入ると、その、何て言うのか、おっぱいをあげたいっていう気持ちになってしまうかもしれなくて……あぁっ、私も何て説明していいのか……」

「え、えっとっ、私、それくらいなら何とか大丈夫です。アレッタちゃんは無理だけど」

「はぅっ……は、はっきり言わないでください! 気にしてるんですから!」

「む……マールが良くても、わ、私は……神にこの剣を捧げた身として、簡単に裸を見せるわけには……っ」



(っ……そ、そうだ。風呂に入れば、絶対に装備が外れる……フィリアネスさんのサークレットも……!)


 今はまだ外していないが、さすがに髪を洗うときは外すだろう。そのとき、「魅了」の判定が入れば……!


「っ……え、えっと。レミリア様、お願いです、ヒロトちゃんをお風呂に入れさせてください~!」

「私からもお願いします。その、後学のために……というと失礼ですが、赤ちゃんをお風呂に入れるって、とても貴重な体験になると思うんです」

「あ、アレッタまで……なぜそんなに、ヒロトを風呂に入れたいのだ……っ!」


 フィリアネスさんが顔を赤らめつつ、信じられないという反応をする。しかしマールさんとアレッタさんの意志はまったく揺るがず、俺に優しい視線を注いでいる。


 ――神よ、俺はまた罪を犯しました。


 つまり俺は、マールさんとアレッタさんに「命令」してしまったのであった。システム的には問題ない行為でも、見えないカルマが積み上がっていく……そう、俺はスキル上げに魂を売った男だ。


「そ、そこまで言うなら……分かりました、お願いします。ヒロト、おいたはしちゃだめよ?」


 レミリア母さんからマールさんに引き渡される俺。最後に残った反対派のフィリアネスさんは、端正な口元をぷるぷると震わせ、涙目になっていた。くっ……14歳の少女に泣かれると、さすがに申し訳ない。

 しかし俺は心を鬼にする。ここでセイントナイトのスキルを取った暁には、誇り高き騎士の魂を受け継ぎ、人々を護る力にすると約束する……!


(神・聖・剣技! 神・聖・剣技!)


 プルプルしているフィリアネスさんを、ついに俺は内心で煽ってしまう。なんて外道。でも仕方ない、セイントナイトが目の前に居て、見逃すわけに行くか、否、そんなわけがない。

 俺はフィリアネスさんが滞在しているうちに、絶対に攻略してみせる。赤ん坊でいるうちに接触できたこのチャンスを、絶対に逃しはしない……!


「フィリアネス様、ご無理にとは言いませんよ~。私たちだけでも入れてあげられますし」

「そ、そうです。そんな、涙目になるほど恥ずかしいのなら……でも、赤ちゃんですよ?」

「……だー、だー」


 愛嬌を振りまこうとするが、やはり素の俺ではフィリアネスさんの心は動かない……万事休すか。


「……わ、私は……赤ん坊が嫌いではない。しかしヒロトはすぐそっぽを向くのだ。きっと、私は嫌われているに決まって……」

「そんなことはありませんよ、さっきも言いましたけど、うちの子はフィリアネス様になついています。それは間違いありません」


(母さん……!)


 俺のことを最もマークしているレミリア母さんがフォローしてくれた。純粋な気持ちで言ってくれたんだろうけど、俺で無理なら、母さんに説得してもらうしか方法がない。


「……母君が、そう言うのなら。疑うことは、失礼に値するな」


 みんなの視線を受けていたフィリアネスさんが、ふっ、と表情を和らげる。そして、マールさんに抱かれている俺を、そっと優しく受け取った。


「私のことが怖いかもしれないが、あまりつれなくするな。これから一緒に湯船に浸かる身だ、仲良くしよう」


(我が人生に一片の悔いなし……!)


 フィリアネスさんが俺を覗きこんで言う。俺はこの瞬間のことを、忘れることはないだろう。

 いや、ここからが難関だ。必ずフィリアネスさんのガードを突破して、1だけでいい、「【神聖】剣技」スキルを手に入れてみせる……あくまで、この先にある苦難とか色々を乗り越えるために!


「……ずっとそっぽを向かれているのだが。やはり、私以外で入った方が……」

「なーに言ってるんですか~、雷神様が一度言ったことを撤回しちゃだめですよ~。さ、行きましょう!」

「この子……愛想はよくないのに、目を放せないというか……この気持ちはなに……?」


 風呂場に連れていかれる俺を、レミリア母さんはあきらめたように見送っていた。おいたはほどほどにするので、どうか許してほしい。今は、今だけは、人生の勝負の時なのだ。

今回は一話あたりの文字数を倍にしてお送りしました。

引っ張ってしまいましたが、明日決戦となります。

よろしくお願いいたします。

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