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第一異世界人、発見

「やっぱり身体機能は上がってるみたいだな……」


悲鳴のした方向へと森の中を駆ける。

まったく慣れていないはずの場所にも関わらず、前の世界にいた時よりも速度がでているし、転ぶ様子も無い。明らかに以前とは違う。


「でも、動かしにくいとかは、無いな」


かなりのギャップがあるはずなのに、ちゃんと自分の体として自然に動く。違和感は無い。

これならば、何かあっても逃げられるだろう。


「しかし、この先で何が起こっているんだ?」


おそらく、悲鳴の主は女性だ。来ないで、とか聞こえたから、何かに襲われているのだろうか。盗賊か何かかな。いや、女神様はファンタジーな世界だと言っていたし、モンスターかもしれない。テンプレどおりなら、スライムかゴブリンあたりか。狼なんかかもしれない。でも、いきなりドラゴンとかが出てきたらどうしよう。さすがにそれは無いとは思うけど……

……………フラグか?


「いやでも、ドラゴンは無いだろ………ん?」


木々の間から光が見える。森の終わりか、広場のような場所があるのだろう。おそらく、そこに何かがある。







■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







そこにいたのは、狼だった。数頭の群で、低い唸り声をあげて威嚇する狼。




「…………ドラゴン…………?」


その狼達に囲まれた、青い竜が、高い崖を背にして、そこにいた。


「………どういう、ことだ?」


思わず立ち尽くす。俺が聴いたのは、確かに女性の悲鳴のはずなのに。

そんなことを考えていると、


「……いっ」


ドラゴンの口から、


「いやっ………」


可愛いらしい悲鳴が……


「いやああああぁぁぁぁああっ!!」


「うわぁっ」


真っ白な激流とともに、放たれた。






■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







「ほ、本当にすいませんでしたー!」


「いや、大丈夫だから、怒ってないから…」


威圧感たっぷりのドラゴンに頭を下げられる高校三年生(元)の図。実にシュール。


周りに雪が積もっているところを見ると、先ほど彼女が吐き出したのは吹雪だったようだ。その攻撃範囲からギリギリで外れた俺は、現在その吹雪を起こした張本人であるドラゴンさんに平謝りされている。しかしよく助かったな、俺………

木、折れてるよ。ドラゴンさんの吹雪で。けっこう太めのやつが。


「でも、一体何故あんな状況に?」


ドラゴンが狼に追い詰められるというのは、あまり想像できない。その実力が確かだということは、今まさに見せつけられた。それとも、あの狼達が強いのだろうか。


「あ、うぅ、それはですね、その………」


ふと、ドラゴンの背後の崖が目にとまる。かなり上の方に、何かをぶつけられたような跡がある。周りに大小様々な石が転がっているから、最近できたもののようだ。そしてそれは、ドラゴンの真上にある。

……………


「まさか飛んでる間に居眠りして崖にぶつかり気絶して、目が覚めたら狼に囲まれていてびっくりして思わず悲鳴をあげた……なんてことあるはずないしなぁ……」


「な、なんでわかったんですかぁー!?」


当たっちゃったよ。

自分でもびっくりだよ。


「なるほど、そして追い払おうと攻撃しようとしたところに、ちょうど俺が駆けつけた、と」


「うぅぅ、わ、私は誇り高いドラゴンのはずなのに……」


「なんでまた、そんなことに?」


「その、私、巣の外に出るのは今日が初めてで……ドキドキして、昨日はまったく寝れなくて、ですね………」


「そうかー……」


まるでコントだな。


「な、内緒に!内緒にしてくださいよ!」


「うん、大丈夫。誰にも言わないから」


どうせ誰も信じないし。


「で、怪我とかは無い?」


「は、はいっ、大丈夫、です」


「そうか、ならいいや。じゃ」


「え、あ、待ってください!」


「どうかした?」


「えと、あなたに、これを………」


そう言ってドラゴンが前足を差し出す。その青く滑らかな鱗の上に乗っていたのは、動物の角のような物だった。


「崖にぶつかった時に取れた物ですけど」


どうやらドラゴンの角のようだ。見れば、その後頭部から短く伸びる左右の角の片方が無い。


「ドラゴンの角って、そう簡単に折れるものなのか?」


「いえ、ちょうど生え変わりの時期でしたので、ぽろっと」


「ふぅん…」


手にとってみると、ドラゴンの角は少しひんやりしていた。まるで深海を想わせる、深い紺色をしている。


「何故これを俺に?」


「……先ほどのことの口止め料と、それと……」


「それと?」


「………一応、助けに来てくださったのですから。お礼、です」


「そうか、ありがとう」


「では、私はこれで。また、どこかで。人間さん」


「ああ、また」


そう言うと、ドラゴンは飛びたって行った。巨大な翼をさらに大きく広げて舞う様は、俺でも美しいと思った。







■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







「……はぁっ、やっとついた…………」


ドラゴンが衝撃的すぎて完全に方角を見失った俺は、案の定道、いや森に迷ってしまった。途中で磁石があったのを思い出し、四苦八苦の末地図に載っていた街道に出てこれたのだ。街道と言っても、馬車などが通れるように地面が平らにしてあるだけの道なので、左右を見ればまだ森の中なのだが。


「とりあえず、ひと安心だな。…疲れたぁ……」


体の力を抜き、水でも飲もうかと思ったその時、


「誰よ、あんた。こんな所で何してんの?」


…………とりあえず。

第一異世界人、発見。

ドラゴンさんが最初の仲間だと思った?残念、見知らぬ女の子でした!


狼さん達は襲っていたわけではなく、ヤバそうなやつが落ちてきたから様子を見てただけ。不幸である。



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