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宿題は早めに終わらせよう

―――目覚めなさい―――




あれ…………ここ、どこだ………?

知らない場所………いや、知ってるわけが無い。ひどく現実味の無い場所。

辺り一面、白一色。

近くに壁があるようにも、果てしなくどこまでも広がっているようにも感じる。

まるで、雲の中にいるような。


…………まあ、どうでもいいか。どうせ夢でも見てるんだろう。寝よう寝よう。


「いや、ちょっと待ちなさいよ」


「………誰ですか。いきなり来られたらびっくりするじゃないですか」


「そんな棒読みで言われても説得力無いわよ」


いや、本当にびっくりした。

さっきまで何も無かった場所に、突然涌いて出たのだから。あまりに自然に、簡単に。

あたかも、最初からそこにいたかのように。


真っ白な着物と、腰まで届く黒髪を持った美女が、そこに立っていた。


「もー、いくら私がこの世の者とは思えない美しさだからってそんなに見つめないでよー。ま、実際この世の者じゃないのだけど」


なんだろう、この人面倒くさいな。

これ以上質問するのはやめておこうかな。


「ああー待って待って。ちゃんと答えるから、そう簡単に諦めないでよ。本当は私の美貌について語り尽くしたいところだけど、話が進まないから、とりあえず自己紹介はさせてもらうわ。私は神。この世界を司る神々の一柱であり、ここ日本の管理を任されている者よ」


「はぁ、そうですか」


「わー可愛くない。もっと疑問とか無いの?」


「………じゃ、これは夢ですか?夢じゃないなら、俺は何故こんなところに?」


「残念だけど、夢ではないわね。何でここにいるかっていうのは、ちょっと説明が複雑になるんだけど…………まず、あなた自分が死んだって自覚、ある?」


「………………死ん、だ………?…………あ」


思い出した。

俺は、確か風邪でふらついたところを車に………


「……ごめんね、思い出させちゃって」


「いえ……大丈夫です」


「……そう。なら続けるわよ。まず言っておくと、あなたが助けた女性、こっちの世界の住人じゃないの。ついでに人間でもないわ」


人間じゃ、ない?いや、その前に……


「助けた女性って、誰のことですか?」


「あら、気づいて無かったの?ほら、あなたの隣にいた美人さんよ。あなたがギリギリで押し出したおかげで、彼女は骨折だけですんだのよ」


ああ、あの時。

お姉さん助かったのか。まあ、良かったかな?

いや、それにしても


「あの人、人間じゃなかったんですか」


「そうよ。おかしいと思わなかった?彼女の名前、思い出せないでしょう。彼女、『認識阻害』なんてレアな魔法使ってたから」


魔法、か。やっぱりファンタジーな世界から来たのか。


「話を戻すわね。それで、彼女は死にそこねてあなたが死んだのだけど………その原因が、別の世界の神様なのよ」


なんだか妙な流れになってきたぞ。


「より正確に言えば、彼女の故郷の世界の神の一柱ね。あいつ、何でか知らないけど人間以外の種族を毛嫌いしてるのよ。で、そんな神がいる世界から、理由も方法もわからないけど彼女はこっちにやってきた。それを知ったそいつが、彼女を始末しようと『運命操作』をやらかしたの」


運命を操作できるのか………神様怖い。


「本来なら我々神は、死後と産まれ以外は不干渉。それなのに、まだ先の長い命の、しかも別の世界にいる者の運命をねじ曲げるなんて………嫌いなやつが手の届かないところにいるのが、よっぽど怖かったのでしょうね」


へぇ、そうなのか。でも、


「それならお姉さんは死ぬはずだったのでは?」


「あいつの望み通りなら、ね。でも、そこにあなたがいたことで運命が変わった。神が影響を与えることができるのは、自分の世界の住人のみ。だから、あいつはあなたの介入を止められなかった」


なるほど。


「で、ここからが本題。実は、向こうの世界の神々から、多大な迷惑をかけたお詫びに向こうで生き返らせてあげようって話が来てるの。つまり、あなたにはこれから異世界に旅立ってもらいます」


「なるほど、わかりました」


「私も長年 (このしごと)やってるけどね、異世界に飛ばすって言ってそんなあっさり返されたの初めてよ」


そう言われてもな。


「異世界に行く人って、何人もいるんですか?」


「そうねぇ……私達の力を受けない事故も含めると………だいたい100年に一回くらいかしら。けっこうポンポン飛ぶもんよねぇ」


「へぇー」


以外と多い、のか?神の感覚からしたら、もっと短く感じるのか。


「プッ……くくく」


ん?


「ふふ、あなた、ププ、本っ当に無気力ねぇ!ふふっ」


いきなり笑われた。

そんなに面白いことだろうか。


「ええ、面白いわ。ふふふ、本当に。……うん、気に入った。本当はさっさと放り出して終わりにしようと思ってたけど……そうね、あなたには特別に、宿題を出してあげるわ」


「宿題、ですか?」


「そう、宿題。次あなたが死ぬまでに、あなたが本気になれるモノを、探してきなさい。女、金、強さ、何でもいいわ。筋金入りの無気力さんが瞳を輝かせずにはいられない何かを、見つけてきて。」


「はぁ……まあ、いいですけど」


「ふふ、今はそれでもいいわ。ここで私がテンプレ女神様なら、何か能力でもあげるところなんだけど。……あなた、そんなのいらないでしょ?」


「まあ、はい」


「でも、そのまま向こう行ったらすぐ死んじゃいそうだから、最低限身を守るだけの戦闘力はあげるわ。具体的には中堅冒険者くらいの」


「そりゃどうも」


「それと……」


ん?何を………




―――ちゅ




「何すんですか」


いきなりおでこにちゅーとか。


「ホント可愛くないわねぇ。もうちょっとドキドキしてもいいのに。……それは幸運のおまじない。女神が直々にするんだから、効果のほどは期待していいわよ?」


本当か……?


「さ、私にできるのはここまで。あとは全部あなた次第。新しい生活、せいぜい楽しんできてね」


「はい。短い間でしたが、ありがとうございました」


「……その棒読みも、できれば治してきなさいね?………もう時間が無いわ。行ってきなさい―――――」






■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■








目が覚めると、そこは森の中だった。

つねってみる。痛い。

……どうやら本当に異世界とやらに来たらしい。

……………まあ、いいか。特に目標も無いし、適当に流れて……………






『あなたが本気になれるモノを、探してきなさい』






……………それも、いいか。

このまま、あの両親と同じように生きるというのも癪な話だ。見た目は変えられないとしても、この無気力くらいは変えてやろうか。


そうだな。いい機会だ。

ここから変えよう。



俺の、新しい流れに。

作者は宿題は溜めちゃう派。

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