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奇妙なラブレター  作者: 山本正純
後編 I know it is not a date any more.
22/34

「まだ帰りたくない」

漆谷梅子のデート編最終回

「この店の月見うどんはうまかったな」

 春上は独り言のように呟いた。それに相槌を打つように梅子も頷いた。

「今度友達にでも紹介しようかしら」

 

 問題はこれからどうするのか。江角千穂へのプレゼントは既に購入した。そして現在の所持金は700円。このまま帰るのももったいない気がした春上は梅子に話しかける。

「梅子。これからどうする。何もすることがなければ、帰宅という選択肢もあるが」

 

 その春上の言葉を聞いた漆谷梅子はすかさず春上の上着の裾を掴んだ。

「まだ帰りたくない」

 突然の行動に春上は顔を赤くする。

「でも所持金が金欠ぎりぎりだしな」

「だったらウインドショッピングでもしない。それならお金はかからないでしょ」

「そうか。その代りおねだりはするなよ。本当に700円しか持ってないから」


 梅子は小さく頷いた。こうして春上と梅子はウインドショッピングを楽しむことにした。

 春上は漆谷梅子に連れられて、再びファッション店が立ち並ぶ2階へとやってきた。

 そこで梅子は真っ先に、洋服店ユタカに向かって歩き出した。春上は梅子を追うようにその店に入った。

 

 この店で販売している洋服の値段はカーブSで販売している洋服よりも値段が高かった。先ほど春上が買わされた青いセーターの値段が2500円。それと同じ物をこの店で買おうとしたら5000円。もちろん布地や肌触りはカーブSの青いセーターとは別物だ。だがファッションに疎い春上にとっては青いセーターが2倍の値段になったということに変わりない。

 梅子がウインドショッピングを楽しんでいるのを見つめていると、春上の目にある洋服が映った。それは漆谷梅子が着ているハート柄の白いブラウス。

 

 もしかしたら漆谷梅子はこの店で白いブラウスを購入したことがあるのではないか。春上が考え込んでいると、梅子が背後から声を掛けた。

「この服はこの店で買ったんだよ」

「やっぱりそうか。けっこう高かっただろう」

「ううん。お小遣いは一万円だからお金に困ることはなかったよ」

 まさか春上とデートをするためにこの白いブラウスを購入したのか。春上はこのように考えたが答えはでなかった。

 それから2人は洋服店を転々としながらウインドショッピングを楽しんだ。

 

 そして午後3時30分。梅子は顔を赤くしながら春上に話しかけた。

「ねえ。春上君。もうウインドショッピングはいいから、ゲームセンターでプリクラでも撮らない。それが終わったら帰るから」


 ということで春上はプリクラを撮るためにゲームセンターにやってきた。

 ゲームセンターに到着するなり2人は早速プリクラに入った。梅子は春上と手を繋ぎ近づいた。その距離はかぎりなくゼロに近い。幼馴染の江角千穂よりも近い距離に女の子が近づいてきて春上は顔を赤くした。

 

 その状態で梅子はプリクラの撮影ボタンを押した。間もなくしてプリクラは出てきた。

 梅子はボールペンを取り出し、プリクラの裏にメッセージを書いて春上に渡した。


 プリクラを受け取った春上に対して梅子はお辞儀をしてその場を立ち去る。

「春上君。楽しかったよ。またね」

 春上は人ごみの中に消えていく漆谷梅子を見つめながら、先ほど渡されたプリクラの裏に書き込まれたメッセージに目を通した。

『良かったらまた一緒に・・』

 その文字はこの前見た彼女の文字よりきれいになっていた。

 こうして漆谷梅子とのデートは終わった。明日はテレサとのデートだ。まだ長い三連休は始まったばかりである。


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