「そんなことしなくても大丈夫だよ」
漆谷梅子のデート編第三話
時間が正午となったため、春上と漆谷梅子はレストランが立ち並ぶ1階へ移動した。
「一応聞くが何が食べたい。ちなみに今の所持金は1500円だが」
春上の言葉を聞き梅子はきょとんとした。
「春上君。なんで1500円しか持っていないの」
「痛い出費があったからだ。一人1000円で回転寿司に行こうと思ったのに、誰かさんのプレゼントが予定の予算をオーバーしたから予定が狂った。この前梅子と昼食をおごるという約束をしたからお金が足りない」
「それって江角さんのこと」
「そうだ。江角へのプレゼントは文房具にする予定だったからな。でも感謝はしているぜ。梅子がいなかったら、今流行りのニット棒を江角にプレゼントできなかったからな」
「よかった。私へのプレゼントが痛い出費ではないかと思ったから」
原因の一つは漆谷梅子だと春上は思った。しかしそんなことを言えば好感度は下がるだろう。春上は無駄な言葉は話さないことにした。
残りの予算は1500円。男として昼食をおごるという約束だけは破ることはできない。
となればリーズナブルな店を探して昼食をおごるしかない。
デパートにあるリーズナブルな店といえば、ファストフード店が最初に思い浮かぶだろう。
しかし三連休の一日目という訳か、どこのファストフード店も満席だ。これだと昼食は午後1時くらいになってもおかしくない。
「ちょっとここで待ってろ。安くて空いてる店を探して戻ってくるから」
「そんなことしなくても大丈夫だよ。ファストフードならすぐ席が空きやすいから」
「こういうフードコートでは知り合いに遭遇しやすい。そうなれば後々面倒なことになるかもしれないだろう」
春上が辺りを見渡すと、一件の店が見つかった。その店の名前はうどん屋高橋。この9月にオープンしたうどん屋で、サラリーマンに人気の店。値段がリーズナブルな割に閑古鳥が鳴いている。その理由はファミリー層がファストフードに逃げるからであろう。
春上たちはうどん屋高橋で昼食を食べることにした。
店内にはカウンター席しかない。そのためか店内は狭く感じる。春上は適当な席に座った。春上の右隣には梅子がいる。
春上はメニュー表を開いた。メニューの最高金額は400円。それに最高金額のサイドメニューの海老の天ぷらも注文したとしても500円もあれば一食を十分に楽しむことができる。
「梅子。500円以内に留めてくれ。俺も500円以内で頑張るから」
春上の問いかけに漆谷梅子は頷いた。
「分かった。じゃあこの月見うどんにする」
「俺もそれにしよう」
春上たちは月見うどんを注文した。月見うどんを注文しても合計は800円。何とか予算内に収まって春上はほっとした。
それから2分も経たない内に月見うどんは配膳された。右隣に漆谷梅子がいるにも関わらず、春上は緊張することはなかった。彼の右隣にはいつも江角千穂がいた。そのため右隣に女の子がいたとしても、彼には免疫があるため緊張しないのだろう。
わずか5分で二人っきりの昼食は終了した。その間2人は一切会話をしなかった。なにかもったいない気がした春上は、会計を済ませて店を出た。




