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奇妙なラブレター  作者: 山本正純
後編 I know it is not a date any more.
15/34

「春上君が会いにきてくれるなんて」

 一時限目終了後の休憩時間。春上は二年一組の教室のドアを開けようとしていた。ミッションは教室内にいるはずのテレサ・テリーに会い、デートに誘うこと。これまで春上は図書館でしか彼女に会ったことはなかった。彼女がいる教室に臨場するのは今回が初めてだ。

 

 この事実が意味していることは、直接会いに行くことが初めてであるということ。直接会いにいけば差出人は自分に好意があると思い正体を現すのではないかという江角千穂の仮説を信じて春上は教室の引き戸を開ける。


 二年一組の教室の中に一歩入ると、彼は周りを見渡した。テレサの金髪は教室内で目立っているため春上はすぐに見つけることができた。

 春上は心の中でガッツポーズをする。テレサは自分の椅子に座り、推理小説を読んでいた。10分休憩という短い時間で図書館に移動することができるとは思えない。そのため彼女は教室の机で推理小説を読んでいるのだろう。思惑通りに物事が進んで春上はうれしかった。

 

 彼はテレサの机に近づき彼女に話かける。

「テレサ。話がある。少しいいか」

 春上の声を聞きテレサは顔を上げた。

「というか初めてだよね。春上君が会いにきてくれるなんて」

「ああ。テレサ。今週末に公開される紺碧の雨を観に行かないか。1人で映画館に行ってもつまらないだろう。だから2人で一緒に観に行こうと思った」

 春上の提案に対してテレサは頬をゆるませた。

「いいよ。でもチケットは持っているの。私は前売り券を買ってあるからいいけど」

「大丈夫だ。こっちも前売り券は持っている。それでいつ観に行くかを決めないか」

「9月15日の午前9時はどうかな。公開初日は少し用事があるから」


 思惑通りに事が進んで春上は喜んだ。テレサの用事というのも気になったが、プライベートのことだろうと思いあえて春上は聞かなかった。その代わり彼は彼女が読んでいる推理小説に注目する。彼女が今読んでいる推理小説は『紺碧の雨』の原作本だった。

「ところで何で映画を観に行くのに原作本を読んでいるんだ」

 テレサは本に栞をはさむと、微笑みながら質問に答えた。

「よくあるでしょう。映画と原作で犯人が違うって話。特に二階堂晴男先生のミステリーの実写版は絶対に原作と犯人が違うの。一週間前の水曜マイルド劇場でやっていた『旋律の雪』なんて原作で犯人だった男が最初に殺されたから。だから実写化されたら誰が犯人になるのかを推理しながら読んでいるって訳」


 テレサの話からは生粋のミステリファンであることが伝わった。だが春上は推理小説をよく読むが、テレサのような読み方をしていない。そのため生粋のミステリファンである彼女の話についていけなかった。

 テレサは目を輝かせていたが、もうすぐ10分の休憩時間は終わろうとしている。ここは切り上げるべきであると春上は思った。

「分かった。9月15日午前9時。シネマ24で待ち合わせ。それでいいか」

「分かった。楽しみにしているからね」


 休憩時間終了まで後1分。春上はテレサの笑顔を見つめながら足早に教室を後にした。

 最後に9月14日に漆谷梅子をデートに誘えばミッションはコンプリートだ。


テレサと春上のコント。楽しいな。

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