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ロマンスに踊れ  作者: 青生翅
本編
22/30

22 ロマンスに踊れ




 今世紀最大のロマンス。今世紀最大の王室の醜聞。


 相反する二つの評価を受けていた、王太子グラシアン=レオンス・ファールとその想い人リディ・サンリークの恋愛劇の発端から半年――ファール王家からの発表は、平民から貴族までを広く驚かせた。




 ――グラシアン王太子はその地位を返上。二人は王家を出て生きることを選んだ、と。




『一貴族として、今後は国の発展のために力を尽くす』




 そのようなグラシアン殿下本人からの声明に、市井の人間の多くは喜ばしさの中に少々の嘆きを滲ませていたという。

 ……王国初の平民出身の王太子妃が見れると思ったのに、なんとも残念。そんな風にだ。


 一方その発表直後から、貴族の中では次の王太子の位に誰か就くか、そしてその候補の誰を自分が後押しするかという水面下の探り合いが始まった。国王夫妻の意向はどうか、シャルル第三王子やヴァルナ公爵のうち、より野心があるのは誰か……。


 そして同時に、社交界に再び姿を現すようになったファサイエル侯爵令嬢について様々な疑惑が流れるようにもなった。

 沈黙を続けていたはずが、こうなることを全て仕組んだ張本人なのではないかと。一番の痛手を受けていたはずが、実は王家に対して大きな貸しを作ったファサイエル侯爵令嬢は、いまなお王太子妃候補の筆頭であるのだから――。


 そんな大方の期待を裏切って、微笑みを絶やさない侯爵令嬢に目立った動きはなかった。それを見て取ってか、名門侯爵家を絡め取る思惑を持つ者、また令嬢の美貌や才知に惹かれる者、そういった若い貴族令息たちからの求婚が引っ切り無しに訪れるようになるのにも時間はかからなかった。


 だがファサイエル侯爵令嬢は周囲を煙に巻くかのように、誰の手を取ることもなく社交界の波を泳ぎ続けた。


 ――やはり次の王太子を狙っているのか。


 ――いや、もはや王国の外、活気溢れる隣国との婚姻話があるのではないか。


 憶測は憶測を呼び、長くの間、彼女は社交界の花で有り続けた。甘い蜜を湛え、どこかに毒を隠し持っているのかと疑ってしまうほどに美しい花。

 さて、その花を手折るのはいったい誰であったのか――。






 ***






 貴族女性にしては異様なほど精力的に男性社会とも縁を持つことになった、ファサイエル侯爵令嬢オレリア=コンスタンス・ランドローは、嫁ぎ遅れの域に入っても焦ることもなく、二十三歳の年についに結婚した。

 貴族社会に長年渦巻いた憶測を蹴散らし、侯爵家に婿を迎える形だった。


 女性の身の上では当主とはなれなかったが、存命中に侯爵家が次々に打ち出した新事業や、女子教育を行う学校の開設などには、貴婦人となった彼女が大きく関わっていた――いや、その大半を運営していたとまで言われている。

 独身という身軽さを失ったはずであったのに、結婚後の彼女は一層その輝きと影響力を増し、一部では“女王”の名で呼ばれることになった。


 そして彼女が生んだ一女二男のうち、長女ヴィオーレは女性の身ながら王国史上で初めて爵位を賜る栄誉を得た。長年、王家に働きかけがあった結果、代替わりした国王の下での歴史的瞬間であったと言えよう。

 ファサエイル侯爵家は、建国二〇〇年にしてその爵位が昇格されることにもなった。栄えある公爵家の一つに名を連ねることになったその裏には、二人の女性を含む三代に渡る王国への貢献が評価されていたのは間違いない。




 王太子妃そして王妃の座に就かずとも、オレリア=コンスタンス・ランドローは王国を大きく進ませた人間の一人だった。彼女の父が書き上げた百年計画の、まさに中枢を担ったと言ってもいい。

 その半生は華々しくも激動の連続であったが、その隣には若き日には受け止めることの出来なかった“最愛”が常に寄り添っていたという。






 そして――。






 ……王国を沸かせた一つのロマンスから、実に四〇年余り後。


 ファール王家の新王太子妃にと望まれた少女は、懐かしの空色の瞳をしていた。


 彼女を迎えるにあたって、かねてからあった後宮廃止案がついに通された。

 唯一絶対の妃であるとの誓いを神と人々の前で執り行った王太子の姿は、新たな王家の幕開けを予感させた。それは王国と人々もまた、次の時代へと――。




 かつて踊った人々の何かが報われた、そんな一幕。


 そして長い長い舞台の中には、やはり恋が欠かせない。




 ――人は、一人ではない故に。だからまた、ロマンスに踊れ――――








『ロマンスに踊れ』の本編はここで完結とさせていただきます。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


22話を一気に書き上げただけあり、作者的には一定のモチベーションが保てた作品になりました。感想欄にくださる皆様のコメントを読み読み、鋭い次話予測にビクビクしたり……ばれてーら、と冷や汗流したり。それでも興味深い見解の数々に、なるほどな~と感心しつつ大いに励まされました。ありがとうございます。


さて、次からですが。

お茶に濁した部分だったり、どうでもいい脇役の脇役な人たちの話を、少し続けたいと思います。そちらは毎日更新とはいかないのですが……よろしければ、ちらーっと読んでやってくださいませ。


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