プロローグ
東京都 千代田区 永田町 国会議事堂内の一室
そこは広々とした部屋だった。高級感漂う椅子に無駄に大きい机。そして黒々とした伝統ある形の電話。そんな部屋の真ん中でスーツを着た男が腕を組んで立っていた。その背後からドアをノックする音が響く。男が答えると、木目調のドアがゆっくりと開き、そこから別の男が入ってきた。「失礼します」静かだった部屋に声が入りこみ、無音だった部屋に響く。
その男は部屋にいる男同様スーツを着込み、足の先から頭の先までピンと伸びていた。顔は常に前を向き、生やした口髭すら動かさず相手の返答を待っていた。
「君は、この事態をどう受け止める?」部屋にいる男が机の上に置かれた書類を手に取りパラパラとめくる。丁度真ん中を開いて男に渡す。
「忌々しき事態ですね。我が国がこれほどの失態を犯すとは……」部屋に入ってきてやっと表情らしい表情を作る。声の通りに落胆した顔をして見せた。
「あの国が悪いのか、それとも我が国が悪いのか……まぁどちらにしろ、最悪の事態だというのは確かだ」
「そうですねぇ……なんとかせねば」口髭を撫でながら書類に目を通す。
「なんとかせねばではない!今こそ我々が行動を起こし、この忌まわしき問題を解決せねばならんのだ!これはある意味、戦争以上の国防的な作戦と言えるだろう?違うかね?」部屋の真ん中で仁王立ちする男は威厳ある言葉で問いかけた。
「……おっしゃる通りです。ですが、そう熱くなっては立派な作戦もうまく事を運べなくなるのでは?」俯きながら苦笑し、顔を振る。
「それもそうだ……何か飲むかね?」と、ミニバーを指さす。
男はミニバーに歩み寄りながら「ウイスキーをいただきます」と、答え棚を開ける。「長官は何をお飲みになりますか?」
「同じのを貰おう」未だに、彼は腕を組んだままだった。
男は慣れた手つきでウイスキーをグラスに注ぎ、右手のグラスには氷と水を入れたモノ、左手にはウイスキーだけのモノを持った。
「長官は氷三つと三対一でしたね」と、右手のグラスを渡す。
「この国に乾杯」グラスを掲げ、長官と呼ばれる男がグラスを掲げる。
「で、今回私に任される作戦とはなんです?」口髭に付いた水滴を軽く拭う。
「隠密且つ正確に事を運んでもらいたい。メンバーは君が決めたまえ」
「わかりました。で、相手の国にはこの事を?」
「いや、国際問題にはしたくないし、あちらの問題はあちらの問題として片付けてもらうつもりだ」と、もう一口呷る。「後日届く書類に目を通し、作戦を実行してくれ」
「わかりました」手に持ったグラスの中身をグイと一気に飲み干し、ミニバーにグラスを戻した後、敬礼をする。