打倒BBA3
朝食の時間が訪れた。
24H営業の職種では、お昼休憩は交代で行われる。
ちまき達は13時からと、遅い休憩だった。
各々がお弁当を持ち寄り、あるいはお店のお弁当を購入し、食堂へと向かう。
清潔感を感じさせる白の色を基調とした壁紙。縦長テーブル八つとテレビが一台。お店の規模とは対照的にこじんまりとした食堂である。
ちまきと栄子はローテーションが同じなので、揃って同じテーブルについた。
お茶をカップに注ぎ、お弁当を広げちまきが切り出した。
「エイちゃん、大丈夫だった?」
今朝の怒られていた件だ。
「ありがとう、うん、大丈夫だよ」
栄子はゆったりとした調子で微笑し返事をかえすが、その笑顔には陰りがあるとちまきは思った。
「しかし酷いね、BBA。絶対ありえないよ」
返事に困っているのか短く唸ると、栄子は自前のお弁当に箸をつける。
「でもね、私が悪いから……」
なんていい子なの――ちまちは栄子になんともいえない情感がこみ上げてくるのを感じた。
会社にとって、宝とすべき人材ではないか、それを見せしめのように、しかもお客のまえで怒鳴るなんて――ちまきの内にふつふつと熱いものがこみ上げていった。
「い、いけない」
ちまきは大きく深呼吸して、溶岩のように噴出す感情を心の奥底に押し込んだ。
怒ってはいけない、そう自分に強く言い聞かせる。
「ちまちゃん、どうしたの?」
怪訝そうに見つめる栄子にちまきは、なんでもないよと、笑顔で頭を振った。
そう、どんな事があっても今回ばかりは怒ってはいけないのだ。
もうGRN社のような事があっちゃいけないんだ――ちまきは心に堅く誓い、ごはんを力強く噛みしめた。
不意に栄子が独り言のように語りだした。
「あたし――好きなんだあ」
「んぶっ!」
告白めいた栄子の言葉に、思わずちまきはごはんを噴出しそうになった。
違うとは思うが、一応確認してみる。
「なにが?」
栄子はお茶の入ったカップに口をつけ一息つくと、まるで物思いに耽るかのように、視線を遠くに置いた。
「この仕事――というか」
栄子は小さくクスっと笑うと、言葉を続けた。
「うちの商品を買っていくお客さんの笑顔が好きなの」
ちまきは笑顔で頷き、わかるわかると同意する。
サービス業は、お客様を満足させてこそ、サービス業なのだ。
そっか、エイちゃんも私と同じこと思っていたんだ――ちまきは言葉では言い表せないほどの喜びを感じ、彼女と一緒に仕事ができることを心から有難く思った。
「ありがとう」
ちまきは無意識のうちにその言葉を口にしていた。
「え?」
栄子は言葉の意図がつかめず、きょとんとした面持ちで箸を止めた。
「エイちゃんと一緒に仕事ができて」
「ちょっと、ちまちゃんいきなり何をいいだすの!?」
狼狽と照れ笑いの入り混じった様子で栄子は困惑する。
「その、仕事が楽しくなったっていうか、それだよ」
なにがそれなのかよくわからない。しかし、ちまきの気持ちに応えるように栄子は何度も何度も頷いた。