打倒BBA1
スーパー・なろう。10年ほど前より全国に支店を進出させ、近代に至っては長者番付に名を連ねるほどの大手スーパーマーッケトに成長した上場企業である。
このスーパーの売りは、独自ルートで食品を仕入れ、コストダウンを図った安さ。
そして、24時間営業という便利さである。
スーパー・なろうの看板が掲げられた正面入り口を回り込み、商品搬入口へ向かうひとりの女性がいた。
彼女の名前は笹野 粽。
派遣事務社員として配属された会社GRN社からのクレームで、配置転換させられてから数週間が経とうとしていた。
配置転換された派遣先というのがこのスーパー・なろうだった。
「おはようございます!」
商品を配達するトラック運転手のおじさんに元気良く挨拶を交わすちまき。
「おう! ちまきちゃん、今日も元気だね」
おじさんはトラックの荷台から、商品をピッキングしながら挨拶を返した。
テンポ良く作業を行うおじさんの底知れぬスタミナに関心しながら、ちまきは微笑する。
「おじさんには負けますけど」
わざと意地悪な笑顔をつくると、おじさんは手を休めることなく苦笑した。
「そんなにのんびりしているとBBAが角をはやすぞー」
おじさんの言葉にはっとしたちまきは、慌てて踵を返す。
「やば、遅刻しちゃう」
ちまきはじゃあねと言い残すや、足早にタイムカードの元に向かった。
カードを機械のスリットに入れると、小気味の良い音が聞こえ、入店した時刻が刻印される。
入店した時刻は7時57分。
ギリギリに近い時刻だ。
ちまきがタイムカードをカード入れに戻そうとしたとき。
「おはようー」
というすこしおっとりとした女性の声。
「エイちゃん、おはよう」
ちまきが挨拶を返すと、女性は息を切らせながら、タイムカードを打刻する。
エイちゃんこと河東 栄子は、ちまきがこのスーパーに派遣されて初めて仲良くなった同僚だった。
ちまきの髪は栗色であるのに対し、栄子の髪は綺麗な黒で彼女の真面目さを際立たせている。
肩に届くほどの長さの髪は、艶やかで美しい。
メイクも派手ではなく、シャドウなど控えめな色の選択。
ちまきはどちらかというと、メイクの際は明るい色を好んで使用している。
真逆といってもいいくらいの二人であるが、何故か初日から意気投合したのであった。
タイムカードの打刻時刻を見た栄子が声をあげた。
「遅刻しちゃう」
この後、着替えて仕事の引継ぎが待っているのだ。
「いこ、エイちゃん」
ちまきは栄子を促すと、更衣室に向かった。