セクハラ上司は許さないわよ6
閑静なオフィス街は、ちまきを拒むことなく迎え入れた。
背後のビルを見上げる。
通い慣れたビルの三階の窓には、血糊が付着していた。
もう二度とここへは来ることはないだろう。
ちまきは未練を振り払うように、ビルに背を向けると、行き交う人の波に体を委ね歩きだした。
また明日から派遣先が変わると思うと、気が重くなった。
それよりも、派遣事務所で成り行きを説明しなければならない。きついお叱りが待っているのは確実だ。
派遣先に損害を与え、社の信用を失墜させたとか、これ以上派遣先を減らすつもりかとか、言われるであろう。
「こんな体質、いらないのに」
この体質がなければ今頃正社員としてバリバリ働いているかもしれない――そう思うと、ちまきは自分という存在がつくづく嫌になった。
すると不意に、怜香がちまきへ送った言葉が脳裏に蘇る。
「ありがとう……か」
その一言はまるで、心の中に一筋の光が差し込んだようだった。
やがて暖かい光はジンジンと心の中に広がっていき、自然とちまきの顔から笑顔が零れていた。
「よし、明日から新しい現場、がんばろう」
ちまきは足取りも軽く、事務所へと向かった。
負けるな、ちまき。
職場の平和を守るため、戦え、マジカル派遣戦士ちまき。