セクハラ上司は許さないわよ5
昼休みが終わる間もなく、ちまきは派遣先の社長から契約解除を言い渡された。
さすがに対応が早い。
ちまきはデスクの私物をまとめ、席を立った。
社員達全員にお世話になったお礼の言葉を述べ、頭を下げていく。
山下課長への挨拶はさすがにバツが悪かったが、これっきりと割り切ったちまきは、謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げた。
「失礼しました」
そう言い残し、退室したちまきはロッカールームに向かう。
またやってしまったと、自分を責める気持ち。
そして、職を失ったことによる絶望感。
やり場のない自分への怒りと、湧き出る悲しみはいつの間にか涙へと変わっていた。
そのような思いを抱えたまま、ロッカー室にたどり着いたちまき、明るい声が迎えた。
「ちまき!」
声の主は松下 怜香だった。
「松ちゃん!? なんでこんなところに?」
そういえば、挨拶で回っていた際、怜香の姿がなかったことを今更ながらに思い出した。
怜香はばつの悪そうな顔で、あのねと切り出す。
「あの時、なにもできなくてごめん……」
あの時とは、お昼休みの事を指しているのだろう。
仲良しを気取っていながらも、他人のフリをして昼食を楽しんでいたこと。それに対して彼女が罪悪感を感じている。
そのことがちまきの胸に伝わってきた。
なにも出来なかったとは、ちまきを宥めるなり、止めるなりしていれば、こんなことにはならなかったかもという意味であろう。
「いいの。松ちゃん。私の我慢が足りなかっただけだから」
すると、怜香はちまきに向かって微笑んだ。
ほんのちょっとの我慢で、変身を免れていたかもしれないと思うと、後悔の念でいっぱいになるちまきであるが、怜香の顔はそれを吹き飛ばしてしまうほど穏やかだった。
「実はね、山下には、あたしもすっごいムカついていたんだ。本当、ちまきのお陰でスッキリし……」
とそこまで言いかけて、怜香は吐き気をもよおしたのか、青ざめながら口元を押さえる。
どうやら凄惨な現場を思い出したのだろう。
ちまきはそそくさと荷物をまとめ、ロッカールームを後にしようとする。
「待って……ありがと……」
怜香はそう精一杯の声を振り絞った後、当分肉は食べれないわと、小声で続けた。