表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

セクハラ上司は許さないわよ3

 室内に、お昼休憩の時間を知らせるチャイムの音色が流れた。

「よーし、午前中の作業は終わりっと」

 ノートパソコンをパスワードでロックし、休止状態にしたちまきは、大きく伸びをする。

 そこにすかさず耳障りな声がちまきに向かって放たれた。

「笹野! ちょっと」

 声の主は言わずと知れた山下だ。

 脂ぎった顔には嫌らしい笑みがへばりついている。

「はい」

 ちまきは椅子に張り付いたのではと思われるほど重いお尻を上げ、山下のデスクに向かった。

 書類のコピーはすでに怜香が、山下に渡してある。一体なんの用だと思いながらも、悪い予感しかしない。

 何でしょう? と、必死に笑顔を繕い、山下に向き合うちまき。

「チキンカツ弁当を買ってきてくれ」

 そう言うと、財布から小銭を取り出し、ちまきに突き付けた。

「は? い?」

 突然のことに困惑しているちまきに構わず、山下はにやけ面で言ってのける。

「営業はエネルギーの消費が激しいんだよ。可愛い子が買ってきた弁当ほど高エネルギーの食べ物はないからな」

 エネルギーの消費もなにも、山下は朝からデスクに座りっぱなしである。

 どこにエネルギーを消費しているのかと思うと同時、下心が垣間見える山下の言動に、ちまきの口元が自然と動いた。

「セクハ……」

 セクハラと言いかけ、ちまきは慌てて言葉を飲み込んだ。

 言動もそうだが、弁当を買いに行かせようとするなんて、私を召し使いかなにかと勘違いしているのかしらと、怒りが頂点に達する。

「いけない」

 しかし、爆発寸前でちまきは顔を振り、大きく深呼吸をした。

 ここで怒ってはいけない。

 ちまきには怒ってはいけない理由があるのだ。

 それは彼女が持つ、特異体質が故の理由。

 しかし、次に発した山下の言葉は、ちまきの忍耐の限界を遥かに越えるほどの破壊力だった。

「なぜ黙っているのかなー? あ、そうか、市販弁当じゃなくて、君の愛のこもった手づくり弁当をくれるんだな」

 言うと、山下は、がははと豪快に笑った。

 本人は冗談のつもりであろうが、我慢の限界を越えたちまきはには、もちろんそんなことは思いも寄らない。

「ふ……」

「ふ、がどうしたんだ?」

 と、いいながらも、ちまきの異変に気がつき、山下の顔から嫌らしい笑みはみるみる姿を消していった。

 熱い息と共にちまきは喉から言葉を振り絞った。

「ふざけんじゃねぇよ! この中年エロ親父がぁぁぁ!」

 叫ぶや、ちまきは天に向かって手の平を突き出した。

 手の平から、ピンク色のリボンが伸び、激しい渦を巻きながらちまきの全身を多い尽くす。

「な、なんだ一体!?」

 強烈なフラッシュを焚かれたかのようなまばゆい光に、山下は右手で目元を覆い隠す。

 やがて、光が収まった事を感じ、山下は恐る恐る手を下ろした。

「は……は? は?」

 と、言葉に詰まった山下であるが、次の瞬間。

「ハハハハ! なんだそれ……ぷぷ……ぶはは!」

 椅子から転げ落ちんばかりの勢いで、大爆笑していた。

 ストレートの栗色の髪はツインテールに結われ、緑の短いジャケットの下に、フリフリ満載のピンク色のワンピース。その胸元には黄色いリボン。ハートをリング状にしたような腰ベルト。

 そして、右手には大きな水晶のついたロッド。

 これがちまきが怒ってはいけない理由……ちまきの怒りが爆発した時、彼女はマジカル戦士ちまきに変身してしまうのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ