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君だけの世界。

作者: 犬丸


違う。


違うだろ。


こんな世界誰も望んでない。


この世界から一番解放されたいのは…


お前自身だ。


大丈夫。


もうあんな顔させないから。


今度こそ、助けるから。







~~~~~~~





俺は、現実には存在しない。


加奈が生み出したただの想像上の存在。


でも、それなのにこんな感情を持ってしまった俺は不幸かもしれない。


優や凛みたいに加奈が思うままに操られていれば。


加奈も俺もこんな思いをしなくてすんだ。


でも謎なのは。


何故、加奈は俺みたいな存在を生み出したんだろう。


…まさか。


加奈が、望んだ?


一番この世界から解放されたいのは。


優や凛、俺じゃない。


加奈自身だ。


加奈自身が、俺という加奈の意思だけで動かない存在を生み出した。


どこかでアイツは、この世界が生まれ、消える。その繰り返しが終わる事を望んでいるんじゃないか。


…それなら俺は。


アイツを助けなきゃいけない。


こんな繰り返すだけの世界に加奈はいてはいけない。


随分遅れたけど…


今度こそ助ける。






~~~~~~~












「…100回目。」










いつも通りの白い空間の中に俺は、作り出された。







~~~~~~~




加奈には「いつも通り」に見せかけている。


下らない事で凛とケンカして優に止められる。


予想外の行動は今のところ起こしていない。


加奈に俺が記憶を失っていないのがバレたら即消される。


次、作られる時は記憶を持ったまま作り出されるか分からない。


少しずつ、少しずつ終わりが近づいてくる。


最初で最後のチャンスなんだ。


逃す訳にはいかない。


そしてその時は遂に来た。


~~~~~~~





「勇気君。」


「…っ!か…、な…。」


「全部、思い出しちゃった?」


「止めろ…!!止めろッ!!加奈!!」


「前と同じ台詞だね。勇気君。」


「怖い?私に消されるのが。」






「怖くないさ。100回目だもんな。」






~~~~~~~



「…え?」


加奈の元々でかい瞳が見開かれる。


「ごめんな。加奈。助けるのが遅れて。」


「…あ…?」


「いつも通り」に慣れすぎたコイツは予想外な出来事に対処出来ない。


「な…、んで…?」


「終わりだ。加奈。こんな世界じゃなくて現実を見ろ。」


「…ぁ…い…、や…。」


「加奈。」


「い…いや!」


差し出した俺の手から加奈が逃げる。


「…っここに居たいの!!現実なんて見たくない!!」


俺を睨む加奈の眼は今にも泣きそうなほど、潤んでいた。


確かに、コイツの現実は良いものじゃないのかもしれない。


それでも。


逃げない様に加奈の肩を掴んで、まっすぐ加奈の瞳を見つめる。


「それでもお前は、こんな所に居たら駄目だ。」


「どんな辛い事がお前の眼に映っても、それと同時に沢山の幸せがお前の眼に映るんだ。だから。」


「お前の眼で、見るんだ。現実を。」


「ぃ…や…いやああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


甲高い絶叫が響き渡った瞬間、加奈の姿が消えた。


終わった。






~~~~~~~







加奈が消えた。


ということは加奈の精神上のこの世界も消える。


勿論、俺も。


足場がなくなり、頭から落ちていく感覚。


地面も下もないのに可笑しな世界だな。ここは。


もし。


もし、現実が俺がいて、優がいて、凛がいて、加奈がいる。


そんな幸せな現実だったら。


自嘲気味に口角が上がっていく。


そんな、現実だったら。


俺は、加奈に告白出来ただろうか。


馬鹿げてる。俺は現実に存在しないのに。


なのに、こんな感情を持つなんて。


でも。


「好きだ…加奈。」


100回目の消滅を感じながら、俺は目を閉じた。






~~~~~~~





『───多くの犠牲者を生んだ○○県××市のガス爆発事件から一年が経ちました。』


商店街の電気屋、そのショーケースに入っているテレビから一年前の事件のニュースが流れる。


『───奇跡的に助かった方々の精神的な傷はまだ癒えておらず………』


だが商店街を抜ける人々はそんなテレビには目もくれず、歩いていく。


そんな中で一人。


長い黒髪の少女が立ち止まり、テレビを見つめる。


だがそれは数分だけで、またすぐに歩き出す。


白いワンピースをふわふわ揺らしながら少女が向かったのは墓地。


その一つの墓に花を添え、少しの間墓を眺める。


墓地の近くに咲いた満開の桜が風に揺れる。


「…ありがとう。勇気君。」


加奈の頬に一筋、涙が伝った。




~end~



はい。勇気目線でした。


現実の勇気、凛、優はガス爆発事故で死んでいます。


加奈だけは奇跡的に生き残りますが、意識不明の重傷+精神的な深い傷を負い、意識を取り戻しません。


そこで生まれた加奈の精神上の世界。


キャラクターは現実の勇気、凛、優を元にして作りました。


で、加奈はこのまま目覚めたくないと思い続けていますが、どこかで生きたいという思いがあり、勇気というイレギュラーな存在を生み出しました。


勇気なら、自分の精神上の世界を壊してくれるんじゃないかと。


でも、それに気づけない勇気は99回同じ事を繰り返し、100回目で全てに気づきます。


勇気が全てに気付いた時点で加奈の「いつも通り」が破壊されたので100回目の勇気の記憶は失われませんでした。


で後は勇気が頑張って、加奈を現実世界に戻しましたとさ。ちゃんちゃん。


勇気というキャラクターは現実の勇気に限りなく近い存在です。


なので全てに気付いた勇気はもう現実の勇気と同じです。


断じて加奈はキャラクターの勇気が自分に好きという思いを持たせた訳ではありません。


うん…矛盾ありそうだね。


感想にて質問お待ちしてます。




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― 新着の感想 ―
[一言] 明日を生きる活力を与えてくれる作品でした。 遺された方も逝った方も辛いですね。でも、遺された人間は生きていかなければなりません。 死んでもなお、加奈を後押ししようとする勇気の姿に心打たれ…
2012/04/10 17:11 退会済み
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