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第六話:シロの推理

 その後、夕希さんは、手錠をかけられ、パトカーに乗せられた。

 抵抗する様子は、まったくなかった。

「『黒猫』が解決……か」

 刑事さんが呟く。

「どうして、『黒猫』なんですか?」

 部下の一人が尋ねた。それは、僕も知りたい。

「ああ、何時も黒い服を着ていて、何処からか現れては、事件を解決する。だから、『不吉な黒猫』という意味で……」

「刑事さん」

 何時の間にか、僕は刑事さんの言葉を遮っていた。

「別に、事件が起こるのは彼女のせいじゃありません。解決してくれているのに、不吉だとはお門違いもいいところですよ」

 にこりと、笑みを添えて僕は言った。

 どうして、そんな事を言ったのかはわからない。それも、何時も横目で見て無視するような内容の話に対して。

 けれど、何故だか、勝手に口が動いていたんだ。

 だって、事件が起きるのはどっちかというと、僕のせいだし。

「シロ」

 くい、とクロに、袖を引かれた。

「?どうした?」

「……ありがとう」

 何か、礼を言われる様な事したっけ?

 まあ、いいか。

「お疲れ様」

 謎を解くには、謎を知らなければならない。

 犯人を見つけるには、犯人を知らなければならない。

 その手口のみならず、理由や、心情まで、全部。

 クロには、夕希さんが何を想っていたのか、全て見えていたのだろうか。見なくてもいい部分や、見たくない部分までも――。

 見えないものが見えるというのは、どんな気持ちなんだろう。

 ともすれば、見えているものまで見失ってしまいそうな、凡人の僕には知る由も無いけれど。



「おじゃまします」

 あれから、数日。

 僕は再び、クロの家へやって来た。誰かに言われて来た訳じゃない。

 何となく、あのままクロとずっと別れてしまってはいけない気がしたからだ。

 とはいえ、本当は同じ学校だから、クロが不登校を止めれば会えるのだけど。

「いらっしゃいませ」

 小織さんが返事をしてくれた。

 あんな事件があったにも関わらず、小織さんの様子は事件前と何ら変わりなく見える。

 しかし、唯一事件前と変わった所があるとすれば、左手の爪だけが、右手より短くなっていた。

 これは、ヴァイオリニストの手だ。

 ヴァイオリンをやる人間は、左手で弦をおさえるために、左の爪を短くする事がある。

 夕希さんも、そうだった。

「お嬢様に会いに来て下さったんですか?」

「ええ。そうだ、小織さん、チョコレートは好きですか?」

「申し訳ありません。甘いものは好きなんですが、チョコレートだけはどうにも苦手で」

「そうなんですか。じゃあ、今度ケーキでも持ってきますね」

 そう言って、小織さんと別れ、階段を上がる。

 よし。チョコレートが嫌いだという、『最後の確認』が取れた。

 階段を上がって直ぐのところにある、黒猫のプレートが掛かったドアの前に立つ。

 今度は、躊躇しなかった。

「クロ」

 クロは常のように、本の山に囲まれて、速読というやつだろうか、凄い速さで、本を読み進めている。

 そして、僕が部屋に入ってきたのに気づくと、直ぐに顔を上げ、猫のように伸びをした。

 こうして見ると、本当に猫っぽい。けれど、『不吉な黒猫』では決してなく、例えるならば、赤川次郎の三毛猫ホームズの、黒猫版。

 自分で推理までしてくれるから、黒猫ホームズの方が優秀かもしれないぞ。

「今日は、何を持ってきたの?」

 僕が持っている紙袋に気づき、そう訊ねてくる。

 僕は、にやりと笑った。

「お前の好きなものだよ」

 クロは訝りながら、紙袋を受け取り、中身を覗いた。

「これは……」

 中に入っていたのは、『きのこの山』。

「好きだろ?」

「何で――」

 クロは目を丸くする。

「最初にここに来たとき、ケーキを冷蔵庫に入れに行っただろ?その時に、きのこの山が三箱も入っているのを見かけて。最初は別の人かと思ったけど、よく聞いて見れば、小織さんはチョコレートが苦手だし、氷鉋ひがのさん――クロのお母さんだって、チョコレートは好きかもしれないけれど、仕事が忙しいから、せめて一箱づつで、三箱も一気に買う事は無いと思う。そうしたら、消去法で、あとはクロしかいない。三箱も買うということは、よほど好きだという証拠だ。それに、お前は、『生クリームが嫌い』とは言ったけど、『甘いものが嫌い』とは言ってないからな」

 QED(証明終了)。

 クロの推理には劣るかもしれないが、僕なりに考えた結果だ。

 だから、今度は僕が訊いて見ることにする。

「当たり?」

「……正解」

 クロは、『きのこの山』を食べ始めた。

 良かった、合ってて。

 これは、僕がクロのことを『知った』から、導き出た結論なのだろうか。

 夕希さんの件で、推理によってクロは辛い思いをしたかもしれないけれど、推理にはこんな使い方もある。

 クロは授かったその能力を、自分や他人が幸せになるために使えばいい。

「僕が、事件召喚体質で呼んだ事件を、クロが推理する。これって、中々いいコンビじゃないか?」

 少し、ふと思った事を言ってみる。

 すると、クロが微かに、微笑ったような気がした。

 僕がそのまま食べる様子を見ていると、無言でこっちに箱を差し出してきた。僕も食べて良いということだろうか。

 いや、しかし僕は辛党で、けして甘党ではなく、辛いものが好きであって、甘いものは苦手なわけで……。

「いただきます」

 気づくと、僕はそれを口に入れていた。

 口の奥でほどけるチョコレートはやはり、甘かった。

 けれど、けして不味くはなく、ほどよい甘さだ。

 たまにはチョコレートもいいかもしれない。

ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。ようやく、完結です。

実は、連載小説を完結させたのはこれが始めてだったりします。

また、クロとシロのコンビで続編を書けたらなーと思っておりますので、その時にはどうかまたお付き合いくださいませ。


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