表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽園喫茶のカフェラッテ!  作者: 冬森圭
一  犬と少女とカフェラッテ!
9/20

08 迷子の少女、預かってます

 ここはとある喫茶店。

 小洒落た木造風の建物を朝日が射し、昨晩の雨のしずくにきらきらと反射している。爽やかな一日の始まりを予感させた。


「いらっしゃいませ! モーニングやってますよ~」

 この店の店主、甘音の活発な声が上がる。

 朝も九時を過ぎると、店内は客で賑わいを見せるようになる。

 町内の老人会で催されるゲートボールを切り上げてきた人々が、続々と店にやってくる。

「や、おはよう。コーヒーもらえるかね」

「はぁい。ちょいと待ってくださいねぇ」

 甘音はてきぱきと一人で仕事をこなしていた。


「今朝はゲートボール、ありましたか?」

「うんにゃ、今日はねえんだ。昨日が雨だったからよ」

「あら、そーなんですか。それでも、うちには来るんですねぇ」

 甘音の小言に客は笑っている。こういう裏表のないところは客に親しまれていた。



「はい、お待たせ! こちら、コーヒーでございま~す。それからぁ、トーストにぃ、ゆで☆卵にぃ、小倉あーん♪」

 甘音は謎のポーズをキメながら次々と皿をテーブルに並べていく。

 本人はかわいいと思ってやっているらしいが。


 ちなみに、注文されたメニューはただの『コーヒー』のみである。朝食セットなどではない。もちろんこの姉店主がいい加減に、やたらめったら付け足しているわけでもない。

 喫茶店といえば午前中はコーヒーを注文すると、これだけの『おまけ』が一緒になって出てくる。それがこの地域の常識──モーニングなのだった。


「それにしてもこの姉ちゃん、ノリノリだな」

 客の誰かがぼそっと洩らした。



「ま~それにしても、昨日はけっこう降ったわな~」

「降りましたねぇ、雨。うちのトシちゃんなんか、ずぶ濡れで帰ってきましたからね~……」

 あっ、と甘音が思い出したように口をついた。

「そうです、トシちゃんがですよ!」

「うん? 豆の坊主がどうかしたんか?」

 店の仕事をこなすうちに忘れていたために、甘音は俄然、勢いづいた。

「それがですねぇ~」

 一息ついて、他の客にも聞こえるように、嗣郎の拾ってきた子犬の話をした。


「ほぉ、迷子を拾ってきたんか。ま、首輪ついてんならそうだろな」

「そうなんですよ~。で、あの子が、そうです」

 指差した先には段ボール箱が開けて置かれていた。

「ほう。ただのカラ箱に見えるぜ」

「なんだかまだ落ち着かないみたいで、顔も出してくれないんですよね~」

「なるほど、びびってんのか。ま、この店にゃ年のくせに、口うるせぇ連中ばっかりだからな!」

 ガハハ、と客は笑った。

 他の客から「そりゃてめぇーだ!」という声が上がった。


「ラテちゃ~ん、ラテちゃぁん」

 甘音は、ラテ──段ボール箱の中でくるまっている毛玉に呼びかけるが、返事はない。

 少し震えているようにも見える。

「……わ、わぅ……わたしはただの毛玉ですよぅ……」

「う~ん。返事はない、ただの毛玉のようだ」

 仕方なく甘音は仕事に戻った。


「こういうわけですから、お客さんの知り合いで飼い主っぽい人がいたら教えてくださいね。それまでお店に置いときますから」

 甘音は今日一日、このようなことを何度も口にした。

 けれども、めぼしい情報が返ってくることはなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ