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楽園喫茶のカフェラッテ!  作者: 冬森圭
一  犬と少女とカフェラッテ!
5/20

05 甘い姉

 甘音は嗣郎と年の離れた姉だった。

 とはいえまだまだ若い女性だが、今ではこの喫茶店の主をしている。

「ちょっと! 年の差なんて、ほんとに少しなんだからね!」

 それはいつだか彼女が、店の客に対して言っていたことばだ。


 父親の始めたこの店を彼女は数年前に引き継いだ。

 ちなみに、両親は健在である。放任主義の父のいう“自立”が唯一の教えらしい教えであり、店を甘音に任せたっきり、両親は甘音と嗣郎とは別居している。その一方で父は、今ではコーヒー豆の販売を行っており、店の仕入れの陰で下支えしていることを、嗣郎も知っていた。



 店奥のテーブル席に収まった二人と一匹。

「たぶん迷子なんだと思う」

 嗣郎は口を開いた。


 少女は、甘音をすっかり“ホットミルクの人”と認知したらしく、店に入ってきた当初の固さはなくなっていた。

 モノで信頼を釣れるとは、子犬並みの単純さである。

 と、嗣郎は思ったが、そういえばそれは至極当たり前のことであった。


「その首輪、ちょっとよく見せてくれるか?」

 嗣郎は少女の首元をまさぐり、首輪を外してやる。しかし、

「……名前も住所も、何も載ってないな」

「あらら……その子から直接、教えてもらえないの?」

「さっき聞いたけど、だめだった。覚えてないらしい」

 だよな? と嗣郎が少女に問いかける。

 少女は俯いて、

「はい、ごめんなさい……」

 とばかり謝りだす。

 嗣郎は、事情を聞いているだけなのに、なんだかいじめているような気がした。

 少女のふさふさの尻尾はえていた。


「甘姉、その……」

 嗣郎は甘音に向き直った。

 少女を店に連れ込んでからの、一種の喧騒のようなものが一段落して。嗣郎は改めて、自分の不甲斐なさ、始末の悪さに気付いた。それから自分に嫌気がさした。

「こんなの急に拾ってきたりなんかして……ごめん。でも、今さら元の場所へ戻すってのもさ……ほんとに、ごめん」

 自然と謝罪のことばが口をついていた。

 隣でなんだか謝ってばかりだった、この俯き加減の少女も、こんな心境なのだろうか。

 そうして嗣郎は、そのあとの姉のことばにややも恐怖を感じた。

 もし捨てて来いと言われたならば、そうしなければならなかっただろう。

 身ごと出て行けと言われたかもしれない。


 それでも姉は、姉だった。

 嗣郎が自己嫌悪していること、反省していることを全てわかったふうで、何も言わないでいてくれた。

 その代わりに嗣郎の頭をぐしゃぐしゃと何度も撫でてくれた。

「うちらでその子の飼い主を探してあげましょう。見つからなければ里親探しも、ね」

 嗣郎は、姉には返す言葉もなかった。だからその分、隣の少女を撫で回してやった。

 しょげていた少女の尻尾がすぐに元気を取り戻した。




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