04 ミルキー・ティーブレイク!
嗣郎と少女は、この店の奥のほうの席に居座っていた。
昼下がりも過ぎ、日も暮れかけ、おまけに雨天。その二人を除いて他に客のいなかったことは、ちょうど都合がよかったといえばよかった。
せめて雨の降っていない、午前だったならば、それなりに常連客の集まる喫茶店だ。
暇つぶしにやってくる人、世間話をしにくる人、そうしてしばしば発生する井戸端会議に加わりにくる人。あるいは、店を少し行ったところにある一時間に二本しか来ない駅の電車待ちや、人との待ち合わせのためにやってくる人。
店主である甘音の気取らない親しみやすさと、目立ちすぎず地味すぎない佇まいで、この店は町の便利な寄合所として知られていた。
◇
嗣郎はあらかた少女の髪をといてやった。
一般の少女はドライヤーをあてられることを極度に嫌がる、ということを知っていたので、少女の髪を乾かすのに時間がかかってしまった。
嗣郎は仕上げとばかりに、ぽんぽんと少女の頭に手を乗せた。
「わう……」
振り向いた少女は心地よさそうにしていた。
「いちおう薄めてみたの。大丈夫かな?」
甘音がお椀を手に持ってやってきた。ほんのり湯気の立つ白くまろやかな液体。
それを少女の前に、この喫茶店の店主たる甘音は、妙に仰々しく差し出した。
「こちら、当店自慢のホット☆ミルクでございますわ! よろしければセットで、トーストと、それからボイル☆エッグもお付けして……」
「甘姉、そういうの、イランから」
一給仕人としての血が騒いだのか?
子犬相手にモーニングセットのサービスをしようとする姉を、嗣郎は制止した。
しかもモーニングの時間はとっくに過ぎてしまっている。
「えっと、それはなんでしょうか……?」
さらに少女は全く理解していないご様子だった!
「まぁ、毒ではないから飲んでみなよ」
嗣郎が促すと、少女は器に口をつけた。
「あったかぁい……これは、うん、なんだかおいしいものですね!」
「『ホットミルク』な」
少女のお気に召したことを甘音に伝えると、それは私が作りましたとでも言いたげに、小躍りしていた。
「この“あまねぇー”さん? はホットミルクのお店やさんの人なのですか?」
「うん、違うけど」
そうだよ、と嗣郎は面倒だったので、いい加減に言っておいた。