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楽園喫茶のカフェラッテ!  作者: 冬森圭
一  犬と少女とカフェラッテ!
11/20

10 再会

 からりと晴れた晴天の太陽も次第に日没へと向かう、気だるげな午後の学校。生徒たちの長らく待ち望んだ最終授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 教師はそそくさと授業を切り上げて出ていった。

 退屈な時間から解放された生徒たちはめいめいに、席を立ち、おしゃべりをしだす。どっと一日の疲れを発散していた。


 嗣郎は机に突っ伏していた。

 店の手伝いで朝の早い嗣郎は、この時間帯はだいたいこうだった。それでなくとも眠気に耐えられずに“撃沈”している生徒の多い午後の授業だ。嗣郎などは、轟沈ごうちんである。


 まどろみに落ちる嗣郎の頭の中、とりとめのない考えが漂う。


 あのバカ犬はうちに置いといて大丈夫だったかな。すごい人見知りだったからな、アレは。甘姉を前にしても最初はビクビクしてた。知らん人の来る店舗に置いといたのはかわいそうだったか。

 元々どっかから『脱走』してきたヤツだし、もしかしたら、うちの店からも逃げ出してるかもな。それならそれでまぁ、面倒見る手間が省けていいか……。

 というか、うちの姉ちゃんに任せといて大丈夫だったかな……?

 もし逃げ出しいるとしたら、あの姉の監督不行届きだよな……。


 嗣郎は不安な気持ちでいっぱいだった。



「おーい、豆ー。まぁーめぇー。豆ったら、豆ぇー」

 嗣郎をせっつくクラスメイト。

 コイツは朝も豆豆とうるさかった。名前をマサトというが。

 うっとうしかったので、嗣郎は寝ているフリをして無視することに決めた。

「おらー、起きないとコーヒーメーカーにぶち込むぞぉ、豆~。……むぅ。ほんとに寝てんのかな。せっかく面白そうなもんが見れるのに。なんかさぁ、校庭に犬が……」

「……!」

 嗣郎はガバっと飛び起きた。

 まさに危惧していたとおりの事態だった。

「それ、どこだ……?」

「おいっ、寝たふりすんなら、も~~最後まで寝てろよ!?」

 ぶつくさ言うマサトの抗議もそのままに、嗣郎は窓際に駆け寄った。


「さっきはあの辺にいたぞォ。……あ、ほら。あそこに」

 マサトが指さした先、嗣郎はラテを見つけた。

 なにやらきょろきょろとあたりを見回している様子だ。

 嗣郎はさらに、昇降口からぽつぽつと現れる学校生徒にも気付いた。下校する生徒、部活へ向かう生徒。もしあれだけの人数がラテに群がったら、あのバカ犬はどこへ逃げ出すかわかったもんじゃない。


 嗣郎は鞄を引っつかんで駆けた。

「あ! おォい、もう帰んのかよー! まだホームルームがあるぞ、豆ぇー!」

「店の仕事で先帰る、って言っといてくれー!」

 マサトを放って、嗣郎はひとり教室をあわただしく出ていった。



 それから嗣郎は廊下を突っ切って、階段を駆け下り、途中で他の生徒をかきわけては、ぶっちぎりながら、校庭に飛び出した。

「はぁ……はぁ……」

──第一声だ。最初が肝心だ。

 グラウンドを全力疾走する嗣郎。

 トラックも何のその、ある一点を目指して一直線に駆けていく。

 その先にあの少女がいた。

──奴らを叱るときは最初の言葉が決め手なんだ。

 嗣郎はようやく少女のそばまでやってきて、息を切らしながら口を開く。

「このバっ……!」

 その言葉を発するよりも早く、少女が嗣郎の胸に飛び込んできた。

「うっ……うっ……うえぇぇん……!」

「おいっ……ちょ、ちょっと……!」

 少女は涙を流していた。

 声にならない声をあげて泣きじゃくった。

 少女のか細い腕は、嗣郎の身に巻きついて離してくれそうになかった。

 嗣郎は怒鳴りつけるつもりだった。叱り飛ばすつもりだった。しかし、悲壮感でいっぱいの少女の泣き顔を見て、この彼女を痛めつける鞭のような言葉はすっかり引っ込んでしまった。


 結局、嗣郎は少女を抱きかかえてそのまま校門を出た。

──このバカ犬!

 口に出して言うことができなかったのは、息が切れていたからなどではなかった。



 その頃、ホームルームの始まる教室。

 一日の終わりを目前にして、生徒たちはざわめきたっている。


「で? 桐谷はもう、帰ったんか?」

 担任教師はマサトをただした。

「みたいっすよー。奴はなんか、店の仕事が~……あ! 豆の仕入れがあるってんで、帰りましたヨ!」

 本人の不在をいいことに、マサトは軽快に笑い飛ばす。

「豆が豆、仕入れるのかよっ! みたいな~……えへへ」

 そしてノリツッコミを披露していた。

 担任の咳払いだけが、教室にむなしく響いた。




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