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04

今回ちょっと短いです。※やっぱり短過ぎたので、8/31に加筆修正しました。

 ハーレム、もしくは逆ハーレム現象というのは、基本的に二種類ある。

 無意識に異性を惹きつけるタイプと、意図的に異性を引き寄せるタイプだ。理由はまあ様々だが、基本的にハーレム・逆ハーレム体質のキャラというのは、容姿や何かしらの行動、肩書が、まるで誘蛾灯のように異性を惹きつける理由となる。

 前者と後者の違いは、ズバリ下心の違いだ。前者は恐ろしく鈍い場合が多く、自分のフラグ建築能力を無自覚のままやたらと使うことがあるが、本人は割と無害で善人だ。

 しかし、後者はそうもいかない。後者は自分のフラグ建築能力を自覚しており、効果的にフラグを立てては意図的に回収し、好みの異性をかき集める場合が少なくない。前者に比べて相当性質が悪いと言える。

 だが、これはあくまでも基本的な分類であり、それ以外の分類が無いわけではない。それが第三の種類、無意識に異性を引き寄せながら、それを自覚しているタイプだ。

 このタイプは言うなれば、苦労人である場合が多い。無意識にフラグが乱立してしまうが、決して鈍いわけではないために、自分の置かれた状況を理解してしまうのである。しかもそれを喜ばない、望まないタイプの人間だ。そのため、その現実のままならなさに苦労する。そういうわけだ。

 ――つまり今何を私が言いたいのかというと、この唐突なフラグからして、どうやら私はその三番目のハーレム・逆ハーレム分類に置かれてしまった可能性があるということである。

「(いくら異世界召喚もののテンプレだからって、なんで今起きんの? つーか初っ端からテンプレ崩壊してたのに、何で今更テンプレが復活するわけ? 誰が逆ハーヒロインになりたいなんて言ったんだ! ラブコメしたいなんて言ったんだ! まさかとは思うけど、私のチート補正はこれか? これなのか!? おい責任者出てこいよ馬鹿野郎!)」

 目の前の不審者の存在を無かったことにしたくてそんなことを内心で叫ぶも、目の前の悪夢は消える気配など欠片も無い。犯罪者だと言ったら確実に誰にでも信じられるだろう不審な男性は、相変わらず私を直視しないくせに見続けている。

 アレか? 男性のチラ見は女性のガン見だと言うが、これもそういうアレなのだろうか? 知りたくなかった現実だ。

「ああああ、の……あ、あな、貴女は、一体……」

「(コイツ馬鹿か?)」

 質問をしたところで、私が答えられると思っているのだろうか。完全拘束スタイルだぞ。アホか。

 そういう思いを込めて男性を睨んだせいだろうか、男性はハッとして「す、すみません! しゃ、喋れない、です、よね……!」と慌てふためきながらオーバーリアクションで謝罪をしてきた。少々鬱陶しい。


「あれ……お兄ちゃん、ここに居たの?」

 一定距離以上近寄ろうとしない割に、部屋から逃げようとすると阻止しようとしてくる男性と解決策無く対峙し続けていると、マリアが部屋に戻ってきた。やはり男性はマリアの兄だったようだ。

「マ、マリア……いつの間に戻ったんだ? みんな探していたんだぞ?」

「あのねヨシュアお兄ちゃん、このお姉ちゃんの顔や手や足についてるの、外して? マリアじゃ、外してあげられなかったの……」

「えっ……」

 不審者、もといヨシュアさん(今度は神の子の名前か……)は、脱走の謝罪をすっ飛ばして出された妹の要請に、大いに戸惑った。幸い……と言うべきなのか、この人の戸惑い方は「自分達と敵対している相手を助けることはできない」という葛藤ではないようである。殺される可能性はまた下がったようだ。

 では何の戸惑いなのかというと、何となく、私に近付くことに対する照れのようなものではないかと思う。自惚れでなく、この人はどうしたわけか(召喚補正だとしたら不本意ながら私のせいだが)フラグが立ったようだし、さっきから一定距離を保っている辺り、心理的に私に接近することが難しいのだろう。私からすれば、一人相撲としか言えないが。

「(近づけないって言うなら、別に無理して外してくれなくてもいいんだけども)」

「ねえお兄ちゃん、外してあげて? マリア、このお姉ちゃんを助けてあげるって、決めたの!」

「そ、その……私は……」

 ヨシュアさんはマリアと私を交互に見比べながら、「妹の頼みは聞きたいものの、恥ずかしくて接近できない」という、よく分からないジレンマに苛まれている。マリアは兄の反応が理解できないようで(当たり前だが)、狼狽える兄を何とか動かそうと必死になっているが、逆に状況がカオスになっている気がする。

 しかし、ヨシュアさんのハッキリしない態度というものは、どうも好きになれないな。優柔不断な態度を取り続けてないで、断るなら断ってもらいたい。そうすれば私としても、ここを出て他の方法などを探しに行けるのだが。

「(……こっそり出て行ったらいけるかな? でもマリアの執着ぶりからするとな……ヨシュアさんも執着という点では、マリアと似たり寄ったりだし。逃げるのは無理そうだよな……)」

 マリアも来てしまったことだし、私は逃亡を完全に諦めて、この優柔不断な不審者が何かしらの判断を下すのを待たざるを得なくなった。しかしその判断を下す時がいつになるのかは、全く見当がつかない。


 ……それにしても、ヨシュアさんの執着ぶりを見て思ったのだが、マリアが私へ執着する理由は、本人の性格以外にも、ヨシュアさんと同じく召喚補正によるものかもしれない。ということは、逆ハーレム補正に加え、ハーレム補正も持ち合わせていることになるのか……異性よりは同性であるだけ比較的ましだが、異性・同性の両方のハーレム補正を背負うというのは、かなりキツそうだ。

 正直いくら好意を向けられても、それに応えられる気がしない。そもそも、応えるつもりも特に無いのだが。自分が他人とそんな関わりを持つなんて、協調性とは無縁の人生を送ってきた身では、想像もできない。確実に慣れないことに苦労することが目に見えていて、気が重い。つーか現在既に疲れ気味だ。

「(ま、まあ、まだたった二人。しかもハーレム・逆ハーレムの括りで言えば一人分ずつしか、そういう反応をしたところを見ていないんだし……一応、まだ補正かかってるって決まったわけじゃないしな。あくまで可能性だ、可能性)」

 少なくともヨシュアさんに関しては補正が確実にかかっているような気はするが、そこには目を瞑り、二人の私への執着は偶然の産物だと、自分を誤魔化してみる。しかし、補正でない偶然の産物だったとしても、どの道今の厄介な状況は変わらないことに気付いて、少し気が滅入った。


 ***


 その後暫く兄妹のすったもんだが続いたが、結論から言うと、ヨシュアさんがマリアに押し負けた。最後の方にはマリアがヨシュアさんを何度か殴っていた気がするが、見なかったことにした。やはりこの幼女は強い。

「けほっ、げほっ……」

 溜まり切った唾液に数回咽ると、私はヨシュアさんから忌々しい猿轡をひったくり、窓の外に投げ捨てた。あんな物二度と見たくない。付けるのなんてもっと御免だ。ケッ、と放り投げた方角に悪態をつき、口元を乱暴に拭う。 土や泥で汚れていたせいで、土の不愉快な感触と味がした。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫……心配してくれてありがとう」

 そう言ってマリアに礼を言うと、マリアは可愛らしい笑顔を浮かべた。聖母(マリア)と言うよりも天使といった方が合っている気がするが、性格を顧みると小悪魔な気がする。まあ、本当に可愛いのは確かだ。それは間違いない。

 だがそれに比べて……

「………」

「………」

 ヨシュアさんは何ていうか、うん。残念過ぎる。何で猿轡を投げた方向を名残惜しそうに見てるんだ。まさか欲しかったのか? ちょっと……いや、かなりキモいぞ。駄目だよこの人、出会って数分で不審者から変質者にジョブチェンジしてる。

 この猿轡を外してもらう時も、これに輪をかけて気持ち悪かった。マリアの説得? によってようやく私の半径一メートル以内に入れたヨシュアさんは、元は青かった筈の肌が見事に真っ赤だった。元々様子がアレだったのに、私に近寄ったことで更に興奮したようで、息遣いが完全に変態のそれだったのである。

 だがここまではまだいい。まだマシだった。

 ヨシュアさんはなんとか私に近寄ってきたは良いものの、その接近スピードはナメクジ以下だった。最終的に焦れた私が逆に無理矢理迫って取らせたのだが、その際息遣いが更に荒くなった。めっちゃ匂い嗅がれてた気がする。ちょっとぞっとした。記憶が劣化するのをのんびり待ちたくない……。

「ねえお姉ちゃん、お姉ちゃんの名前は?」

 ヨシュアさんを残念な目で見ていると、マリアが可愛らしく上目遣いで質問してきた。この子の性格を知っていると絆されたら終わりなのだが、如何せん見た目が可愛い。これが計算だったら末恐ろしい子だ……。

「お姉ちゃん?」

「ん……ああ、そういえば自己紹介できなかったしね……私は(よる)。芹沢依だよ」

「ヨル?」

「そう、依――ヨルだよ」

「……ヨルお姉ちゃん!」

 私の名前を知ったのが嬉しいのか、マリアはまた良い笑顔を向けてくれた。……何ていうか、「可愛いって正義」を今実感している気がする。この子に逆らえない理由がまた一つ増えた気がしたよ……。

「………ヨル、さん……」

 つい幼女の可愛さにほっこりしてしまっていたところに、背後から不吉な声が聞こえ、背筋に氷を入れられたような悪寒が走る。ぽそりと私の名前を呼ぶヨシュアさんは、愛らしい小悪魔な妹と違って、顔を赤らめながらも影のある不気味な笑顔を浮かべていた。こう、ニタァ……って感じの。完全にただの変質者だが、顔が良いので、面食いが相手ならまだ「陰のある青年」みたいな感じでギリギリで許されるレベルだろう。私は許さないが。


 だが……まあ一応、これでもマリア同様、彼は私の恩人に当たるのだ。喋れるようになったのだし、きちんと礼を言うべきか。私はヨシュアさんに向き直った。

「その、ありがとうございます、ヨシュアさん」

「……!!! …わっ、私の、名前……っ!!」

「はい」

「……も、もう一回……いい、ですか?」

「……ヨシュアさん」

「~~~~っ!!!!!!」

「(ああもう駄目だこの人、救いようが無い)」

 私は目の前で身悶える青年を見る自分の眼差しが、完全に可哀想なものを見るそれであるのを感じた。

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