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お気に入り件数が200を超えた、だと……?

 知って良かったのかどうかよく分からない三つ子淫魔の事情を垣間見、ヴォルクスさんとの間により強い主従の絆を得た後、銀食器(シルバー)磨きの刑を終えたヴェロニカさんが午後のお茶の支度をして戻ってきたのを契機に、本日分の勉強は終了となった。一週間前まで現役女子高生だった身としては、おやつ時で授業が終わるのが何となく早く感じたのだが、彼らが私を気遣っているらしいのが何となく察せられたため、素直に従うことにした。付き合ってくれている彼らだってそれなりに疲れているだろうし。


 「本日のお茶菓子は、ヘルメユのタルトですわ」

 「ヘルメユ?」

 「人間界の南の方で採れる、甘い果実です。そのまま食べても美味しいですが、ジュースやお菓子にもよく使われますわ」


 ヴェロニカさんがマンゴーや黄桃に似た感じのオレンジ色の果物が乗ったタルトを切り分け、私の前に並べてくれた。やはり、王城で出されるものだからだろうか。タルトはその辺のケーキ屋で売られているものよりいくらか気合が入ったもので、きらきらと艶出しのシロップが光り、中央に飴細工を据えられたタルトは、そのまま観賞用とできるような一種の芸術品だった。パティシエって凄いなー……特に飴細工って、高温度の火で飴を柔らかい状態に維持して形成するから、専門の飴細工職人は手がボロボロになるって某パン作り漫画にあったし。やっぱ凄い。

 ただ、この感動は長く続かなかった。


 「さあ姫様、召し上がれ」

 「……召し上がれません」


 何でヴェロニカさん、「あーん」の体勢とってるかな。これじゃ両親との食事風景(羞恥プレイ)に逆戻りだよ! 一瞬食べそうになったよ!

 ……いや、ヴォルクスさんの前という超絶的な恥ずかしさでなければ、うっかり食べてたかもしれないけど。結局綺麗なお姉さんが好きなんだよチクショウメ!

 しかし、化けの皮(?)が剥がれてから、ヴェロニカさんの私へのアプローチが目立つようになったよね……百合イベントでそんなに好感度上げてたの? それとも、勝手に好感度が上がる補正かかってんの?


 「姉さん、何を考えているんですか」


 私がまた唇の端が引き攣りそうになったのを抑えていると、ヴォルクスさんが呆れ半分、疲労半分といった顔で口を開いた。その様子も様になるのは、やっぱり美形の特権である。しかもエロい。


 「口移しにしようかどうかも考えたのよ。ちゃんと抑えたわ」

 「全部抑えきって下さい。それに毒見は」

 「済ませてあるわ。このフォークで」

 「すみませんヴォルクスさん、新しいフォーク下さい」

 「かしこまりました」


 残念な美形というか、変態という名の淑女路線を着々と進み始めているっぽいヴェロニカさんを、私とヴォルクスさんのある意味見事な連係プレイが受け流す。何だかヴォルクスさんとはこれから更に仲良くなれそうだ……ヴェロニカさんのおかげで。

 私が新しいフォークを手にすると、ヴォルクスさんが気を遣って新しくケーキを切り分けて出してくれる。さすがだ。さすが気遣いの人だ。感動する。


 「そう言えば、こういう果物とかって、魔界で栽培できるんですか? それとも輸入か何かで?」


 さっそく新しいタルトを頂きつつ(見た目を裏切らず、ヘルメユの食感は黄桃、味はマンゴーだった。美味しい)、ヴォルクスさんに尋ねる。魔界はどう見ても「ザ・焦土」といった地が殆どなので、その辺ちょっと気になる所だ。


 「丈夫な植物であれば、人間界より厳しい自然環境の魔界でも育つのですが、基本的に魔界は農耕に不向きです。魔界特有の野菜などもあるにはあるのですが、生命力の代償に味も栄養価も殆ど無いので、役に立ちません。ですので、こういった食料の殆どは、人間界から奪ってきます」

 「奪うんだ……」

 「ええ。遥か昔、比較的穏やかな気質の魔族が、人間に食料を分けて欲しいと交渉しようとしたらしいのですが、姿を見られただけで攻撃されたそうなので、以来、略奪で食料を供給しております。ただ、奪いに行く度に殺してしまうと供給源が無くなりますので、その時はできるだけ殺さないようにするという暗黙の了解がなされています。あと毎回戦うのが面倒なので、懐柔目的で、いくらか宝石などを置いていく者も居るそうですよ。魔界は植物が少ない代わりなのか、鉱物が多く採れるので」

 「懐柔の成功率は?」

 「1割以下といったところです。置いて行った宝石を売り払うなどをした時、魔界産の宝石だと知れると、我々に魂を売ったとして国から処罰を受ける場合が多く、最終的に戦闘になるそうです」

 「そっか」


 魔族という、他種族と相容れない(というか受け入れてもらえない)種族なら、この辺が限界だろうか。難しいこと苦手って言ってたし、「懐柔」を思いついて実行しただけでも良い方なのかもしれない。……いや、この言い方だと、魔族どんだけ馬鹿なのって感じだけど、多分懐柔するより黙って奪った方が早いって考えちゃうんだよね。きっと。実際私も思うっちゃ思うし。

 しかし、食べ物を渡して宝石を貰うっていう、ある意味普通の取引をしただけで処罰されるんだ。ただ奪われるだけだと損害にしかならないから、魔族が相手でも利益が出た方が普通良くないだろうか。


 「……そうだ」

 「姫様?」

 「王女様?」


 多分懐柔、もとい取引が失敗するのって、相手が農村とか商家単位だろうから、それらが国に反旗を翻したって勘違いされてるからじゃないだろうか。それなら、一国丸ごとと取引しちゃえばいいんじゃない?

 それなら、国は自国の農村やら商家やらが魔族と組んで反乱を起こすかもなんていう心配、しなくていいわけだし。国が魔族との取引を認めちゃえば、農村とかも処罰されないし、むしろ正式な出荷先として扱えて、それに見合った利益も受けられるんじゃないだろうか。

 とはいえ、絶対向こうは嫌がるだろうから、普通に契約は無理だよね。実際無理だったってヴォルクスさん言ってたし。

 つまり、植民地支配に近い感じになるんだろうけど、なかなか良いんじゃないだろうか。うんうん。


 「ヴェロニカさんヴォルクスさん」

 「はい」

 「いかがなさいましたか?」

 「人間界(むこう)の国いくつか征服するって、アリですかね」


 ***


 植民地支配の件をヴェロニカさんとヴォルクスさんに話したところ、「姫様は天才ですね! 素晴らしいですわ!」「さすがは王女様! 画期的です!」と、よく分からないが手放しで絶賛され(やっぱり魔族、その場その場の略奪しか考えてなかったんだ……多分、考える頭があっても、途中で飽きて短絡的行動に走るんだな。気持ちは分かる)、あれよあれよという間に意見が魔王と王妃様のとこまで行ったらしく、何故か仕事してた筈の両親が私の部屋に来ていた。


 「ヨル、会いたかったぞ!」

 「たった半日でも顔が見れなくて寂しかったのよ?」

 「そ、そうですか……」


 そう言ってぎゅうぎゅうと二人がかりで抱きしめてくる親馬鹿達。悲しいことに、半日ぶりのこれが何となく懐かしく感じてしまっているのだが。

 あ、苦笑するヴォルクスさんの隣で、ヴェロニカさんが羨ましそうにじっと見てる。そういえばあの人、意外にこういう接触しないよね。侍女さんとしての一線を一応守ってるらしく、表立ってセクハラを働くようなことは無いが、代わりに例のフォークや「あーん」のように、隙を突いて様々なことをしてくるスタイルらしい。

 まあ、あの人に抱きしめられたら、胸とか匂いとかであっという間に絆され(落とされ)そうなので、助かっているが。ボインが好きで何が悪い。美女に弱くて何が悪い。

 ……話が逸れた。


 親馬鹿な両親は半日ぶりの娘への抱擁を思う存分堪能すると、魔王がそそくさと私を自分の膝に乗せ、王妃様が横から私を愛でるという、他人の目に晒すには恥ずかし過ぎる家族団欒スタイルにシフトする。慣れてきてる自分が嫌だ。


 「それでヨル。人間の国を征服しようという話だったな。よく思いついたな」

 「あ、その、必要な分を一々奪って来るよりは、食料の安定した供給があった方が良いかと思って……」

 「ふむ、そうだな。確かに今の体制だと、略奪の加減が利かずに、結局飢えて滅びる村などが多いからな。軽く話を聞いただけでよく思いついたものだ。私には面倒過ぎて案を出す前に攻め入るところだぞ」

 「とは言っても、略奪をやめてしまうとこちらが飢えてしまうから、悪循環だったのよね。私達のヨルは頭が良いのね!」


 完全に軽い気持ちで言ったことをいやに褒めてくれる両親に、私は照れと若干の残念さ(一応一国の主なのに、どうしてその辺深く考えず、途中で魔族クオリティ発動させちゃうかな)を抱いた。また、私がある意味魔族らしく向こうの世界でおかしかったのと同時に、向こうの世界でおかしいながらも人間として過ごしていたためか、こちらでもある意味おかしいのは、皮肉だなとも思った。向こうと違って、好意的に見られてるから良いけど。

 でもさ、征服が斬新アイディアとして受け入れられるってどういうことよコレ。魔王って言ったら世界征服がスタンダードスタイルじゃないの?


 「しかし征服か……難しいな」


 おう、魔王様が都合良く疑問に答えるような言葉を漏らしたぜ。しかもなんか深刻そうだ。


 「人間、そんなに強いんですか?」


 なんせ、どう見てもただの可愛らしい幼女のマリアが、暇潰しに人間殺しに行けちゃうくらいだ。魔族の基本スペックは非常に高い筈だし、その辺の軍隊に引けを取るとも思えない。

 そうなるとラノベ的に考えて、勇者がたくさん居るとかか? 私を呼んだのだって勇者召喚だったから、そういった他の勇者(チート)が居ないとは限らない。勇者が複数人いるのなら侵攻が阻害されるのも有り得るだろう。


 「いや、全く。人間なぞ障害の内に入らない」

 「え? じゃあなんでですか?」

 「人間界と魔界では遠過ぎる。つまり、支配するのなら魔界を離れ、直接支配先に行かねばならないだろう? 家族や友、恋人と離れてまで、人間界に長期滞在したがる者が、まず居ないのだ。私も嫌だ」


 単身赴任くらいしろよ! 家族大好き友達大好き恋人大好き、安心の魔族クオリティだな! ていうか率先して嫌がるなよ!


 「それに、命じれば渋々ながら従うだろうが、嫌がっているのに向かわせるのは心苦しい」

 「あー……」


 習ったばかりの魔族の特徴、「支配対象を愛する」が脳裏を過る。魔王もどうやら例に漏れずその口らしく、臣下が可愛いらしい。優しい上司である。


 「でも、このアイディアは素晴らしいわ。毎回あの脆弱な生き物を殺さないように相手取るのもなかなか難しいって奏上があるし、戦わないでさっさと貰えるものを貰っていけるなら、それが一番楽だもの」

 「ふむ……どうするか」


 魔王夫妻はどうしても娘のアイディア(という名の思いつき)が捨てられないのか、うんうんと唸って必死に考えている。……いや、そんなに悩むなら、無理しなくていいんだけどなあ。

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