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Kapitel.4

 きっと、心のどこかでまだ彼のことを諦められない自分がいるんだと思う。

 私はぼんやりとテレビを見ながら思った。

 雄大は最後まで笑ってくれたが、いずれ返事を返さないといけない。自分を好きだと言ってくれる人なんて、この先もういないかもしれない。それくらい貴重なチャンスなのだけど。どうして私は迷ってるのかと、自分に問いかける。

 二年前に振られた彼に未練残して告白してくれたのを断ろうとするなんて、おかしいかな。

 私は大きく溜息を吐いた。



「別に、いつでも良いから」雄大は確かめるように言う。「卒業してからでも良いよ」

「卒業してからでも!?」

 翌日、雄大はみんながいる中さらりと言った。私はつい大声を出してしまう。

「何々、なんの話?」

 桜が興味津々と聞いてくる。そんな桜に雄大は苦笑した。

「CDを貸したんだよ」

「なーんだ。つまんないの」

「つまんないって、何を想像してたんだよ」

 雄大は私の性格を理解してるのだろう。少し嬉しい。

「あ、うん。わかった」と、私は頷いてから付け加える。「でも、もう今日持って来ちゃったよ」

「えっ、あ、そうか」

 雄大は少し戸惑う。

「放課後渡すね。ありがとう」

 私は笑顔を見せた。



「ごめんなさい」

 私は頭を下げる。雄大は何も言わなかった。

「雄大が嫌いなわけじゃないの。ううん。どちらかと言うと大好き。だけど、だけどね。私、好きな人がいるの・・・・・・」

「好きな人・・・・・・」

 雄大が呟く。私は力なく笑った。

「片想い」

「相手は・・・・・・聞いても良いか?」

 雄大は遠慮がちに言う。折角の告白を振ってしまったという負い目を感じていた私は、ヒントだけでもと思った。

「雄大の知ってる人。ここの学校だよ」

「隆二」

 雄大が即答する。私は呆然と雄大を見上げた。何度も瞬きをする。

「あってるだろ」雄大はいたずらっぽく笑った。

「なんで・・・・・・」

 私はおろおろと訊く。

「三年になってからずっと原川のこと見てきたんだ。そしたらなんとなく」

 雄大が肩を竦める。私は何も言えなかった。

 演技には自信があった。彼のことを好きだという気持ちは、誰にも気づかれないと思っていた。なのに。

「まぁ、予想はしてたから。でも、告白できて良かったよ」

 雄大の笑顔が痛かった。そんな痛みから逃れるように、私の口が勝手に動いた。

「私、馬鹿だよね。告白なんて、金輪際ないかもしれないのにさ。振り向いてくれない相手も想って、想ってくれる人を振るなんて」

 雄大がそっと私を見る。

「宮原よりも早く雄大と出会いたかった。そしたら、絶対に雄大のこと好きになってたのに・・・・・・」

 心から思ったことだった。本当に、彼より先に雄大に会っていれば良かったのに・・・・・・。

「ほら、元気出せよ。俺も応援するから」

 雄大が私を励ましてくれる。私は何度も頷いた。

「あ、そういえばチョコ美味かったぜ。最高だった」

 思いついたように雄大が言う。私は笑って言った。

「ありがとう・・・・・っ」



 雄大との関係も落ち着いた頃。ちなみに、雄大はいつも通りに接してくれている。私としては、この上ない喜びだ。

 私は重要な問題を忘れていた。他でもない、結莉乃と彼のことだ。

 あの二人も、怖い程にいつもと変わらない生活を送っている。下校も一緒だし、二人の態度も変わりはない。

 時々一緒に帰ることがあるが、それはもう、ある意味で不気味だ。ここまで変化がないと、余計に違和感を感じてしまう。

 結莉乃からは口止めされていたから何も言えないけれど。なんだか異様な感じだ。



 バレンタインとくればホワイトデー。バレンタイン程ではないが、生徒内ではそこそこに盛り上がっている。

 当日の朝、クラスの男子の学年委員のひがしがみんなを集めた。男子はなんだかそわそわしているのに対し、私を含め女子は何が始まるのかわからず、きょとんとしている。

「ちょっと聞いてくれー。何を隠そう、今日はホワイトデー!」 東はみんなの注目を集められて嬉しいのだろう。楽しそうに話している。

「そこでまぁ、女子にも結構迷惑をかけたし、男子からプレゼントだ!」

 女子から驚きや歓声が沸き上がる。

「男子!渡せー」

 東の合図で、男子のみんなが一斉に鞄から何かを取り出し隣の席の女子に渡した。

「何これ!もしかして手作り?」

「全員分作ったの!?」

 そんな女子の疑問に、東が声を張り上げて言う。

「実は、クラスの男子全員で作ったんだ」

 えぇえええっ、と女子から声があがる。私もつい叫んでしまった。

 そんなことってあるの?

「今までの感謝の気持ちと、これからもよろしくってことで!」

 東の台詞をきっかけに、教室は多数の声に包まれた。

「食べよ食べよっ!」

 誰かの声に、女子みんながラッピングを解く。

 チョコクッキーだった。手作り感満載で、少々形もいびつだ。しかし、そんなのは全く気にならない。

 男子も緊張してるのか、教室が静まった。

 女子はお互いに眼を見合わせ、桜が一口食べる。

「あっ、美味しいっ!」

 桜の一言に、男子は安堵の色を見せた。

「本当に美味しいよ!男子が作ったとは思えないくらい!」

 桜の声にあわせ、みんながチョコクッキーを口に入れる。そしてみんなが驚いていた。

 私も眼を見張ったくらい。とても男子が作ったとは思えないくらい美味しかった。強いて言えば少々甘すぎる気もするが、こんなもんだろう。

 一斉に教室がうるさくなる。男子はみんな、嬉しそうだった。



「えぇっ!そんなことがあったの!?良いなぁっ」

 放課後、他クラスの結莉乃に男子からのプレゼントについて話す。結莉乃も驚いたような反応をした。

「ね、凄いでしょ」

「羨ましいっ。そんなのなかったよー」

 先生の陰謀だろう(冗談です)、放課後、学年委員会があった。終わってから、同じ学年委員の結莉乃と一緒に帰ることになった。

 それぞれ鞄は教室においてあった為、結莉乃と別れ教室に戻る。自分の教室に入ってから気がついた。なぜかそこに彼がいることに。

 彼は窓の外を眺めている。私は教室を間違えたかと思ったが、いや、そんなことはない。

 音を立てないようにそっと中に入って鞄を取ろうと思った。抜き足差し足で教室へ入る。

「ばれてるよ」

 不意に声が聞こえて、私は固まった。彼の声以外のなんでもなかった。

「・・・・・・何してんの」私は諦めて堂々と歩く。

「原川を待ってた」

 彼の返事を、私は瞬時に理解できなかった。誰を?私を?待ってた?

「はい?」

 素直に聞き返すと、くるりと彼は振り返った。

「告白、しようと思って」

 耳がおかしくなったのかと思った。告白するって、堂々と言うもんですか?




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