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令嬢達のお茶会

流行りの小説 〜病弱な幼馴染

作者: 睦月
掲載日:2026/08/13

カフェで、わたしは親友に首尾を報告していた。


「あなたのアドバイスのおかげで、とってもうまくいったわ! もう三回も婚約者とのお茶会をキャンセルして、わたしのお見舞いに来てくれたの!!」

「よかったわね。これからはデートや夜会もキャンセルさせるといいわ」

「がんばる! そもそもわたしがずっと好きだったのに、急に婚約するのが悪いのよね」

「そうよ。きっと愛のない婚約なんだから、負けちゃダメよ? お互いがんばりましょうね」

わたしと親友は境遇がとても似ていた。

好きだった幼馴染に婚約者ができてしまって嘆いていたら、彼女がいい方法を教えてくれたのだ。


「それにしても、ちょっと『具合が悪い』って言っただけで、こんなに効果があるなんて思わなかった! あなた頭いいのね」

「ふふ。男性って結局、可憐で儚げな女性が好きなのよ」

「確かに婚約者の方はキレイだったけど、お堅い感じだったな。嫌よね、ああいう人」

「そうそう、わたくしの好きな方の婚約者もね──」

ひとしきり愚痴を言い合って、紅茶を飲んで一息入れた。

ここのお店は紅茶がとても美味しい。話題になるのもよくわかる。




心地よい空気の中のんびりしていると、店の奥のテラス席から、女の子達の話し声が聞こえてきた。


「ねぇ、アナ。この本知ってる?」

「どれ? うーんと、『病弱な幼馴染を優先する婚約者はいりません!! 〜今日から始まる溺愛生活〜』。

……また、マルゴの叔父様が送ってきたの?」

「そうよ」

「そう……。どんな話だったの?」


テラス席は予約が必要だと言われて、今日は入れなかった席だ。

いつか好きな人に連れてきてもらいたいな。もちろん、二人きりで!!


「とある女の子の話でね、婚約しているんだけど、婚約者がいつも病弱な幼馴染の女の子を優先しているの」

「いつも優先って、どういうこと?」

「お茶会もデートも夜会も、『幼馴染の具合が悪くなった』って言って、中止か延期になるの。そして婚約者は、幼馴染のお見舞いに行ってしまうの」


──「病弱な幼馴染」という身に覚えのありすぎる単語が耳に入って、思わず顔をあげてしまった。

親友も同じ方向を見ている。


「待ちなさい。その婚約者の男って、医師か薬師なの?」

「違うわ。普通の貴族令息ね」

「医師でもなんでもない人が看病に行っても、邪魔なだけじゃない」

「幼馴染の女性の言い分としては、側にいてくれると安心するのですって」

「安心……。気鬱の病なのかしら?」

「違うわ。体が弱いだけみたい」

「役に立たないのにお見舞いに行くなんて、一体何を考えているのかしら。迷惑な男ね」

「そうよねぇ」


迷惑なんかじゃない! 婚約者よりわたしを優先してくれているんだもの! 嬉しいに決まっているじゃない!!

婚約者なんかよりも、わたしの方が好きだってことなの!!


「でも、夜会に婚約者と一緒に出席しないのは、どう考えてもよくないわ。早めに知らせてくれないと、エスコートを頼む人が見つからないかもしれないし……。特に女性は、ドレスやアクセサリーを全部選び直さなくてはいけないのよ?」

「夜会は、前日に行けないって連絡がきていたわ」

「前日って……。主催者への連絡はどうしたのかしら? 婚約者でもない他家の女性のお見舞いなんて、言い訳にもならないじゃない。

待って、わかったわ」

「何が?」

「その幼馴染の方、多分もう先が長くないのよ。だから婚約者も最期を看取るつもりで慌てて駆けつけたんだわ。

そんな大変な理由があるなら、無理をして夜会に参加する必要はないわよね? だって、『臨終に立ち会いに行く』なんて言われたら、誰にも咎められないわよ。欠席して仕方がないと思うわ」


なんでそんなに話が飛躍するの?!

え、もしかして、これが一般的な考え方なの? わたしも好きな人に「先が長くない」と思われているってこと? 違うよね……?


「……残念だけど違うのよ、アナ」

「違うの?」

「幼馴染は病弱だと言い張っているだけなの」

「……」

「具合のいいときは、主人公の婚約者と一緒に街歩きをしたり、夜会に出たりするの」

「詐病じゃない。それが原因で婚約破棄になったら、訴えられてもおかしくないわよ?」

「罪に問われる可能性はあるわよねぇ」


詐病? わたし、具合が悪い振りをしただけなのに、犯罪になるの?!

そんな……。「どうしてもお見舞いに来て欲しい」って言っただけで……?!


「それにしても、自ら病弱だと言い張るだなんて、その幼馴染の女性は今後どうするつもりなのかしら?」

「嫁ぎ先ってこと?」

「そうよ。病弱なら、子供を産むのは難しいでしょう? 家を取り仕切るのも無理そうだし、貴族に嫁ぐのは諦めた方がよさそうね」

「普通はそうなるわよねぇ」


確かに、わたしにまだ縁談はきていない……。でも、好きな人と結ばれたかったからそれでいいと思っていたけど……。違うの?

そういえば、親友にも婚約者はいない……。親友を見ると、真っ青になっていた。


「そもそも、婚約者のいる男性に看病なんてさせていたら、その幼馴染にまともな縁談なんてこないわよ。愛人狙いなのかしら?」

「幼馴染の考えは書いてなかったわ。

物語の最後は主人公が婚約者を見限って婚約破棄して、他の男性に溺愛されて幸せになるの。主人公はハッピーエンドね。

それで、元婚約者の方は幼馴染の女性と結婚させられるの」

「『結婚させられる』って何? 幼馴染との間に愛はなかったってこと?」

「そうなの。幼馴染を優先してみせて、婚約者に嫉妬してもらいたかったのですって」

「ひどい男ね。結末は自業自得だけど」

「それ以外の感想が思いつかないわよねぇ」




──ガタン!!

すごい勢いで親友が立ち上がった。

「わ、わたくし、今すぐ帰らなきゃ! ごめんなさい、失礼するわ!!」

「え? ちょっと! ちょっと待ってよ!!」

親友は貴族らしからぬ速さで帰っていってしまった。

え……、わたしこれからどうすればいいの……?



     ◇



親友の好きだった人は婚約破棄されて、親友と結婚することになった。

親友は、夫の元婚約者から慰謝料を請求されて、しかも夫には好かれていなくて、ものすごく肩身の狭い思いをしているらしい。


……もう、親友なんて呼びたくないけど。

だって、彼女のせいでわたしは……。


わたしはあの女の子達が言っていた通り、好きな人に、もうすぐ儚くなるから我が儘を言っているのだと思われていた……。病弱というのが嘘だとわかって、「もう関わらないで欲しい」とまで言われてしまった……。

嫁ぎ先も見つからなくて、家族が毎日わたしをどうするか話し合っている。

ただ幼馴染が好きで、側にいて欲しかっただけなのに……。あんな子の言うことなんて聞かなければよかった……。

『病弱な幼馴染を優先する婚約者はいりません!! 〜今日から始まる溺愛生活〜』は、架空の小説です。

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― 新着の感想 ―
貴族的常識として他家の人に弱味を握らせる事は貴族的には死んだようなモノになるよね
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