優しい火傷
やり直せるなら…。
そんなのが私の口癖だ。
「お前にはやり直したい事はある?」
「ミャー」
隣の猫は優しく私の手を舐める。
最近現れたと思えばよく私を舐める。
「慰めてくれてるの?」
…私もあんたみたいに優しくなりたかった。
_
優しい火傷
_
私は油が怖い。
昔火傷をしたから。
私は炎が怖い。
昔火傷をしたから。
私は優しくなれない。
昔火傷をしたから。
私は最低なヤツだ。
昔お母さん達を殺したから。
…
…今日はもう終わった。
夜の公園の空は、嫌でも一日の終わりに私を包む。
朝の公園の光は、嫌でも一日の始まりに私を照らす。
「ミャ」
「どうしたの」
猫は私の頬を舐める。
私になんか優しくされる資格無いのに。
あんただけは私に優しくする。
どうしてなの。
「明日は仕事の面接に行くんだ。また働かないと。ご飯が食べれない」
「ミャ」
「おやすみ」
私はベンチの上でそっと目を閉じた。
…
始まる
「ミャー」
「…おはよう」
いつもうるさく鳴く。
「行ってくるね」
仕事の面接は清潔じゃないといけない。
なら先に銭湯に行かないと。
…
……
うん、朝の銭湯は空いてて落ち着く。
でも、ここは熱い。
お湯を浴びたら汚れが落ちてスッキリする。
けど、…
…あっ。
お湯の臭いが鼻につく。
お湯…熱…煙…
気付くと吐いていた。
あぁ、またか。
酸味が喉を抜ける。
視界が見えない。
赤くぼやけてる。
肺が痛い。
呼吸が出来ない。
どうしてだろう。
「…すみません」
銭湯のおばちゃんおじちゃん達に謝るのも何度目だろうか。
ここも出禁にされちゃうかな。
面接が終わる頃にも喉に残る酸味もフラつきも抜けない。
面接官は終始私の顔を見なかった。
……あぁ、無理だろうな。
「もしやり直せたら…」
帰りの夜道は嫌いだ。
足元が見えない。
あの時みたいに。
「ただいま」
「ミャー」
「今日はなんもないよ、ごめんね」
不思議そうに見つめるこいつは私が居ない間どんな一日を送ってるんだろう。
冷たい風が頬の跡を撫でる。
少し痛む。
ベンチの上に転がると終わりを感じるの。
ここに帰ってくるから。
遠くから微かに聞こえる車の音。
木や草むらの中にいる虫の声。
終わりを感じる。
「…油って嫌い」
「ミャ?」
しっぽがユラユラ。
「だってあれ熱いんだもん」
口をモゴモゴ。
「お母さん、熱そうだった」
「ミャアア…」
いや違う。
「私のせい…」
…もう寝よう。
今日は終わり。
「おやすみ、お母さん」
…
……
始まる。
「ミャア」
「…んっ、おはよう」
今日はご飯を買わないと。
あんたと、私の。
近所のスーパーに行く。
安いから。
スーパーや薬局はクーラーが効いている。
ここなら熱くない。
騒々しいけど、ほとんど耳に入らないの。
よく分からない異音。
パチパチと小さい音だけがずっと残ってる。
「…これにしよう」
安い唐揚げがあった。
からあげ…いつぶりかな。
数年ぶり。
お母さんが作ってくれたそれが好きだった。
見切りのシーチキンも買っていこう。
あいつの分…。
……
「ただいま」
まだ終わらない。
「ミャー」
「あんたのご飯。今開けてあげるから待って」
どこから開けるんだろう。
…真空パックは開けにくい。
「はい、詰まらせないでね」
クチャクチャと食い散らかしながら肉を咥えてる。
泥棒猫みたい。
私も食べよう。
唐揚げ弁当の蓋を開けた。
「……」
…不味い。
お母さんのやつの方が美味しかった。
お父さんの唐揚げより酷い。
「…あ」
そんなか細い声が出た途端、口からなにかが垂れた。
…苦くて酸っぱい。
そして、喉が痛いの。
「うっ…」
…最悪。
鼻が熱い。
体が痺れる。
それに口が震えて溢れ出して止まない。
冷えた油の匂い…それもなのか。
冷えててもダメなんだ。
「ニャー!」
ごめんなさい。
ビックリしたよね。
手が震えるせいで弁当すらまともに持てなかった。
もったいな…。
地面に落ちたそれすらもどうでもいいぐらい今は苦しい。
「はぁ…はぁ…」
怖い。
油。
嫌い。
熱。
唐揚げもダメなの。
そうなんだ。
…でも、どうでもいいや。
体の痺れが取れるまでベンチで大人しくしてよう…。
気付くと終わりが来た。
虫が鳴く。
遠くの車。
頬を舐める猫。
口が気持ち悪いから傍の蛇口でうがいをした。
鉄臭い水は落ち着かない。
気持ち悪い感覚は残ってるけど、痺れも喉の痛みを引いたから寝ようかな。
こいつが私の膝で寝てるせいでベンチから動けないし。
今日は座ったまま寝るようかな。
私は目を閉じた。
おやすみ、お母さん。
「……」
…今、誰かの声がした。
私を…呼んだ…?
辺りを見渡しても何もない。
でもわかるの。
今の声、お母さんだ。
心臓の鼓動で体と頭の中が揺れる。
肺が苦しい。
手足が痺れてきた。
「…ミャア…?」
足になにかが垂れる。
…
雫…?
…私泣いてるのか。
あいつがどいたから直に太ももに垂れる。
冷たい。
それに、息が荒い。
どうしよう。
わかってる。
わかってるよ。
もうお母さんは居ないって。
お父さんも真奈も。
みんな居ないって。
だって私が触れたから。
「そんな事ないよ」
やめて。
「大丈夫」
やめてよお母さん。
「泣かないで」
もうやめて……
お母さん、ごめんなさい。
「咲希…」
触れてごめんなさい。
だからもう、優しくしないで。
もし…やり直せるなら……
触れたくない。
__しばらくの間甲高い耳鳴りがして…また吐いた。
苦しい。
けど、私が苦しいと思ってそんなのおかしいよ。
私がなんて。
気付くと終わりは過ぎていて始まりが来ていた。
「ニャー」
「…おはよう」
声がほとんど出てないや。
猫にも声量まけた。
最低。
昨日は寝れたかも分からない。
どんな視界を見ていたかも覚えてないの。
けどなにかがずっとずっと聞こえてたのは覚えてる。
それと、お母さんの声。
瞼が重い。
体がなんか変。
思うように動かない。
今日は薬を買いに行きたいのに。
どうしよう。
頬と腕の跡が痛いの。
薬を買いに行きたい。
お母さんの腕にも塗ってあげたいな。
「油ってすぐ燃える広がっちゃうんだね。知ってた?」
「ニャ?」
「私も知らなかった」
「ニャアン…」
「真奈…痛かったのかな。赤ちゃんにもハッキリした痛覚あると思う?」
……
「私薬局行ってくるね」
痛む手足で歩くのは大変だけど、それでも行かなくちゃ。
公園を出る時、どうして猫はあんな目で私を見てたんだろう?
あんな、寂しそうな目…。
…どうでもいいや。
薬局はスーパーとかとちがって静かだし、熱くないけど…薬品臭い。
嫌いでは無いけどあまり嗅ぎたくないの。
鼻がおかしくなりそう。
「……」
薬局の広告や化粧品を見る学生の声で余計に頭が痛くなる。
うるさい所は…嫌いだ。
…昔は私もあんなうるさいやつだったのに。
「処方箋はお持ちですか?」
「はい」
いつも皮膚科で出された処方箋を出して買うんだけど…本当にこの薬は高い。
「7890円です」
「……」
「10090円お預かり致します」
「2200円のお返しになります」
「…」
「ありがとうございました」
この薬を買う感覚がどうも苦手。
これだけで済めばいいけど、ここから包帯に消毒液、ガーゼとかも必要。
公園なんて不衛生だし、あいつが舐めるから治りが遅い。
…もう治らないだろうけどね。
諦めてるよ。
私だけ治ったって、意味は無い。
けど痛いから、塗らないと。
痛いのは、嫌なの。
私がこれを言っちゃ…イケない…のだけど…
だけど…
……
痛いのは嫌。
…
今日はまだ終わってない。
学校のチャイムが聞こえて来てるから3時頃かな。
公園には時計が無いから不便だよほんと。
けどどうしてか時計を買う気にはならない。
基本時間なんて、どうでもいいから。
「ただいま」
「ニャー」
たく、こいつは。
ベンチに座るといつも私の膝に座る。
そんなにそこが好きなのかな。
…でもわかるよ何となく。
私もお母さんのお膝好きだった。
ゴワゴワな毛並みを撫でてると少しは気分は紛れる。
こいつが膝に座る代償だ。
…この臭いは…
「ニャ!」
猫は予測ができる。
あんたが降りたおかげで私がこの後どうなるかわかったよ。
この臭い、やだ…嫌だ…認識したくない。
けど、…けど……認識しちゃう。
これは、焦げる臭いだ…。
「くっ、はぁ”…ぁぁ…」
聞こえちゃう
お母さんの悲鳴。
見えちゃうの
お母さんの溶けた体。
感じたの
お母さんの焦げた手。
痛い、体が痛い。
…ベンチから落ちたんだ私。
肺が、足が、動かないの。
やだ。
苦しい。
助けて…
熱い、熱いよ。
視界も見え無い。
真っ暗だ…。
口の中がまた酸っぱいし。
あぁ…また聞こえる。
「咲希」
ごめんなさい。
幻聴に謝ってるなんておかしいのはわかってる。
けど…
「ごめんなさい」
けど…
「…ごめん、なさい」
私を助けようとしたせいで…お母さんは死んだ。
私が触れたせいでお母さんは焼かれた。
私のせいで、全部私のせいで。
「咲希はいい子だもんね」
昔あんなに褒めてくれてたのに。
「咲希は優しい子」
なのに。
悪い子だった。
「咲希…大好き」
…そんな言葉ももう聞けない。
それなのに聞こえる。
思い出してるのかな。
それとも幻聴なの?
分からない…
油が怖い、怖い怖い怖い。
熱い、熱い…痛い痛い…痛い痛い…!!
「ニャアア!!」
「…っ!」
…猫が、怒った…?
猫に、噛まれたの。
…気が狂ってたみたい。
今は……熱くないのに。
何をしているんだか。
「…んぁ…ぁ…はぁ…んぅ…」
…何度思い出しても慣れない。
お母さんの焦げた手が離れないよ。
……
呼吸が…安定してきた。
「ニャ、ニャ、ニャ…」
「…そんなに私の頬美味しい?」
「ニャ」
……
なんだか、本当にしょうもない。
そんな些細な事でこんなになるなんて。
どうして、私の肺が痛いの。
それはお母さん達なのに。
……
「ンニャ」
舐められた。
猫が鼻を舐めたりするのは愛情表現や慰めって聞いた事があるけどこいつはそれを私にしてるの?
優しさは私に価値を見出さないよ。
もう愛される様なやつじゃないのに…。
もしやり直せるなら…
言う事を聞いていれば良かった。
…
……
その後はよく覚えてない。
気付いたら始まりが来た。
「ニャ」
「…うん」
昨日の事でかなり疲れてるんだな私。
すごく、しんどい。
猫の挨拶にも返せなかった。
朝から心臓が痛い。
「はぁ…」
どうしてだろう、もう生きるのが辛い。
でも、お母さんたちは生きたかった。
…なら私は…私は、せめてその分生きなくちゃ。
離れた位置で今日は膝に来ない様子を見ると私…今日よっぽど変なのかな。
「…?」
雨だ。
最悪。
急いで遊具の下に行かないと。
ドームの遊具があってよかった。
止むまでここにいよう。
「ニャ」
やっぱりお前も来ると思った。
けど、私じゃなくてどこか違う所をずっとみてる。
「何見てんのお前は」
…
「…え?」
なんで…?
「…お母さん…?」
お母さんの後ろ姿が見える。
…どう、して……?
「…お母さん!」
あれは、偽物じゃない本物…っ!
だってしっかり見えるんだもん。
「お母さん!」
お母さん…!
…どうして
「あれ…」
どうしてお母さんは逃げるの。
私の手には水しか残ってない。
今そこにいたはずのお母さんに触れたはずなのに。
なんで?どうして?何が起きてるの…。
雨が次々と私の手に雫を作るだけなの。
どうして…。
…最初から居ないのか。
「……」
腕が痛い。
この前ナイフで自分を腕を切ったせいで傷口が染みる。
お母さん、私だけ生きててごめんなさい。
…
上手いこと息ができないまま今日の終わりが来た。
気づくと雨は止んだ。
これでようやく外に出れる。
あの後は結局寒かったからドームの中に戻ったの。
ようやくこの鉄臭い場所から離れられる。
れど外はもうすっかり暗くなっちゃてるな。
11時…いやもっと遅いぐらいな気がする。
家のライトとかもついてない。
…
「ニャ…」
私の足首にまとわりついて来ると踏んじゃうぞ。
…
「寝よう」
ベンチは濡れてるけど、もうなんでもいいや。
横になろう。
おやすみ、お母さん。
目を閉じよう。
…
始まりが来た。
今日は気分を落ち着かせたい。
そんな思いがあったからなのか、今日はこいつより早く起きた。
「おはよう」
「…ニャ」
今日は少し違う景色を見よう。
出来れば…熱くない場所。
昨日は一日雨だったせいで余計に疲れたんだ。
…
どこに行くか悩んだけど、ここは結構いいかもな。
森の中なんて普段は来ないけど、気持ちが落ち着いていく感覚がする。
熱くなくて…涼しい。
珍しい花も見つけた。
私には似合わないけど、こういうのもすき。
…
あいつの元に帰るまでも今日は何も無かった。
一度も発作も起こさない日。
…良かった。
「ただいま」
「ニャ」
夕方だけど、もういいだろう。
今日は寝よう。
「よし、お前はいい子だよな。ちゃんと言うことを聞ける」
今日は少し落ち着いてるのかな。
猫を撫でていたら腰に入れてたガラケーが振動した。
…
「…面接結果か。担当者の電話番号だよ」
「ニャ」
どうせダメだけど出るか。
「もしもし神崎です」
「あ、神崎様お世話になっております。○○書店の五十嵐です。この前の面接の結果なんですが本日は不合格とさせていただきます」
…そうだよね。
「あ、そうですか…すみませんありがとうございます」
「たの機会によろしくお願いします。それでは失礼します」
はぁ…知ってた結果とはいえ、最低な気分だ。
「お前の飯も私の飯もいつか食えなくなりそうだよ。このままだと」
あぁあ…
「…え?」
…
…遠くにお母さん居た気がした。
でも……うん、知らない女性か。
…お母さん。
…見てくれてるんだ。
おやすみ、お母さん。
少し早いけど、たまにはいいでしょ。
…
始まり。
「ニャー」
「…おはよう」
昨日とかは全然幻聴も聞こえなかったし嘔吐もなかった。
今日も大丈夫なら…いいな。
私も、いい加減認めないと。
お母さんたちは居ないって。
「なぁ」
「ニャ?」
「私が働けたらお前はどんな飯を食いたい?」
しっぽを振るだけで何も返さないのはこいつらしいからいいか。
今日は別の求人募集に応募してみるか。
…残りの貯金の量もそんなに多くない。
このままだと飯も食えなきゃ薬も買えなくなる。
____
この前の気分転換が良かったのだろうか。
しばらくの間は幻覚や幻聴を見ないで済んだ。
その間に何とか進めようと数週間の間、色んな募集に応募した。
けど、面接は落ち続けた。
一件、二件、三件…
次々と落ち続けた。
時間だけが過ぎ、幻覚幻聴もまた増えて来ている。
「…お前の魚肉私と分けっ子な」
猫と飯を分け与え、火傷の痛みに耐える日々が数日間続いた。
だって薬の塗る頻度を抑えないと…無くなっちゃう。
けど、痛い。
__
2ヶ月後ぐらいに来た終わりの時。
遠くでパチパチと誰かが博打を鳴らしてる。
パチパチパチパチパチ…
「……」
「うるさいな…」
…どうしよう、頭に油が浮かんできた。
温まり始めた油が頭をよぎり始めたの。
どうしよう。
「…ねぇ、こっち来て…」
「ニャ…?」
「…お前がいてくれるから何とか正気を保てるのかも」
私が無理に抱き抱えたせいで少し嫌がってるけど…ごめん、我慢して。
私今……怖いの。
足元が熱い。
火は無いのに体がベタつき、熱い。
熱い癖に風に当たると妙に寒い。
怖い。
熱い。
跡が痛む。
思い出す度に痛くなる。
「ねぇ、あんたはあの音怖くないの?」
バチバチ…!!パチバチ!
子供の笑い声が、妹と被る。
爆竹が、油の音と被る。
「ニャー」
「一緒に居ようね」
最近発作が出なかったから余計に胸が苦しい。
いつもより熱く感じる。
怖いから公園の離れにある木の下で耳を塞ぎ、こいつを抱き変えてるなんて…惨めだな。
私のせいなのに。
…
始まりが来た。
…
寝れなかった。
怖かったの。
寂しかったの。
だから。
「お母さんの声と混ざってなにかがずっと聞こえて来た夜だったの」
「ニャー?」
「だから嬉しかったよ」
木の下に座る私の横で今日はしっぽを振っている。
「でもね。遠くでお母さんの声が聞こえたと思うと耳元で認識できない声がずっと聞こえるの」
「ニャ…」
「お母さんが私を見て怒ってる声のかな」
「……」
「…あんたにはわかんないよね。ごめん」
今日は少し首や胸に違和感を感じるな。
吐き気があるって感じ。
…動きたくない。
けど……こんな寂しい財布の中身じゃ…。
「ご飯が食べれないのと苦しいのを我慢するのどっちが楽だと思う?」
「……」
「お母さんね。私が触れたせいで死んじゃったんだ。私を守る為に熱いのにフライパンから油を離せなかった。だから自分が頭から被っちゃったの」
「ニャア」
「お母さんの悲鳴、初めて聞いたなー。人が焦げた匂いも初めて嗅いだ」
…
「火元で遊ぶなっていう言う事を昔からちゃんと聞いていれば良かったのに」
「ニャン、ニャーン」
…もう無理なら、向こうに行こうかな。
花が揺れてる。
風が強い。
地面と擦れる車の音。
太陽の光。
それに加え気ままなこいつ。
何処と無く周りの物に納得できない。
「ニャー」
…こいつで癒されない訳じゃないよ。
「ニャー?」
塗り替える物が辛いだけ。
「ニャー」
「だからピンポイントに火傷跡を舐めるのやめてくれよ」
「ニャ」
何もしないで今日は終わりを迎えた。
何も出来なくなってきてるんだな私。
…どうしよう。
おやすみ、お母さん。
…
始まりが来た。
「ニャ」
「おはよう」
…なんだか今日はすごく天気がいいな。
子供の笑い声も聞こえるし、虫もうるさい。
こんな日は…お母さんと遊園地に行ったりしたいな。
またお父さんと家の庭で棚を作ったりしてみたいな。
「あんたはさ」
「…」
しっぽをフリフリ。
「家族とかいるの?」
「……」
ゆっくりフリフリ。
「あんたの友達は私?」
「ニャ」
楽しそうな口。
「そっか」
…
ごめんね。
「…あんたはさ、私を1人にしない?」
…
「…おいで」
……
…
「ニャー!!ニャッ!ニャ”…」
……
…
私は気付いたら猫を殴り殺していた。
近くにあった石で何度も殴りつけてたの。
「ごめんね、でも1人は嫌なの」
ごめんなさい。
手が震えてるけど、こうするしかないから言う事を聞いて。
最後ぐらい、言う事を聞いてよ私の手。
…
「さて……」
私もやらなくちゃ。
…”もしやり直せるなら”…
お母さん、またこの夏に…一緒に遊園地に行こう?
もうこの暑さの中で、熱い思いをもうしないで済むからさ。
あの3年前の夏みたいに。
___
先日、○○県△△市の触れ合い公園で遺体が発見されました。
遺体として発見されたのは神崎 咲希さん20歳。
近くには著しく損傷した猫の死体も放棄されており、咲希さんの首元は杜撰な切り傷が残っていた事や、酷く手足を損傷していた事から殺人を視野に入れて現在警察が捜査を進めております。
家電屋に映るニュースを見ていた1人の少女が言った。
「この子…可哀想」
その親も言う。
「両親の気持ちを思うと心が痛むわね」
世間は彼女に哀れみと優しを向けた。
けど、誰も彼女の事を知ら無ければ彼女も人々の声を知らない。
彼女が”もしやり直せるなら”世間の声も彼女には慰めになるのだろう_
………
「お母さん、ただいま」
「おかえり、咲希…」
優しい火傷 END




