11.ウォルター
親切を装って近づいてきた強盗犯を取り押さえ、再び塔に向け出発したアルマたち一行。さすがに衝撃が大きかったのか、つい先ほどまで旅を楽しんでいたウォルターも神妙な面持ちをしている。
「……アルマが言っていたことの意味が身に沁みて理解できたよ。法律なんて気にしていたら、ここでは生き残れない」
果てしなく広がるこの荒野に塔のような階級の概念は存在しない。ある意味で誰もが平等、公平であり、力ある者が奪い、なき者は奪われる。強盗犯が持っていた銃は、運転席側のサイドポケットに突っ込まれている。武器を失った彼らがこれからいったいどうなるのか、知ることは決してないのだろう。
「また助けられてしまったね。ありがとう、アルマ」
『いいえ、今回の件は不用意に隙を見せた私たちのミスです。あなたを危険に晒してしまい、申し訳ありません』
ウォルターが述べた礼をミコが即座に否定し、逆に謝罪の言葉を述べる。確かに、アルマの行動には警戒心が欠けていた。アルマだけならあの二人を制圧するのは造作もないことだが、ウォルターに危険が及ぶ可能性を失念していたのだ。
「ごめんなさい」
「とんでもない。むしろ貴重な経験をさせてもらったよ」
アルマの謝罪に、ウォルターは笑顔でそう応えた。
それ以降、アルマが自身の行動を改めたことも手伝い、大きな事件が起きることもなく旅は穏やかに続いた。
ウォルターはミコの指示に従い、食糧の消費が倍に増える以上によく働いていた。最初は警戒していたミコも、今ではアルマに対するのと同じ態度でウォルターに接している。
「なるほど、その妙な言葉遣いはジャパニーズ・サムライが由来だったのか」
「そう……でござる」
暇な車内や夕食のとき、ウォルターはアルマにコロニーでの生活について色々と聞きたがった。旅立つ前にミコから『MIに関する情報は他人に伝えない』よう指示されていたため、詳細を濁しつつではあったが、それでもウォルターは興味深そうに目を輝かせながらアルマの話に耳を傾けた。
夕食を終えると、アルマは運転の疲れからすぐに睡魔に襲われてしまう。ミコとウォルターはアルマが寝た後も何かしらの会話を続けているようで、アルマは二人の声を聞きながら眠りに落ちていった。
そんなふうに日々を過ごしながら二人と一体を乗せた車はひたすら北上を続け、ついにアルマたちは塔の麓まで辿り着いたのだった。
「高い……」
フロントガラス越しに塔を見上げる。しかし、その先端がどこまで続いているのか計り知ることはできない。また塔の根元部分もアルマが予想していたよりずっと太く、下手をすれば車で一周するのに一日以上かかってしまいそうだった。
「えーっと……ああ、入口はあっちだ」
ウォルターが指さす方向を見ると、塔のそばに大きな二つの影が並んでいるのが見えた。近づいていくと、その影は高さ2メートルをゆうに超える、厚い鋼鉄の装甲を纏い銃器を持って武装した人型のロボットであることがわかった。
「大丈夫。こちらから危害を加えない限り、安全だ」
ウォルターの言葉に従い、アルマは警戒しながらさらに近づいていくが、ロボットはその場から決して動くことなく、ただこちらを眺めているようだった。
ロボットたちの正面に回って車を停める。ロボットの背後には塔への入口と思われる巨大な門が鎮座していた。おそらく彼らは塔の門番のような役目なのだろう。
車から降りたウォルターが門番のもとへ歩いていく。接近したロボットの大きさと威圧感は相当なものだった。もし戦うことがあれば、さすがに無傷で済むとは思えない。
「やあ。『バベル』に、ウォルターが戻ったと伝えてくれるかい?」
よく見知った相手と接するような気安さでウォルターがそう言うと、ロボットはミコのように目の位置にあたる場所のランプを光らせた。そして次の瞬間、背後の門が音を立てて左右に開いていった。
「それから、彼女たちは僕の生命を救ってくれた恩人だ。僕の権限で入場を許可してあげてほしい」
ロボットが再びランプを光らせ、アルマとミコを見る。そして外側に下がり、門への道を空けた。どうやら入場の許可が下りたようだ。
「荷物は後で運んでもらうよう手配しておくから、そのままで大丈夫。さあ、行こう」
ウォルターがそう言うとミコが門に向かって進み始めたので、アルマも後を追う。開かれた門はまるで塔がアルマたちを飲み込もうと大きく口を開けているようだった。
ウォルターに続き、アルマたちもいよいよ塔の内部に足を踏み入れていく。中に入る直前、塔の外壁に手で触れてみる。これだけの巨大建造物にも関わらずまったく継ぎ目のない白く滑らかな壁は、触れただけでは何の素材なのかすら判別できなかった。
塔の中に入ると門扉はすぐに閉じられ、辺りが急激に暗くなった。僅かな明かりを頼りに、正面にまっすぐ続く通路を進む。
「最下層では産業用のMIロボットが常に稼働していて、居住区域はその上からなんだ」
通路の壁に触れてみると、やはり内装も外側と同じ素材で、やはり継ぎ目はどこにも見当たらない。そのまま歩いていくと、通路の突き当たりに扉のようなものが見えてきた。前に着くと扉は自動で開き、そのまま進むと再び自動で閉じた。
次の瞬間、浮遊感がアルマの身体を襲う。
「……ありがとう、ウォルター」
「礼には及ばない。さっきも言ったけれど、君たちは僕の生命の恩人だ。これくらいはさせてくれ」
上昇していくエレベーターの中でアルマが感謝を伝えると、ウォルターはひらひらと手を振った。
しばらくしてエレベーターが停止し、入ってきたのと反対側のドアが自動で開く。降りてすぐ、ウォルターが立ち止まった。
「残念だけど、僕にしてあげられるのはここまでだ。この先どこまで上に登れるかは君次第、でも君ならもしかして、上層まで辿り着けるかもしれない。また会えるのを楽しみにしているよ」
振り返ったアルマにそう言って笑いかけると、ウォルターは再びエレベーターに乗り込み、アルマの返事を待つことなく扉は閉められた。
『無事に第一の目的は達成できました。さあ、先に進みましょう、アルマ』
ミコはそう言って、通路の先に続く次の扉を開けるよう、アルマを促した。




