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自由って素晴らしい!  作者: ミカンかぜ
第一章【白蛇と黒猫編】
8/9

七話:匿名の魔女

 カルディールが出て行ってからというもの、リスタは暇をつぶすためにお菓子を片手に黒猫の名前を考えていた。ロマやこの黒猫が自分の心に呼応して現れた存在だと言うのなら、これから共に過ごすことになるだろうからだ。


「う~ん……メア、はどうでしょうか?」


「ニャーン」


「メア」


「ニャ~」


「うん。気に入ってくれたと思っておきましょう。今日からあなたの名前はメア。よろしくお願いしますね?」


「ニャー!」


 そうしてメアはリスタを見て元気よく鳴く。それがかわいらしく、思わずリスタはメアのことを撫でれば、自分も撫でろと言わんばかりにロマがリスタの手にすり寄ってくる。


「ふふっ」


 そうしてリスタはロマのことも撫でてやる。二匹とも心地よさそうにリスタの膝の上で大人しくしている。それを見てリスタが和んでいたその時だった。


「すまない。待たせたな」


 そうしてカルディールが姿を現した。


「いえ、ちょうどよかったです。この子の名前も付け終わりましたし」


「そうか。とりあえず戴冠の檻に関しては我々、シルディア帝国の騎士団が調査をする。それと、記憶がないんだったな。こちら側で仮の戸籍を用意しておこう」


「あっ、えっと……」


「なんだ?」


 リスタは記憶を失う前の自分が死刑宣告を受けた罪人だったと予想している以上、あまり国に経歴などを管理はされたくなかった。だが、こうなった以上仕方のないことなのかもしれない。そう思い、リスタが「なんでもありません」と口にしようとすると……


「……その恰好か?」


「っ?!」


「やはりな。だが安心しろ。お前はこの国の者ではないことは確かだ。この国で過去150年間のうちに逃亡した死刑囚の情報はない。お前が人間ではないなら可能性はあるかもしれないが、人間ではあるようだからな」


「ど、どうして……」


「ん?」


「捕まえたりとか……しないんですか?」


「捕まりたいのか?」


 そうカルディールが言った瞬間。部屋の空気が重苦しい物へと変わる。その圧迫感に押しつぶされてしまいそうだった。そして、そんなリスタを守ろうとするかのようにロマとメアはしきりにカルディールへ威嚇を繰り返している。


「…いいえ」


「そうだろうな」


 カルディールがそう言うと、その重苦しい空気はたちまち霧散し、そこにはただの応接室が広がっているだけだ。


「とにかく、俺から捕まえることはしない。お前を診てくれた医者にも口止めしてある。それと、あとでこの服を着ていけ。その方がいいだろう」


「え……な、なぜ?」


「……俺の知り合いに心器を研究しているやつがいる。そいつが今この町に来てるんだ。さっき出会ったときにお前のことを話したんだ。そいつにはいくつか借りがあるからな」


「それって……その……言いづらいんですが、私をその人に渡すために生かすってことですか?」


「まぁそうだな。それじゃあ……」


「待って!待ってください!」


「なんだ」


「話が急ですよ!」


「死ぬよりはいいだろう?」


「そ、それは……」


「わかったら早く着替えて俺の知り合いに会いに行け。医務室で着替えてこい。それから、医務室を出て右側突き当りの部屋にそいつがいる。俺はまだやることがある。それじゃあな」


 そう言ってカルディールが応接室を出ていこうとすると、ふと何かを思い出したように扉の前で止まり、まるで独り言のようにつぶやいた。


「まぁ、うざったいなら蹴りでも一発入れてやれ」


 そう言い残し、カルディールは応接室を出ていった。残されたリスタもロマとメアを連れて、着替えるために一度医務室に戻る。


「お話は終わりましたか?」


 医務室にはリスタを診てくれた医者がおり、リスタに変わらず笑みを向けている。


「あの……着替えてからカルディールさんの知り合いに会いに行けと……」


「あぁ、どうぞ。そこのベットを仕切るためのカーテンをお使いください」


 そう言われ、リスタはベットについている大きなカーテンを閉め、今自分が来ている死刑囚のための服を着替える。渡された服にはこの町に来る際にオリバーからもらったローブもあり、それを最後に羽織る。


「ありがとうございました」


「あぁ、いえ。それより、お聞きたいことがあるのですが……」


「はい?」


「カルディール様のお知り合いというのは、どのような?」


「えっと……心器の研究をしている人らしく……」


「あぁ!ジェーン様ですね」


「ジェーン?」


「この国で一、二を争う実力を持つ魔法師の方です。カルディール様の知り合いで心器の研究をしている方はジェーン様以外にいませんから、彼女で間違いありません」


「そ、そんな人と、今から私は会うんですか?!」


「ええ。でも優しいお方ですから、そんなに緊張しないでください」


「わ、わかりました。それではありがとうございました」


 そう言ってリスタはロマとメアを連れて医務室を出る。確か右突き当りの部屋にそのジェーンという人がいるらしいので、そこに向かって一直線に歩いていく。そうして扉の前に着くと、リスタは扉をノックした。


「どうぞ~!」


 明るい雰囲気を感じさせる声が、扉の向こうから聞こえてくる。その声を聞きリスタが扉を開けると、そこには頭に立派な角をつけた、リスタと同じくらいの見た目の少女がいた。


「あっ!君が記憶喪失の子だね?私は…ジェーン・ドゥ。匿名の魔女っていう肩書もあるけど、あなたはジェーンって呼んでね」


「わかりました、ジェーンさん」


「さんはいらない。ジェーンでいいよ」


「ジェーンさ……ジェーン」


「それでよし!」


 そう言うとジェーンは満足そうに鼻を鳴らす。


「君の戸籍はこっちで用意させてもらうから。あ、希望の名前があるならそれ採用するけど……」


「あ、それじゃあ、リスタ・ノートという名前にしてもらえます?」


「ふ~ん。それは自分でつけたの?」


「はい。それでこっちの白蛇がロマで、黒猫がメアです」


「おぉ~!心獣ちゃん!触ってもいい?」


「ど、どうぞ」


 そう言ってリスタはジェーンにロマとメアを触らせようとする。しかし、二匹ともジェーンを威嚇するばかりだ。


「ふむ……元気いっぱいだね~?でも怖くないよ~!ほらほら」


 そう言ってロマを触ったときだった。ロマは思いっきりジェーンに噛みつく。


「あっ!ロ、ロマ!ちょっと!ジェーンさん!早く医務室行ってきてください!ロマは毒蛇で……」


「ん?大丈夫。私、太古の悪魔だから」


 そう言ってジェーンは自分の角を指さす。悪魔族という種族にはさらに細かく種類があり、現魔、夢魔、そしてジェーンの種族である太古の悪魔である。現魔は魔力が多いが、純粋な力は悪魔族の中でも一番弱い。ただ一番弱いと言っても、人間と比べればはるかに強い。そして次に夢魔。夢魔は悪魔族の中でも魔力は少ないが、他種族に夢を見せ、その夢から夢を見ている者の魔力を奪い取ることができる。そして最後に太古の悪魔。魔力は夢魔よりも少し多いくらいで、個体差によっては夢魔に負ける者もいる。ただ、純粋な力としては悪魔族トップであり、体の免疫能力は全種族中トップである。太古の悪魔を毒殺できるものは未来永劫現れることはないと言われているくらいだ。


「まぁ、この子たちがこれだけ私に警戒するのもうなずけるけどね」


「なぜでしょうか?」


「心獣はね…あ、心獣のことは知ってる?」


「カルディールさんから聞きました」


「そっか。それなら心獣の生まれ方は省くけど……この子たちってね、心器を守るためにいるの」


「守る?」


「そう。心器ってね、心に根付く想いが変わらない限り、絶対に壊れることはないんだ。だけど、心に根付く想いが変われば簡単に壊れる。実際、過去にも心器を使ってた人が突然使えなくなったって事例はある」


 そう言ってジェーンは自分の手に噛みついているロマの頭をやさしく撫でる。


「心ってね、変わりやすいんだ。目指したものになったら、満足したら、疲れたら……すぐに変わっちゃう。何年も何十年も心器を使ってる人は、それだけ芯がある人。それか、それだけ目標にたどり着けない人。そんな心を守るために、心獣は心器を持つ主人に影響を与えそうなやつを遠ざけようとする」


「なるほど……」


「って、こんなこと話しといてなんだけど、この心獣ちゃんたちはただ単に、ご主人様以外の人たちに自分たちが触られるのが嫌みたい。慣れるまでこんな感じだと思うよ」


 その言葉に、先ほどまで出来上がっていた真面目な雰囲気が一気に崩れ落ちる。


「え?」


「あははっ。ごめんね?真面目なのちょっと苦手でさ~。だけど説明するためなら真面目な空気も作らないといけないわけ。ただ、さっき言ったことは事実だから、君の心に根付く想いに影響を与えそうな人が君に接触しようとしてきたら、多分近づいただけで殺しにかかると思うよ」


「いや、今でも十分殺しにかかってると思うんですけど……」


「え~?でも、ロマちゃんはさっきから手を噛むだけで毒液出してないし、メアちゃんも私の手ひっかくだけだから。やるならもっと私を殺せる方法でやるよ。例えば首を絞めたり、目をひっかいてきたり……」


「そ、そう、ですか……」


 本当にそうなのかわからないが、ジェーンが殺しにかかってきていないと言うのなら、殺しにかかってきていないのだろう。


(いや、でも……これを見て殺しにかかってきていないとは思っても、大丈夫だとは思えませんけどね!?)


 リスタは心の中でそう叫んだ。

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