六話:モフモフにょろにょろ
「ん……んむ……」
リスタは妙な寝苦しさで目を覚ます。しかし、目を開けても目の前は真っ暗だった。しかも呼吸もしづらい。
「んあ?今どうなって……」
何か目についているのかと思い、リスタが自分の顔を触ろうとすると、そこにはもふもふとした感触があった。何事かと思いそれを手でどかすと、そこにはリスタの顔の上に鎮座していた黒猫と、それに巻き付いているロマの姿があった。
「ロマ!無事でしたか!よかった……それから、この黒猫さんは……それにここは……」
黒猫がリスタの顔の上に乗っていたことにも疑問は残る。だが、それよりもこの場所についてだ。
「ベット……私、あの少女から逃げて……それから……」
「起きたか」
「え?」
リスタがぶつぶつとつぶやいていると、一人の男の声が入ってくる。リスタがその声のほうへと視線を向けると、そこにはいかにも陰鬱な雰囲気をまとった騎士がいた。
「調子はどうだ?」
「あ、えっと、特に問題ない、です……」
「そうか。まぁただひとまずは医者に診させる。大人しくしておけ」
「は、はい……?」
寝起きのリスタの頭では今どのような状況かをまだ呑み込めていない。しかし、時間はリスタが状況を整理するために泊まってはくれない。騎士が去って行ってから1分ほどで初老の医者がリスタがいる部屋に入ってきた。
「あ、あのお医者さん」
「はい、どうされました?」
「私ってなんでここにいるんですか?」
「あぁ、それは診察が終わってからお教えしますので、ひとまず今のあなたの体に異常がないか確認させてください」
「わ、わかりました」
そうしてリスタは身体に異常がないかいくつか診察され、特に問題もなくそれを終えた。
「それで聞きたいんですけど、なぜ私はここに?というかここはどこですか?」
「あぁ、ここは騎士が駐屯する宿舎の医務室です。それで、あなたがここにいる経緯ですが、顔が真っ青なあなたをカルディール様が連れてきてくれたんですよ」
「カルディール様?その人は今どこに……」
「ここだ」
リスタが医者にカルディールという人物が今どこにいるか聞こうとしたとき、リスタがちょうど起きた時に聞こえた声がまた入ってきた。
「おや、カルディール様。あの子どもに事情は聞けたのですか?」
「ひとまずはな」
カルディールと呼ばれた陰鬱そうな騎士は、医者にそれだけ言ってリスタのほうを見た。
「次はお前だ」
「え?」
「ちょっとカルディール様、まだ彼女は現状を理解していません。ひとまずは私が説明しますのでいったんお待ちいただけませんか?」
「ふむ…そうか、わかった」
そうしてその騎士は一度医務室を出る。そして再びそこにはリスタと医者だけとなった。
「すみません。カルディール様はいつもあんな感じなのです」
「は、はぁ…」
「さて、現状をお話ししましょうか。顔が真っ青なあなたをカルディール様が連れてきてくれたということは話しましたよね?」
「はい」
「よかった。それで、そこに至るまでなのですが、あなたが顔が真っ青で、さらにものすごく息切れをしている様子だったそうで、カルディール様が声をかけたところ、倒れ、そしてここに連れてきたのです。もちろん、あなたが背負っていた少年や近くであなたから離れなかったそこの2匹の動物も」
そう言って医者はさっきからリスタが座っているベットで遊んでいるロマと、黒猫を指さす。
「そしてその後、少年が先に目覚めました」
「あっ!その子は……」
「安心してください。その子はなぜ気絶していたのか取り調べを受けてから、先ほど家に帰されました。ただ、その子に何があったのかは私はまだ知りませんので、ここからはカルディール様にお聞きください。この部屋を出て左突き当りにカルディール様がいらっしゃいます」
「わ、わかりました。それでは。……ロマ、あと黒猫さん。行きましょう」
そうしてリスタは医者に一度礼をして医務室を後にする。
「……ロマはいいとして、黒猫さん。一体あなたは……」
廊下に出たリスタは、黒猫の体に巻き付いているロマを自分の首に巻き付け、黒猫を抱き上げてそう言った。
「ニャ~?」
もちろん猫なので人の言葉を理解しているはずもなく、ただ黒猫はリスタの顔を見てたまに鳴くだけだ。
「とりあえずカルディールさんがいる部屋に入りましょうか」
少し歩くと目的の部屋に着いた。そしてリスタはそこでノックをする。
「入っていいぞ」
「し、失礼します」
そうしてリスタはロマと黒猫を身に着けたままカルディールがいる部屋、もとい応接室に入る。そこには高そうなソファーに深く腰を掛け、何やら書類を見ているカルディールがいた。
「来たか。適当に座れ」
「は、はい」
「さて、どこから説明したものか……そうだな、まずはお前の身元だが…この国の人間ではないな」
「えっと……そ、そうなんですか?」
「……なぜそんな曖昧な返事をする?」
「いや、その、最初から説明しますね」
そうしてリスタは自らが記憶喪失であること。どこで目覚めたか。そしてどうやってこの町まで来たかをすべて説明する。
「なるほどな。それにしても、心器持ちか……フェレンダリオスの白槍だったか?」
「そうなんですけど、あともう一つあって……」
リスタがそう言うと、表情が全く動かなかったカルディールの眉がピクリと動いた。
「今出せるか?」
「今ですか?いいですけど……」
そうしてリスタが心器を顕現させようとした瞬間、ロマと黒猫がリスタの口をふさぎ、カルディールを威嚇し始めた。
「フェエッ?!モマ?ふほへほはん?」
「……いや、心器は出さなくていい。はぁ…規格外が二つも重なるとはな……」
—規格外
その言葉はリスタと、ロマと、黒猫に向けられていた。
「お前は心器のことをどこまで知っている?」
「心器のこと……ほとんど知りません。生物の心に呼応し、顕現する道具だということくらいしか……」
「そうか……まぁ、他にもいろいろある。心器を持っているやつは魔法が使えないとか、基本的に心器は一人一つ持っているとか……ただ、過去には心器を持っていても魔法を扱うやつや、一人二つ以上持つやつもいてな。そう言うのは心器持ちの中でも数少ない。まぁ、心器持ちが規格外なら、心器を持ちながら魔法を扱ったり、二つ持っているやつは規格外の中の規格外というわけだ。それで、お前のその感じだと、魔法は従来通り扱えないが、心器を二つ持っている」
「な、なるほど……」
「そしてもう一つ。心に呼応し、顕現する道具が心器だが、それと同時に顕現する動物がいるらしい。それを心獣と呼ぶそうだ」
「もしかして、それがロマと、黒猫さんですか?」
「あぁ、おそらくそうだな。心器は使い手の心に呼応して顕現する。それは、裏を返せば心器には使い手の心が刻まれているんだ。少ないだろうがそれを読み解こうとする者もいると聞く。おそらくその二匹は不要なときに心を読まれることを警戒しているんだろう」
「なる、ほど?」
「まぁとにかく、そういう理由で心器は出さなくていい。今度は……なぜあんな場所で倒れそうになっていたか。だ。答えてもらうぞ」
「あぁ、はい。ではまず——」
そうしてリスタはあの時路地裏で起きたことをすべて話す。そうして、あの場で起こったことを話し終え、リスタが「ふぅ」と息を吐くと同時に、カルディールは何かを考えるそぶりを見せ、立ち上がりリスタに言った。
「わかった。とりあえずここで待っていろ。それまではそこのお菓子でも勝手に食べて待っていろ」
そう言ってカルディールは応接室を出ていった。一人…いや、一人と二匹を残して




