一話:赤い羽
リスタ、ルティラ、ヴェンの3人は次の町、モーシュに到着してすぐに冒険者ギルドへと向かった。そこでルティラとヴェンの冒険者としての登録を済ませ、すぐに依頼に取り掛かる。リスタがEランクなのでCランク依頼まで受けることができるが、ひとまずDランクの依頼を受けておく。
「今日の依頼はこれです。メルディルマーの羽の収集です」
「メルディルマー?」
聞きなれない単語にルティラはリスタに聞き返す。
「そう言えばルティラはフロンツ王国の東側出身だったか?」
頭にハテナマークを浮かべているルティラにヴェンがそう聞いた。
「ええ」
「じゃあ知らねぇのも無理は無えな。メルディルマーは……まぁ、羽がクソ硬い、人間の子供の大きさの鳥だ。それ以外言うことがねぇな。まぁ、あとはフロンツ王国の東側には住んでねぇってことか」
「そうです。そして本来討伐しないと羽は手に入れられないのですが……」
「俺の出番ってわけだな?」
「ええ、怪我をしないのならそちらの方が良いですから」
そんな話をしながら3人は森の方へと向かっていく。すでに宿は取っており、ロマとメアはそこで留守番だ。
「Dランクの依頼ですから……まぁ、この3人でしたら0.5食分くらいですかね?」
「「え……」」
リスタの発言にルティラとヴェンの足が一瞬止まる。
「仲間が増えることはうれしいんですけど、そろそろお金の問題が……なので、今日はDランクの依頼を受けましたが、明日からCランクの依頼を最低でも2個は受けますよ」
「なぁ、ルティラ、どうやったら冒険者のランクって上がったっけ?」
「自分と同じランクの依頼を100回。または1つ上のランクの依頼を20回。または2つ上のランクの依頼を5回達成ですわ」
「俺らってFランクだけどCランク依頼をやってもランク上がるか?」
「大丈夫ですよ。まぁ、2人の場合はFランクの冒険者なので、Dランク依頼として依頼回数が加算されますが」
1度リスタはレピファとの任務について行ったときに確認したので、ちゃんと根拠はある。
「あ、ルティラ」
「はい?」
「宝石を使った魔道具があるなら隠しておいてくださいね。メルディルマーは魔力がこもったキラキラしたものを好みますから」
* * *
そうしてしばらくして町を出てから3人は森の中に入っていく。メルディルマーは比較的森の入り口近くにいることが多いのでそのあたりを集中して探す。しかし……
「居ませんね……」
「居ませんわ」
「声も全く聞こえねぇ」
3人で探しているというのにメルディルマーらしき影すら見ていないのだ。普通はこの時期にかなり見かけることがあるはずなのだが……
リスタとヴェンがそう思っていると、遠くの方から笛のような音が聞こえてきた。だが、普通の笛の音ではない。それはメルディルマーの、”仲間に危険を伝える合図”だ。
「ヴェン、聞こえましたか?」
「ああ、なんか声を聞く限り……仲間割れしてるっぽいぞ?」
「「仲間割れ?」」
「産卵期以外の時は群れで動いて、仲間割れしないような魔獣なんだけどな?」
そう言いながらヴェンは慎重に声のした方向へ進んでいく。そしてそれに続いてリスタとルティラもついていく。そうして向かっていると鳥のような肉食の獣のような声が聞こえてくる。ヴェンは何回も聞いたことがある。それはメルディルマーの声だ。3人がそれらの声に向かって言っても声が離れていくようなことはなく、同じ場所で何やら仲間割れをしているようだった。
「いったんこっそり見ましょうか」
リスタがそう言うと2人はそれに同意し、声の咆哮にゆっくりと近づいていく。やがて見えてきたのは数十羽のメルディルマーの群れが、1匹のメルディルマーらしき魔獣に対して攻撃を仕掛けようとしているところだった。
「——!」
メルディルマーの群れが何やら声を発している。それの一部をヴェンが翻訳し、2人に伝える。
「目を覚ませ。急にどうしたんだよ。って言ってるな。それにあそこにいる攻撃されてる1匹のメルディルマー、なんか変じゃないか?」
「私は見たことないのでわかりませんが、どこが変なのですか?」
「大きさと羽の色だな。メルディルマーは成長しても人間の子供くらいの大きさにしかならない。それに羽の色は茶色だ」
「だけどあれは人間の大人くらいの大きさで、赤色の羽ですわね……」
ルティラがそう口にしたとき、赤羽のメルディルマーは何か魔法を放つ。すると、木々の木漏れ日を突き抜けて炎の球体がぼとぼとと振ってきた。その光景を見て、その場にいた普通のメルディルマーたちは空へと避難する。
「っ!皆さん、こちらに!」
そう言ってルティラは結界魔法を自分を含めた3人の頭上に張る。
「やっぱりおかしい!メルディルマーは火属性なんか使えるわけないのに!」
ヴェンがそう言って自分の持っている戦斧に手をかける。
「2人とも、あれを仕留めるぞ!なんかやばい感じがする!」
「もちろんです」
「ええ!」
そうしてヴェンとリスタは茂みから飛び出し、赤い羽根のメルディルマーに攻撃を仕掛ける。しかし、普通のメルディルマーとは比較にならない反応速度でヴェンの攻撃を羽で受け止めた。鋼のような羽はヴェンの攻撃をやすやすと受け止める。だが、リスタの持つ白い槍の攻撃は防げず、苦痛により声を上げる。その絶叫はまるで金属同士をぶつけたような、耳につんざく音だった。
「っ!やっぱ普通の武器じゃダメか!」
「ヴェン!身体強化魔法が使えますよね?」
「ああ」
「じゃあ遠慮なく使ってください!トドメはルティラに任せましょう!それまで私たちでアレの体力をそぎますよ!」
「ああ!まぁ、だけど……先に仕留められるならそれでもいいよな!!」
「ええ、もちろんです!!」
そうしてヴェンは自分に身体強化魔法をかけ、メルディルマーに向かっていく。
「おらっ!!」
ヴェンは思いっきり戦斧を振り下ろす。するとまた羽で攻撃を受けられるが、今度は羽が衝撃を吸収しきれず、亀裂が入る。
「やっぱダメか…リスタ!」
「わかっています!!」
そう言うリスタの右手には真っ黒な鎌が握られている。それを地面に突き立てると、リスタの影が黒い鎖となって赤い羽根のメルディルマーをその場に縛り上げる。
「2人ともありがとうございます!!」
そう言ってルティラは詠唱の終わった魔法を赤羽のメルディルマーに向けて放つ。
「氷柱!」
すると、氷の柱が赤羽のメルディルマーを貫いた。鎖で羽を縛っていたおかげで簡単にそれがメルディルマーを貫く。
「ふぅ、ひとまずは……」
そうしてリスタが赤羽のメルディルマーを確認しようとすると、普通のメルディルマーの群れが空から降り、リスタに攻撃をしようとした。だが、それの間にルティラとヴェンが入り、ヴェンは攻撃を防ぎながら何かを話している。するとだんだんとメルディルマーの攻撃が弱まり、両者とも攻撃をやめ、話し合うだけとなった。
それからしばらくして、話し終わったヴェンがリスタとルティラにメルディルマーたちの事情を話し出す。
「苦しんだと思ったら、急に群れの一部の奴らがあんな姿になって、襲ってきたらしい」
「急に?」
「ああ、特に共通点はないんだとよ。それで、さっき俺らが倒したのが最後の1匹。他は仕方なく殺したってさ。で、俺らを襲ったのはただ単に人間がこの時期にメルディルマーをよく狙うから警戒してたってだけ」
「なるほど……そう言われるとこれから先メルディルマーを倒しづらくなるのですが……まぁいいでしょう。ひとまずこの異常なメルディルマーが気になります」
「異常な魔獣と言えば……」
「リスタが道中に話していた奴ですわね?」
ルティラがそう言うとヴェンも同意するようにうなずく。
「チューラ、フロートシープですよね?あれらと今回のメルディルマー……何かしら関係があると見たほうがいいですよね……」
3人が話していると、1羽のメルディルマーがヴェンに話しかける。
——?
「——」
「なんて言っているんですか?」
「なんか、さっき倒した1匹の羽をくれるらしい死体さえ残してくれればいいってよ」
「…群れで行動といい、今の発言といい、仲間意識が強い魔獣なのですわね?」
「えぇ、挙句には葬儀のような行為をするメルディルマーもいるらしいですよ?」
リスタがそう言うとルティラは驚きの声を上げた。
「葬儀なんて人間や、エルフ、ドワーフくらいしかしませんから驚くのも無理はありません」
そう言いながらリスタはさっき倒したメルディルマーの前でしゃがみ、胸の前で手を組む。
「——」
「何をお話ししているんです?」
そんな時、ヴェンがメルディルマーに話しかけたので、ルティラは内容を聞いた。
「あぁ、リスタがしてることの意味をこいつに教えただけだ。まぁ、俺たちに必要だったと言えど、こいつらの仲間の命を目の前で奪っちまったわけだからな。……ってことで俺らもしとくか?」
「そうですわね」
そう言ってルティラとヴェンはリスタと同じように胸の前で両手を組む。
「よし、こいつらもいいって言ってるし、せっかくだからいくつか羽をもらっていくか」
「「そうですね」」
そうして3人は十数枚ほど羽根をもらい、森を離れていくのだった。




