四話:戴冠の檻
リスタは路地裏へと足を運ぶ。その理由は一度リスタが休憩するためだ。馬車に乗っている間もロマはずっとリスタの首にマフラーのように巻き付いていたため、リスタは肩や首辺りが痛くなってきたのだ。
「ロマ、少し出てきてくれますか?」
リスタが路地裏の地面に座ってからそう言うと、ロマがローブから這い出た後、リスタの膝の上でとぐろを巻いた。
「う~ん……どうしましょう……」
リスタは自分の膝の上に乗ったロマの頭をなでながらこれからのことを考える。正直、様々なリスクやリターンを考慮して一番いいのが冒険者だ。冒険者であれば、依頼にもよるが報酬はそこそこよく、もしつかまりそうになった時に行方をくらませやすい。
「せめて冒険者ギルドに行く間だけロマを安全な場所に移動できたらいいのですが……」
そんな時、誰かの話声がリスタの耳に届いた。ロマもそれを感じ取り、すぐさまリスタの来ているローブの中に入る。
(隠れる場所は…あった!)
とっさに隠れられる場所を見つけ、そこにリスタは身をひそめる。やがてそこに二人の人物がやってきた。一人は背が高い女性。もう一人は大柄で傷だらけの男性だ。
「おい、いつまでこんなこそこそ動かなきゃなんねぇんだ?」
「そりゃあ、私たちの働き次第。そうでしょ?」
「大体なんだよ。そこら辺のテキトーな人間を捕まえるだけじゃダメなのか?」
「そんなの知らないわよ。だけどボスは私たちに子供を捕まえるように命令した。私たちは命令に従って動くだけよ」
(子供?捕まえる?!失踪事件の原因はあの人たちなのでしょうか?)
「まぁいい。とりあえず今日の目標は?そろそろあいつが連れてくるはずだろ?」
「ええ」
そう言って背の高い女性と傷だらけの男性はリスタが身を隠している場所の近くで何かを待つ。なのでリスタはその場から離れようと思っても離れることはできない。それからしばらくリスタが身を潜めていると、新たに二人の人物が来た。
「あら、フローラちゃん。遅かったわね」
「うん。ちょっと遊んでて」
フローラと呼ばれた少女は背の高い女性と顔見知りのようで、出会ってすぐに話し始めた。しかし、そのフローラという少女が連れてきた少年は背の高い女性と傷だらけの男性を見て少し怖気づいているようだ。
「とりあえずご苦労様フローラちゃん」
「うん。今日はこの子で終わり」
「え?ど、どういうこと?フローラちゃん」
「ん~?まだわかんないの?アレン君はやっぱり鈍いなぁ」
そう言ってフローラと呼ばれた少女はアレンと呼ばれた少年の首をつかみ、壁に押し付けた。
「な、何?!だ、誰か助けっ……」
「黙っといてよ」
そう言ってフローラはアレンの口を手でふさぎ、背の高い女性と傷だらけの男性を見た。すると傷だらけの男性はどこからともなく首輪のようなものを取り出した。それをアレンの首の取り付ける。
「もういいぞ」
「は~つっかれた!やっぱり私女の子と遊ぶのがいい。男の子は女の子よりバカだから楽だけど、絶望したときの女の子の表情のほうが好き」
そう言ってフローラはアレンから両手を離す。今のうちにアレンは逃げることもできるだろうが、なぜかそれをしない。
「それよりもさぁ、二人とも」
「何かしら?」
「なんだ?」
「わざとなのか知らないけどさ~、ネズミは放っておいたらダメじゃん」
そう言ってフローラはくるりと後ろを向いた。その時、フローラの視線がリスタと交わる。
「っ!!」
視線が交わった瞬間、背筋が凍る感覚をリスタは覚える。そして本能に従いその場から立ち去ろうとすると……
「アイス・フォール」
背の高い女性の声が聞こえたかと思うと、リスタが逃げようとした方向に氷の壁ができた。
「おいフローラ。気づいてたんなら言えよ」
「え~?だって、ばれてないと思わせれば思わせるほど、ばれた時のびっくりした表情がかわいくなるんだから」
そうしてフローラはにんまりと笑い、リスタを見た。
「ね~、そのフードとってよ。どんな顔してるのか見たいんだけど」
フローラがそう言った瞬間、リスタの懐にはすでにフローラがいた。それに驚き、リスタはしりもちをついてしまう。
「ふふん。ど~んな顔してるかな?」
そう言ってフローラがリスタのローブのフードに手をかけた瞬間、フローラの手に痛みが走る。
「痛っ!」
そのスキにリスタはフローラたちから逃げようとする。だが、フローラ以外の二人にすぐに追いつかれてしまった。
「ちょっとちょっと、うちのフローラちゃんに何してくれてんの?」
「はぁ……正直フローラはどうでもいいが、色々見られたからにはそれ相応の対処をしねぇとな」
(どうしましょう……フェレンダリオスの白槍……ううん。違う……なぜかわからないけど、フローラには効かないような……そんな気がします。どう、すれば……)
「色々考えてるけど無駄だよ~……ごほっ」
打開策をリスタが考えていると、フローラの声が聞こえてくる。そちらの方を見ると、傷だらけの男性に少しもたれかかりながら口から血を吐くフローラの姿があった。
「フローラちゃん?!どうしたの?!」
「ごほっ……なんだろ。毒かな?しかもこんな強い毒で即効性もある……ほんと可愛くないね」
「殺すか?」
傷だらけの男性がそう言うと、フローラは少し考えるそぶりを見せ、うなずく。
「私、お行儀の悪い子は嫌いだしね」
そう言うと、フローラは自分の顔に手を置いた。そうして手で顔を覆い隠し、再び顔を見せたかと思うとそこには、元の少女の顔はなかった。少年らしい顔つきであり、少し鋭くなった瞳はリスタを見据えている。
「グラスタの服っと……はぁ……種族を変えるのはやっぱり疲れるなぁ」
そうフローラが言ったとき、リスタは気が付く。フローラの耳は先ほどよりも少しとんがっており、背中には半透明な羽のようなものが見える。
「さ、君には悪いけど、死んでもらうね」
そう言ってフローラは何やら合図を出した瞬間、背の高い女性と傷だらけの男性が動いた。
「アイス・ランス!」
女性のほうがそう言うと、氷の槍がリスタ目掛けて放たれる。それをとっさに避けようとするが、避けたリスタを潰すように男が大剣を振り下ろそうとしていた。
「っ?!」
—死ぬ
そう思ったときだった。
「ニャ~オ」
猫の声がリスタの耳に届いた時、時間が一瞬ゆっくりになったかに見えた。そのスキに脳が回転を始める。そうして、とある言葉をリスタの口元へ運んできた。
「シェリルオーラの黒鎌」
つぶやきがリスタの影にしみる。次はリスタの影とつながっている建物の影にしみる。そして、一瞬影が震えた。
「ぐっ!」
「きゃっ!?」
震えた影は形を成し、真っ黒な大鎌と、そしていくつかの鎖となる。その大鎌をリスタが振るうと、鎖のすべては背の高い女性と傷だらけの男性を拘束した。
「心器持ちか~……そっかそっか」
フローラはそう言ってリスタを見た。かと思えば、彼女は一瞬でリスタと距離を詰め、そのみぞおちに蹴りを喰らわせる。
「うぐっ!」
リスタがよろめいた時、影でできた鎖の拘束が緩み、二人がそのスキに脱出した。
「あ~……まぁまぁか」
フローラがそう言うと、彼女はリスタに話しかける。
「心器持ちならさ~、条件をのんでくれたら生かしてあげる。どう?今貴女逆らったら死ぬ状況だからさ、この話、割とおいしいと思うんだけど」
「ごほっ……条件次第、ですね」
「貴女さ、”戴冠の檻”に入らない?」




