五話:貴女は食料で餌
いつもよりちょっと短めです
注文が終わり、しばらく待っているとお茶やケーキが3人の前に運ばれてきた。そうして初めてジェーンは真面目な顔になる。
「今日2人をここに呼んだのは……まぁ、本来はリスタちゃんだけの予定だったんだけど。まぁ、なぜ呼んだのかは、一旦2人ともこれを見て」
そう言ってジェーンは一枚の紙を差し出す。そこには、複数名の獣人の顔が乗っていた。情報を見る限り、レピファと同じくらいの年だった。
「帝都に一番近い町で獣人の子の行方不明者がいっぱい出てる。このことについてリスタちゃんに協力してほしくてね。レピファちゃんを呼んだのは、まぁ、一足早い注意喚起ってところかな?たぶんこれに関して情報が出るのは明日だから」
そう言ってジェーンは紅茶を一口すする。
「協力?」
リスタはジェーンの言葉にそう返すと、カップを置いたジェーンは一度頷いてまた話し出す。
「そう。私、今別件で手が離せなくてね……本当なら私が解決したいんだけど、国のお偉いさんたちが許可してくれないの。地位があるのはお金に困らないけど、上の奴らからの監視がめんどくさいんだよね」
そう言ってジェーンは大きなため息をつく。
「もちろん受けなくてもいいよ。本来君が持つ仕事じゃないし。それに、犯人は戴冠の檻だっていう予測もある」
リスタはそう言われ、少し考える。ジェーンには色々とよくしてもらっている。だから受けたほうがいいのかもしれない。ただ、リスタがそう考えていると心がざわめく。
「ニャ~?」
「『断らないの?』だそうです。リスタさん」
レピファがメアの言うことを翻訳し、リスタに伝える。
「……わかった、メア。……ごめんなさい、ジェーンさん。断らせていただきます。色々良くしていただいているんですけど……ロマとかメアのことも考えると……」
「まぁ、そうだよね……うん。大丈夫。強制するつもりはもともとなかったからね。聞いてくれただけありがたい。ま、こんなことは忘れて、食べたいモノ食べて行って。レピファちゃんももちろんもっと頼んでいいからね」
そうしてリスタとレピファはいくつかケーキを食べたあと、ジェーンにお礼を言い、リスタ、レピファ、ジェーンはその店を出ていった。
* * *
レピファはリスタ、ジェーンと別れ、現在泊まっている宿屋に向かっていた。
「ふ、ふふふっ」
レピファはいまだにジェーンと出会ったことの熱が冷めていない。不明の魔法。それはレピファが一番最初にあこがれた魔法。幻覚を見せる幻影魔法と少し違い、見た人によって見せる幻影を変えるという、緻密な魔力操作が必要な魔法だ。実際にはその魔法の仕組みをジェーンが公表していないので、ジェーンしかその魔法を使えないが、もし公表していたとしても、世界でもそれができる者は片手で数えられるほどしかいないだろう。
「やっぱり白蛇さんに会ったからですかね?今日は幸運でした。ふふっ」
レピファがそう呟いた時、後ろから声を掛けられる。
「白蛇?それって、女の子が飼ってる白蛇のこと?」
「え?だ、誰ですか?」
そこには見た目は人間の少女がいた。幼い。人間だとしたら9歳くらいだろうか。だが、人間よりも耳が長く、そしてぞっとするほような紅い瞳がレピファを見据えている。
「私はスノー・ブラッド。まぁ……わかってると思うけど吸血鬼族だよ。よろしく~」
「よ、よろしくお願いします……というか、まだ太陽出てますよ?!今は影に入ってますけど、危ないじゃないですか!」
「わお!やっさしいね~!でもこの姿でいるのには理由があってね……まぁ、それを言う前にまず私の聞いたことに答えてほしいんだけど?」
「えっと……なんて言ってましたっけ?」
「白蛇を見たことについてだよ。それって、白髪の女の子が飼ってる白蛇のこと?」
「あ、そうですそうです!リスタさんのこと知ってるんですね?」
「うん。友達だからね。それで教えてほしいんだけど、今リスタちゃんってどこにいる?」
「えっと……ジェーン様ってわかりますか?」
「ジェーン様……ジェーン・ドゥのこと?」
「そうです!ジェーン様のお屋敷に住まわせてもらってるみたいで……」
「ふ~ん……わかった。ありがと」
「いえいえ。それじゃ、私行きますね」
「あぁ、待って待って、貴女にも用があるの」
「はい?」
今宵は満月。太陽が沈むと同時にそれは顔を出す。陽光が沈み、月光が顔を出す。
「食事をさせてちょうだい?」
その声が聞こえた時にはもう、レピファの首筋にはキラリと光る牙が付きたてられていた。
「いたっ?!」
「ん…黙って」
スノーと名乗った少女は器用に血を吸いながらレピファの口元を手で押さえる。
「ん~!んん!」
「んく、んく……ぷはっ……はぁ~……ごめんね~?ちょっとだけ細工してこの辺りに他の人が近寄らないようにしたから、助け呼んでも来ないよ?まぁ、念のため口はふさがせてもらったけどね?」
「んんっ!!」
「それにしても可愛いなぁ~。警戒心とかないわけ?もう14歳でしょ?子猫ちゃん?」
そう言って少女はレピファの首筋についた自分の噛み痕をなぞった。ゾワゾワとする感覚がレピファの体に走る。恐怖と悪寒が合わさり、ついにはレピファの目からは涙がこぼれ落ちてしまう。
「あはっ!か~わい!本当は今、貴女の皮が欲しかったんだけど~……そんなに可愛い貴女には、まずリスタちゃんをおびき出すエサにさせてもらうね?その後にあなたの皮。ぜ~んぶ剝いで、私の服にしてあげる」
「んん?!んんん!!!」
「よく泳いで。いい餌になってね?」
少女がそう言うと、2つの人影は闇夜へと消え去っていった。




