三話:ネズミに追われて
リスタとレピファ、そしてロマとメアは今、夜の帝都を走っていた。なぜそんなことになったのかというと、始まりは11時間前の朝10時のこと。
—11時間前
リスタが帝都に来てから早10日。今日はジェーンの研究について協力しなくてもいいとのことなので、少し時間のかかる任務をリスタとレピファは受けた。内容は「チューラ」というネズミの魔獣の駆除だ。普通、魔獣と言えば、森などの人間たちが住んでいない場所に住んでいる。だが、彼らの生態はネズミと酷似しており、人間や、それらに似た種族の集落の食品などを喰らう。ただ、魔獣ではないただのネズミと同じならばこんな依頼は冒険者ギルドに舞い込んでこない。
なぜこんな依頼が冒険者ギルドにあるのか。それは、チューラが魔獣たらしめる力を持っているからである。そもそも魔獣はどの個体も心臓部に魔石という魔力の塊が備えられており、そのおかげで魔法を扱うことができるのだ。使える魔法は魔獣の種類によって違い、チューラは分身魔法を扱うことができる。その分身魔法は手練れの騎士や魔法師も間違えるほどの完成度で、チューラの魔法を研究していた者もいたくらいだ。現在はチューラが使う魔法の8割くらいの完成度の魔法があるが、やはりチューラほど完ぺきではない。
「今日はチューラ駆除ということで……目標数は100匹です!」
「ええ。そのためにメアと、それからレピファさんは初めて見ますよね。この子の名前はロマです」
現在リスタはローブを羽織っており、腕の裾からひょこりとロマが顔を出した。
「し、白蛇さんじゃないですか?!ふぇ~……私も幸運に恵まれるんでしょうか……」
そう言ってレピファはロマのことをじっと見つめる。が、あまりロマが人目に付くわけにはいかないので、サッとリスタはロマを隠す。
「ごめんなさい。ロマのことに関しては色々あって……またいつか話します。とりあえず今日はネズミの魔獣駆除ということなので、その天敵であろう2匹を連れてきました」
「そうなんですか……それじゃあ、早速行きましょう。あっちの路地裏でよく見かけるとのことなので、まずはそこから。」
そうして2人と2匹によるネズミ駆除が始まった。
「1匹捕まえました!もう1匹そっちに!」
「メア!そっちに行ったよ!」
「ニャ―!」
「シュルル」
レピファは持ち前の身体能力を生かしてチューラを何匹も狩り、リスタはロマやメアに手伝ってもらいながら狩っていく。チューラの死体はいくつかロマのお腹の中に収まり、他の死体は冒険者ギルドから支給された魔道具である特別な袋の中に収納した。そうして帝都の平民が住むエリアをいくらか駆け回っていると、いつの間にか時間は20時。昼食や夕食を挟みながらリスタたちは着実にチューラを駆除していった。
「よ~し!あと5匹ですよ!」
「やっと……つ、疲れ、ました……」
「大丈夫ですか?今日リスタさんと一緒にチューラの駆除をしてて思ったんですけど、いつもより体力無いような……?」
「あぁ……えっと……わたし、心器を出してない間は…体力がなくて……」
いまだにこのことに関しては何もわかっていない。ただ、2日前ほどにリスタがジェーンに言っているので、ひとまずの仮説をあと何日かすれば出してくれるとジェーンは言っていた。
「ちょっと……息を整え、させて、ください……はぁ、ふぅ……」
そうして息を整えたリスタを心配そうにみるレピファ。
「ごめんなさい。知っていれば無理にこんなことには……」
「いやいや。私がやりたくてレピファさんと一緒に依頼をこなしてるんですから、気にしなくて大丈夫ですよ。それに、そもそも言っておけばよかったことですし。それよりも、さ、あと5匹なんですからぱっぱとやっちゃいましょう!」
「そうですね」
そうしてリスタたちはチューラを探して町中を探し回る。すばしっこいので見つけても逃してしまうことも多々あったが、二手に分かれた後、30分ほどかけて残り1匹になるまで町中を探し回った。それから約3分ほど探し回り、ついに最後の1匹になるであろうチューラを見つける。
「いました。あれで100匹目です。最後は私とメアさんで捕まえます」
ひそひそとレピファはリスタに話しかけ、リスタがうなずく。もうすでに時間は20時30分を過ぎており、日は沈んでいる。夜ということで人間であるリスタはあまり役に立たつことはできないので、最後は夜目が効くレピファやメアに託すことにした。
「メアさん。私が先に行きますね……えいっ!!」
そうしてレピファは生ごみを食べあさっているチューラにとびかかった。が、今までのチューラよりも小柄でレピファの奇襲をいとも簡単にすり抜けてしまう。が、そのためのメアだ。レピファがチューラを取り逃したのを見て、即座にメアはそのチューラを抑え込もうとした。しかし……
「ニャッ?!」
そのチューラは逃げるために分身を作り出す。
「なっ?!」
今日捕まえてきたすべてのチューラの分身の完成度はすさまじく、においや触り心地もほとんど本物である。だが、その分身は触られるとすぐに消えてしまったり、そもそも分身を作ることのできる数が少なかったりなどの弱点がある。
そもそも、チューラは……というか、魔獣が使う魔法の精度などは個体差があり、この依頼で見てきたチューラが一度に出した分身は最高で3匹。3匹でも割と珍しい個体だ。だから、普通は1匹の分身を作るくらい。1匹の分身を作られたところで、こっちには猫の獣人が1人と、普通より知能の高い猫と蛇が1匹ずつ。1匹どころか2匹の分身を出されても確実に捕まえられるくらいには過剰戦力だ。ただ、この最後のチューラは違った。3匹どころか、2桁、いや3桁はいくであろう分身を作り出して一斉に散っていく。しかもこの分身は触ってもしばらく残り、十数秒後に消える。触り心地は本物なので、捕まえたと思ってもそれが偽物だったのは言うまでもない。
「レピファさん、大丈夫ですか?」
分身に何回か踏まれていたレピファにリスタは駆け寄り、声をかける。
「びっくりしました……あんなに分身を出してくるなんて……」
「本当にですよね……ど、どうしますか?」
「もう見失っちゃいましたし、また別のを探しましょう」
「はい。って、ロマ?メア?どうしました?」
急にロマとメアが暗闇に向けて威嚇の声を鳴らす。そちらの方を見たレピファも何かに気が付いたらしく……
「リスタさん!逃げましょう!」
「え?な、なんでですか?」
「大量のチューラがこっち来てます!」
「うぇ?!」
「早く行きますよ!」
そうしてレピファはリスタの手を引いて走り出す。走っているということもあり、体力を続かせるためにリスタは仕方なく町中で心器を出してレピファとともに走る。しかし、逃げるときのすばしっこいチューラの足で追いかけられ、ほとんど距離を離すことができない。そんな時、焦っていたせいで思いついていなかった事実にリスタは気が付いた。
「レピファさん!少し離れてください!」
「へ?」
そうしてリスタは足を止め、大量のチューラに向けて手元の夜の闇に溶け込むような鎌を振るった。すると、その鎌が当たった瞬間、チューラの分身が消えていく。魔法の破壊。シェリルオーラの黒鎌の本質。そのことをすっかり忘れていた。が、そのことにリスタは気が付き、こちらへと向かってくる分身に向かって次々と鎌を振り下ろしていく。何十匹かを消すと、チューラは危険を感じたのか、今度はリスタたちに襲い掛かるのをやめ、また逃げ始めた。
「あっ!逃がさないですよ!!」
そうしてリスタは自分の周囲の影でできた鎖を操り、範囲内のチューラを捕まえていく。だが、その中に本物はいなかった。
「はぁ……逃げられましたか……レピファさん、大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「よかった。……とりあえず今日は帰りませんか?この依頼の期限はまだ先ですし……」
「そうですね。帰りましょう」
そうして最も厄介なチューラを目撃した2人は、ひとまず今日は帰ることにしたのだった。




